昼下がりのニューヨークの地下鉄。車内は立っている人もいたが、比較的空いていた。
電車が走り始めてすぐ、車両の端に立っていた40代くらいの女性が大きな声をあげた。一瞬みんなの目が彼女に向く。髪の毛は長くてボサボサ、お世辞にもきれいな身なりとは言えなかった。
(うわぁ~、変な人だ。こっちに来ないといいけど…。)
彼女とは車両の反対側の方に座っていた私は、彼女から目をそらし、下を向きながらも彼女の動向を気にしていた。訳の分からない事を叫んだり、からんだりしてくるんじゃないか…。
そう思いきや…
彼女は言った…。
<え?何その言い分!>
「みなさん、少し私の話を聞いてください」
静かな車内に彼女の声が響く。
「私は、子供が3人います。離婚をしたので、夫はいません。一人で子供たちを育てなければいけないのです。しかし、病気があってなかなか働けません。
相談に行きましたが、政府は私たちに何もしてくれないのです。食べる物も十分になく子供たちはお腹を空かせています。」そのような事を言っていた。
車両の反対側にいる私にもはっきり聞こえる位の通る声で、彼女は堂々としていて、演説を聞いている様だった。
彼女の話しぶりには感心したが、(だからお金をくれって話ね。)と心の中はちょっと冷めていた。
彼女の演説は続く。
「みなさんは、私の事は知らないし、関係ないと思うかもしれません。ですが、今日、今ここで同じ電車に乗りました。
もう私とあなたは無関係ではないのです。あなたは私を知っています。だからどうか私と子供たちを助けてください。」
まるで、ここで出会ったのは運命だと言わんばかりだ。彼女からこの車両に乗ってきといて、乗り合わせたから関係あるなんて。すごいこじつけだ。だけど、彼女の話には説得力があった。お金を渡そうかと思ってしまうほどに。
それから彼女は、きんちゃく袋のような袋を持ち、乗客の前に差し出しながら車内をまわっていった。ほとんどの人は、私と同じようにうつむいて何もあげなかったが、何人かはお金をあげている様だった。
その人には丁寧にお礼を言い、端から端まで車内を回ると胸に手を当て
“Thank you. God bless you, everyone.”
(ありがとう。みなさんに、神のご加護がありますように。)
と乗客にお礼を言い、次の車両へと移動していった。
彼女の話が本当なのかは分からない。全部ウソなのかもしれない。けれど、彼女の礼儀正しく、毅然とした態度は、嫌な気持ちにはさせず、むしろ清々しく見送りたくなるものだった。彼女のような物乞いを私は初めて見た。
<Help me!>
海外では物乞いの人によく会う。
彼女のように堂々と訴える人は初めてだったが、彼女の様子を見ていても「物乞いをする」「他人に助けてもらう」という事は彼らにとって全く「恥ずかしい事」ではないのだと思う。「困っているのだから助けてもらって当然」という感じすらする。
一方日本では、ホームレスの人はいても物乞いをしている人を見ることはまずない。文化の違いだけかと思ったら、日本では物乞いは「違法行為」だったのだ。
それで、見る事もないし、私たちの中にも「物乞い、乞食は恥ずかしい事。してはいけない事」という感覚があるのではないかと思う。
物乞いが良いとは言わないけれど、本当に困っていたら声をあげてもいいんじゃないかと思う。助けを求めたり、他人を頼ったりする事が「恥ずかしい事」ではないと思う。
お金の事だけでなく、日本人には「人様に迷惑をかけてはいけない」とか「自分よりももっと大変な人がいるんだから、私は我慢しないと」と自分が困っていても、我慢したり、助けを求める事に罪悪感を持ったりして耐えてしまう傾向があるように思う。
大変な状況でも、それに耐えて、がんばる事が美徳であるように扱われる事もある。災害にあった人たちや今ならコロナの影響で苦しんでいる人達が、「大変だけどがんばります。」と言ってる姿が報道されると何だか辛くなる。
「大変だから助けて」「これ、お願い」と気軽に言い合える社会の方が、お互いに気持ちいいんじゃないかと思う。「助けて」と言われないと助ける方もお節介じゃないかと助けづらくなってしまう。
助ける時もあれば、助けられる時もある。お互い様だ。
もう一つは、英語のhelpは「助ける」と「手伝う」と両方の意味があるから、気軽に“Help me!”と言えるのかもしれない。実際に、ちょっと荷物が重い時に“Help!”と叫んでたり、 “Can you help?”と何か頼まれたりする事はよくある。この場合は、「手伝って」の意味あいが強いが、「助けて」ともとれる。
日本語で「手伝って」は言いやすいけど、「助けて」となるとすごく大変な時じゃないと言ってはいけない気がしてしまう。だから言いづらいのかもしれない。
“Help me.”だと「助けて」よりも軽い感じがする。今やHelpは日本語でもよく使われている言葉なので、「助けて」がハードルが高ければ“Help”を使ってみるのはどうでしょう?
普段から気軽に“Help me!”を言い合って、助けあう。
そうすれば、この世界はもっと優しく、思いやりのある世界になるのではないかと思う。
中学生時代から英語を話せるようになる事に憧れ、外国語短大へ進学。その後イギリスへ留学するも英語が話せず落ちこぼれの生徒に。英会話のトレーニング(カランメソッド)を受け英会話が上達。帰国後、夢だったツアーコンダクターになる。渡航国約35カ国 年間200日以上を海外で過ごす。その後オーストラリアにワーキングホリデーで渡り、オーストラリアにあるハミルトン島のリゾート会社に就職。その後日本に帰国し、京都のホテルやゲストハウスなどでの経験を経て、地元宮崎にUターン。現在は地元宮崎で、英会話教室及び、単位制、通信制の高校で英会話を教えている。
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