日本では多くのカタカナ英語が使われています。
テレビ,街中の看板,スーパーのチラシ…本当に多くの英語が使われていますよね。
なので,特に英語の学習をしてこなかった人も実はたくさんの英語を知っていたりします。
でも多くの人は,それがアメリカ英語なのかイギリス英語なのかを知らずに使っているのではないでしょうか。
例えば,車の「トランク」。
英語で書けば “trunk”です。
“trunk”はアメリカ英語。
イギリスでは, “boot”と言います。
では,車つながりで次の英語はどうでしょうか。
「ボンネット」, “bonnet”。
これはイギリス英語。
アメリカでは, “hood”と言います。
では最後に,「ハンドバッグ」 “handbag”。
“handbag”は,主にイギリスで使用される女性もののカバンで,
アメリカ英語であれば, “purse”というのが一般的なのです。
このように,アメリカ英語とイギリス英語をごちゃまぜにして覚えていることが多い日本。
だから,知らずに使って通じなかったり,学生であればテストで×になったりすることもあります。
そして,実は私の仕事上「困ること」もあるのです。
学生向け英語教材制作のちょっとした苦労
英語の教材を制作していると,基本的には文科大臣が認可する英語の「検定教科書」に基づいていろいろと制作します。
そして,その検定教科書は明記こそされておりませんが,基本的にはアメリカ英語がメインなのです。
私自身が原稿から書き下ろして制作する場合は良いのですが,ヨーロッパや香港の会社などと一緒にチームで制作するものには,イギリス英語が中心になっているものも少なくはありません。
そのため,アメリカ英語に変更する作業が発生することもよくあるのです。
例えば,スペルだと
dialogue (dialog)
colour (color)
centre (center)
practise (practice)
※( )内はアメリカ英語
など皆様もご存知の違いがあります。
しかし,子どもたちが使う教材にするためには,これらのスペルは間違いでもないのにアメリカ英語に変更していく必要があるのです。
イギリス英語とアメリカ英語の代表的な違い
このようにスペルだけなら良いのですが,単語そのものが違う場合もあります。
有名所でいくとズボン。
「ズボン」とは,もともとフランス語で女性がスカートの内側に履く“jupon”が語源という説と,履く時の擬音だという説もあるが,いずれも英語ではありません。
ご存知の通り,イギリスでは “trousers”,アメリカでは “pants”です。
そして次に「地下鉄」。
みなさんは,地下鉄を英語で言うとどの単語が頭に浮かびますか?
イギリスに馴染みのある方は, “tube” や “underground”で,アメリカに馴染みのある方は “subway”や “Metro”と答えたのではないでしょうか。
そんなことは知ってるよ!という方もいらっしゃるかもしれませんが,私が「イギリス英語だなぁ」としみじみ思うのは,駅や電車内でのアナウンス。
あ,わかった!という人もいらっしゃるかもしれませんね。
そう,それはロンドンの地下鉄でよく耳にする “Mind the gap, please.”というアナウンス。
このフレーズは,もはやロンドン名物と言っても過言ではないほど。
一方,アメリカ・ロサンゼルスのメトロでは,
“Stand clear of the closing doors, please.”
“Please stand clear. The doors are closing.”
のようなアナウンスが「車内」で流れます。
さて,このイギリスで使われている “Mind the gap, please.”。
もちろん,「足元(の隙間や段差)に気をつけて!」という意味です。
アメリカ英語であれば, “Watch your step.”と言う感じ。
この違いだけであれば,教材の途中でコラムやエッセイ的に「アメリカ英語とイギリス英語の違い」ということで紹介すればよいだけなのですが,文法問題や和文英訳の問題となると話は別です。
英訳だっていろいろあるし・・・
もしもテストで,「次の日本語を英語に訳しなさい。」という指示文で,
「問題1.頭(をぶつけないよう)に気をつけて!」とあったとします。
ある生徒は,“Watch your head!” と書き,またある生徒は “Mind your head!”と書きました。
また,しっかりと “Be careful not to hit your head!”と答える人もいました。
さて,どれが正解でしょうか。
そうです。すべて正解です。
ではもう一つ。
「問題2.私は週末に祖母の家に行きました。」を英訳してください。
生徒A: I went to my grandmother’s house on the weekend.
生徒B: I went to my grandmother’s house at the weekend.
weekendだから “on”でしょ?と思った人も多いかと思います。
実はこちらも両方正解です。
Aの “on the weekend”はアメリカで主に使われ,Bの “at the weekend”は主にイギリスで使われています
ここで問題となるのが日本の英語教育。
日本の英語教育では基本的にアメリカ英語が使われています。
しかも,「教わった内容で答える」ということが暗黙のルールになっていますから,授業で習った以外の表現は不正解とされてしまう場合もあるのです。
もちろん,よく理解している先生であれば両方を正解とすると思います。
しかし,「解答解説と違う」ということで不正解にする先生も少なくはありません。
標準的な英語って何?
