今回は,海外旅行でのトラブルのお話です。場所は,イギリスのマンチェスター空港(MAN)です。MANは,イギリスで3番目に利用客の多い空港で,イギリス国内・海外 147都市に移動できます。
海外旅行も本音を言えば,直通便は便利だけれど,航空運賃は高め。途中トランスファー(transfer)で中継する空港で時間をつぶすことになる乗換え便は,料金はかなり安くなったりします。
しかし,トランスファー(飛行機を乗り換える)での荷物の積み替え,引継ぎがうまくいかない場合もあるのです。
成田空港を出発した「私たち」を乗せた飛行機は,ドバイ空港へ,そしてドバイでトランファーの待ち時間が5時間。目的地マンチェスター空港に到着し,手荷物受取所のターンテーブルで荷物を待ちます。
乗客は,ターンテーブルから自分の荷物を次々にピックアップし立ち去っていきます。すでに30分たっています。「遅いなあ!」その時,荷物受取所のターンテーブルが止まった!
荷物が出てこない!
「え!ターンテーブルの番号が違っていたのかな?ここでいいよね?」8人の日本人が焦ります。
結局,30分経っても,私たちは,誰ひとりとして手荷物を受け取ることができませんでした。「私たち?」説明していませんでしたが,私たちとは,大学院に通う社会人学生です。
夏休みを利用し,リバプール大学大学院への国費短期留学でマンチェスター空港に到着したところです。手荷物を受け取り,Baggage Reclaim(手荷物受取所)を後にして,Passport Control(入国審査)後,隣接のマンチェスター駅からは鉄道で,リバプール駅へ向かうことになっています。
イギリスでは,手荷物受取所はBaggage Reclaimと表記されています。アメリカだとBaggage Claimです。イギリス人は,luggage を会話で使いますが,手荷物受取所は,baggageを使っています。
8人の手荷物が出てこないことから,これはドバイの飛行機乗り換えで荷物の積み替えがうまくいかなかった可能性があります。早速,空港の係員をつかまえて荷物が出てこなかったことを伝えます。
“Our luggage didn’t come out though we were waiting for a half an hour at the carousel No.7 “
(ターンテーブル7番で30分待っているけど,手荷物が出てこなかった)
と説明します。係員は,手荷物受取所の出口付近を指さして,事務所に行くように促がします。
そこでパスポートやら手荷物預り証などを提示して,自分たちの状況を説明しました。担当官は,私が説明することを聞いてくれます。しかし,担当官は私が何をしてもらいたいかを期待していたのです。
かなり時間がたってから,手荷物紛失報告書を記入することになります。つまり,自分たちの荷物が出てきた場合にどのようなにしてもらいたいかを話すべきなのです。
手荷物紛失の経験があれば,長々と説明することはなかったと思います。事務的に,手荷物紛失報告書を記入し,次の行動に移ればよいのです。
空港側にとっては,手荷物が届かないことは,日常茶飯事,良くあることなのです。同じグループの荷物が紛失してしまうことはありません。ロストバッゲージの97%は2日以内に見つかっているという報告もあります。
空港側からは,荷物が到着次第連絡し,宿泊ホテルに無料で届けるということを確認しました。空港でできることは,これだけです。この手続きをすれば,10分で終わってしまいます。
リバプールの街で買い物に走る
マンチェスター空港から,陸路リバプール駅へ向かいます。車中で,明日からの授業の話になります。夏の海外旅行なので,ジーンズやハーフパンツにTシャツといった服装です。
貴重品は機内持ち込みの荷物に入れていますが,下着や着替えの類は,預けた荷物の中です。長旅で汗をかいていいるけれども,明日着替える下着や授業に着ていくものがない。大変だ!
その時,旅慣れたひとりが,海外旅行保険の「航空機預託手荷物遅延」について口にします。6時間以上遅延した場合,手荷物を受け取るまでの間に必要となった衣類や生活必需品が補償されます。
すでに18時を過ぎており,店は閉店時間が近づいています。預けた荷物もなく,機内持ち込み荷物(carry-on baggage)を手に, リバプールの駅から,繁華街に繰り出し,必要な下着や生活必需品を買いまくりました。
観光目的ではなく,明日からの生活のために街を走り回る楽しさは,新鮮でした。様々な商品を目のあたりにし,イギリス人の生活が垣間見えました。リバプールの街は思い出深い街です。
担当者と話している?
ロストバッゲージは,予想通り次の日の午後にホテルへ連絡がありました。当日は,大学院での授業もあり,ホテルのフロント係が荷物引き取りの調整をしてくれました。
2日目の授業が終わりホテルに着いた時には,荷物が到着していました。
“Hello, your luggage arrived this afternoon. Check them and pick them up, please”
(荷物届いていますよ。自分の荷物を持って行ってくださいね)
フロント係の満面の笑みも忘れられません。チェックインした際に,フロント係とのやり取りを思い出しました。
フロント係の女性は,私の「マンチェスター空港で荷物が届かなかったんだ」という話に,すぐさま反応して,航空会社や手荷物の状況,グループの人数等を質問してくれたのです。
“Great service! You know what I want you to do!”
「かゆいところに手が届くね。」
私は,思わずつぶやいていました。
宿泊客の何気ない言葉から,状況を知り,客が何をして欲しいかを考え,必要な情報を確認する。まさに,プロフェッショナルな対応でした。
リバプール大学院での短期留学も終わり,帰国日のマンチェスター空港です。航空会社のカウンターで遅延証明を発行してもらいます。初日に購入した生活必需品等の請求を保険会社にするためです。
航空会社のカウンターに行き,荷物遅延の状況を説明すると,担当の女性は,丁寧に対応してくれます。ただ,聞くだけで,申請書を作成するとかといった具体的な話は全くありません。
空港でのクレームとホテルのフロント係の対応を思い出しました。目の前にいる航空会社の社員は,「クレームを聞くだけ!」の苦情係なのかもしれないと感じ,「発行の手続きをして欲しい」と切り出しました。
彼女は,すぐさま,カウンターを離れ,奥の事務所から男性の担当者がやってきました。手短に,手荷物の遅延証明書を出してほしいと頼んだところ,即,発行してくれることになりました。
「貴方じゃないと証明書は発行できないのですね」と問うと,「私が証明書発行の担当者ですから」と返ってきました。なるほど,しっかりと分業されています。
グループの8人が同じ便,同じホテルで宿泊したので,一緒に発行してくれと頼んだところ,
担当者は,申し出のあった私のことに対応することが,自分のすべき仕事であって,グループで取りまとめるサービスはないと説明しました。
仕事とは,目の前にあることをやる?
マンチェスター空港での手荷物受取所での係員の対応を思い出してみると,仕事のやり方が共通しています。日常的に起きる空港での事故の対応がパターン化(恒常化)しています。
目の前の事故に対して,適切に事務処理していく。次の日には,違う担当者がマニュアル通りに前の担当者の報告に従い処理をしていくというやり方です。
宿泊ホテルのフロント係は,「マンチェスター空港で,荷物が受け取れなくて大変だったよ」という私の言葉に,しっかりとプロとして反応し宿泊客に提供するサービスに必要な情報を聞き出してくれたのです。
日本人って,大事なことを後回しにして,自分の感情だけで物事を進めようとする傾向がありませんか。文句を言ったり苦情を口にしたりではなく,まずは「目に前の問題に取り組む」が
cool(かっこいい)かもしれません。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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