「あのミュージカルは、豚肉が好きって話なの?」と、舞台を見ていたフランス人からの一言。
「だって、”私は豚肉がないと生きていけない”って言ってなかった?」と。
豚肉の話なんかいっさい出てこなかったのにな、、と思ったけど、それは彼がある勘違いをしていたから。理由が分かって二人で大笑い。
彼は一体どんな勘違いをしていたのか。
ー始まりはミュージカルのセリフー
それは、私が初めてミュージカルに挑戦した時のこと。その時の内容は、ミュージカルのオーディションに参加する人達のドラマを綴った物語。
私の役は90年代に舞台女優を目指し、夢破れ田舎へ帰り普通のOL。「でも、どうしても舞台に立つ事を諦めきれない!」というミュージカルへの衝動と、OLとしての安定した生活の狭間での葛藤の日々。
そして、あるミュージカルオーディションの広告を見つけ心が揺さぶられ、気づいたら申し込み、「あなた自身をアピールしてください」という質問に、私は思い切り髪を振り乱して歌う!絶叫に近いシャウトで、生バンド演奏で歌う!
そんなミュージカルでした。
ミュージカルなので当然、セリフを覚えないといけない訳ですが、私は昔から暗記が苦手…。失敗したらどうしよう…と考えてしまい、心臓が本当に口から飛び出しそうになっていました。
頭の芯まで、バクバクという鼓動が響く経験を本当にするなんて、思わず、心を抑えるのに必死…。そんな気持ちを抱えながらも、ステージは幕を開けた。
そこには、自然に仲良くなり、いつの間にかライブをするたびに、お知らせをするぐらい仲良しになった外国人グループが。週末になると、私たちのライブや演劇を楽しみに足を運んでくれるので、今回もいつも通り微笑んでくれ、私の演技にも熱が入る。
今日のミュージカルはライブハウスらしく、バンドメンバーと一緒に歌をふんだんに盛り込んでいるので、日本語がうまく理解できない外国人にも、楽しんでもらえる内容のはずだ。
ー言葉の勘違いは素敵で楽しい時間を作るー
緊張しすぎて、アドレナリン上がりすぎのまま、あっという間に舞台は終わった。そのあと急いで客席へ走る。帰ってしまう前にお礼を言いたい。
彼らを無事捕まえて
「今日はありがとう」と伝える。
初めてのミュージカルで、緊張しまくってた私に、彼らは「とっても楽しかったよ」といつも明るく返してくれる。
そのあとのこと
フランス人:「あれは豚肉が好きって話だったんだよね」
私:「え?どうして?」
フランス人:「だって、”私は豚肉がないと生きていけない”って言ってなかった?」
と、なぜかフランス人の彼は、豚肉の話・・・。
豚肉の話はいっさい出ていなかったのに、、、と思い考えてみると、その原因に思わず笑ってしまった。私は笑いを必死にこらえて、まず日本語を理解してくれた事に、感謝の言葉を伝えた。
そして、
「あれはね”私は舞台が無いと生きていけないよの”と言ったの。
No life! No stage! 舞台はstage、豚肉はmeatのことね。」
そのあと2人は大声で笑った。
彼は「ブタイ」と「ブタニク」を聞き間違えていた。
日本人の私が想像するに、
「この人は、”私は豚肉がないと生きていけない~!”と絶叫しながら歌っているんだ」
と思い、大笑いしていたに違いない。
外国人と同時に大声で腹の底から笑える瞬間!あぁ、嬉しい!言葉の勘違いって、こんなに2人の間の距離を縮めるんだ!
ー聞き間違い・言い間違いが仲良くなるスパイスー
英語を勉強していると、聞き間違えたらどうしようとか、言い間違えたらどうしようと思って、英語が出てこないとよく聞く。
でも、そうやって聞き間違えたり、言い間違えて、笑いに変わると、外国人との距離が一気に縮まると思う。
今日も、豚肉と舞台を勘違いしている彼らを見て、そんな勘違いがあるんだ!と、とても面白かったし、彼らとの距離も、以前より縮まった感じがした。
もし言葉が完璧になってしまうと、こんな勘違いも生まれなくなってしまう。下手な間だからこそ楽しめる二度とない時間。
そんな時間は、とても愛しい時間だ。間違えて話せない方がコミュ ニケーションは面白くなる。
私が単語を探り出す間、彼らは完璧な待ち受け体制を作る。私は単語を探して、外国人は私が何を言いたいのか探して、私はいつも長い時間、外国人と見つめあっている。
そして絞り出たシンプルな英語、伝わった時の喜びも、間違えていた時の笑いも、どちらも2人が笑顔になる。
コミュニケーションの最大の楽しみは、「間違いと誤解」から始まると思う。失敗する方が断然面白くて、仲良くなれるから。
京都が大好きで光華女子学園へ進学、卒業後、大阪の企業で経理課勤務。仕事が肌に合わず、夢だったイラストレーターを目指して大阪芸術専門学校へ。賃貸住宅ニュース雑誌社へ派遣社員として就職。その後地元へ帰り、地元のフリーペーパーやパチンコ店などのポスター制作するグラフィックデザイナー、ベジタリアン・ヴィーガンのお料理の先生、バンドのドラマー(ジャズ・ロック・軽めのフュージョンなどジャンルを問わず、地元ではセミプロとして活躍する。プロドラマー海野俊介氏に師事)、お琴奏者(趣味で名取まで取得)、演劇が好きで劇団にも少しだけ所属・・・など様々な経験を経て、英検3級しかありませんが、縁あって現在は、某施設で外国人担当のお仕事をしています。