文部科学省が示す学習指導要領(学校で指導する際の指導基準書)では,英語の発音について現在は,「現代の標準的な発音」とされています。
だれもが知っている通り,英語は多様です。
オーストラリア英語,カナダ英語,ニュージーランド英語,シンガポール英語…
英語は発音,語彙,文法などそれぞれの英語圏の国々が特徴を持つ言語のため,現代では “World Englishes”と “English”を複数形にして呼ばれているほどです。
それくらい多様な英語であるにもかかわらず,学習指導要領には「標準的な英語」とされるに留まっています。
でも「標準的な英語」っていったい何でしょう?
「その国」「その国」の英語は,「それが標準」であるわけです。
日本人が勝手に抱く英語のイメージが標準ってことなのでしょうか。
今回の教科書改訂でも,中学校の検定教科書に使われている英語は,音声も含めてほぼすべてアメリカ英語なんですよね…。
日本の教育が示す「グローバル」の違和感
今年から始まった大学共通テストのリスニング問題には,アメリカ英語だけではなく,イギリス英語や,日本語を母語とする話者の英語の音声でも出題されています。
これは,「より多くの英語に触れ,世界に通用する日本人の育成」のためであるということは想像に難しくありません。
この大学入試共通テストの実施要項にも,「リスニングの読み上げ音声については、問題作成方針に示すとおり、多様な話者による現代の標準的な英語を使用する。
※試行調査(プレテスト)においてもアメリカ英語、イギリス英語及び日本語母語話者による英語の音声で出題」
と記載されています。
「アメリカ英語だけではなく,グロ―バルな英語も聞き取れるようにしよう!」というのはわかります。
でも,ここでとってつけたようにグローバルな英語として,「アメリカ英語」「イギリス英語」そして,なぜだかわからない「日本語英語」…。
他にも英語はたくさんあるのに,なぜここで日本語英語?
しかも,基本的にアメリカ英語で学習してきているのに?
という疑問がわいてくるのです。
これって,子どもたちや指導する先生たちの負担が増えるだけではないのか,と。
「いろんな英語に慣れておく必要がある」ということで,この大学入試共通テストだけを変えるというのは無理があると思うのです。
「いろんな英語に慣れる」のであれば,小学校からの英語も,イギリス,アメリカ,ニュージーランド・・・と,様々な英語を教科書やテストに登場させないと行けないと思うのです。
でもそれってやっぱり違うんですよ。
「まずは使える英語を身につける」のが先!?
だから,そのようなことをしなくても,「日本の英語教育は,基本的にまずはアメリカ英語で指導している」と名言すればいいのでは,と私は思うのです。
そうすれば,学習者も指導者も「これはアメリカ英語なんだ」と意識できますし,違ったスペルや文法,発音に遭遇したときに「あ,これはアメリカ英語ではないんだな」とわかると思うのです。
そこからまた興味関心も膨らんで来ると思うんですよね。
どの英語をメインにしても良いので,「いろんな英語に慣れる」には,まずは「基礎的な英語力をつけてから」で良いと思うんですよね。
その基礎的な英語力をつける指導として,「日本はアメリカ英語で指導している」で良いと思うのです。
そこをはっきりとさせていないために,学習者は,「え?これスペルが違うのはなぜ?」「英語で地下鉄は “subway”でしょ?」のような疑問が出てきて,「英語は難しい」と思う子どもたちを作ってしまうことに繋がりかねないと思うのです。
私自身,アメリカ英語を学習し,生活もアメリカ英語でしたが,イギリス,ニュージーランド,オーストラリア,シンガポール…の人たちとも仕事をしてきました。
その都度,確かに「言っていることがわからない・・・」ということもありましたが,最終的には「ああ,ニュージーランドではこういう発音なんだ」「こういう表現をするんだ」と,すぐにわかるようになります。
まずは,英語を「使える」ように教育するのが先,「そのメインで学習する英語が日本ではアメリカ英語である」というであることを明確にするだけでも,学習者の混乱は避けられると思うんですよね。
「どこの国の英語が世界標準か」ではなく,英語は多種多様であること,
そして「使える英語を身につける学習」を!
日本の英語教育はまずそこを明確にし,目標としましょうよ。
と,Cozyは声を大にして言いたいのです。
英語教材開発・制作者
米国留学から帰国後、幼児・児童英語教師を経て、中学・高校英語、受験英語、時事英語等多岐にわたる指導を行い英語教師経験を積む。また、ホテル勤務での実践英語経験を積んだり、カナダにて現地の子どもたちの英語教育にも携わりながら、CertTEYL(世界での児童英語講師認定コース)の認定を受ける。さらに、青山学院大学でTutoringの研究員としても活動。英語講師養成のeラーニングコースの日本での立ち上げメンバーとなる。「現場での経験を教材に活かしたい!」と、現在は英語教材開発会社にて日々教材開発に勤しむ。高校入試用のリスニングトレーニング教材(塾・学校向け)は累計10万部以上のベストセラーとなる。英語教材開発の傍ら、全国の英語教師への研修なども行う。また、土堂小学校(広島県尾道市)での英語指導や、初の民間校長として一躍時の人となった藤原校長(当時:杉並区立和田中学校)が手掛けた英語コースの指導に2年間携わるなど、英語教育に関する多様な分野で活躍。大の犬好きから、ホリスティックケア・カウンセラーなどペット関連の様々な資格を取得し、ペットライターとしても活動中。