彼女の言葉に、私の顔は一瞬、引きつってしまった。
「マキ、その歯、変だよ。」
衝撃的なこの言葉を私に言ったのは、当時イタリアのペルージャで、一緒に住んでいたルームメイトのお母さん。彼女は南イタリアの小さな村からはるばる娘に会いに来ていたのだ。
彼女の名前は”Tranquilla”(トランクイッラ)。イタリア語でTranquilloは「静か」という意味。つまり、彼女の名前は日本で言う「静さん」。
なのだが、彼女は全く持って「静」ではなかった!(;^ω^)
煙草をスパスパ吸い、ダミ声の大きな声。市場で働きながら、女手一つで娘を医大にまで出した肝っ玉母さん。
そんな彼女に言われたのだ。「その歯、変だよ。直した方がいいよ。」と。
しかもそれは、まだ会って、3分くらいしかたっていない時の事。
「えらいド直球な人やなぁ~。〇〇〇みたいや…」
イタリア人と大阪のおばちゃん
確かに私の前歯は曲っていた。生え変わりがうまくいかず、斜めに生えてきてしまっていたのだ。
子供時代には親から歯の矯正を勧められたものの、その当時はまだ矯正をしている子は少なく、何より歯に針金が通って醜く見えるのが嫌だった。それで、ずっと矯正を拒み続け大人に。
しかし、ツアコンになり、海外に行くようになると気づいたのだ。外国人はみんな歯並びがいい!逆に歯並びが悪い人は、きちんと教育を受けられてないような人、そんなイメージさえもった。
それで、私も自分の歯並びの事が気になっていたし、添乗員の間でも歯の矯正を始める人が結構いた。
そんな時に彼女からズバッと指摘されたのだ。「歯が変だよ」と。
自分で自覚はしていても、急に、しかも会って間もない人から言われるとやっぱりショックは大きい。しかし、関西に住んで鋭いツッコミには慣れていた私。
「えらいド直球な人やなぁ~。大阪のおばちゃんみたいや…」
そう。イタリア人も大阪のおばちゃんも言う事が直球なのだ。良く言えばオープンな人。だけど、ズバズバと思った事をはっきりと言われると傷つく事もある。
私も田舎の宮崎から関西に出てきたばかりの時は、関西人の激しいツッコミや、直球の物言いに、「私、攻撃されてる?いじめられてる?」と傷ついたものだ。
彼らに悪気はなく、単純に「思った事を言った」というだけ。「こんな事言ったら傷つくかも?」などとはあまり考えてないようだ。
トランクイッラもそんな感じだった。私の歯を見て気になったから言っただけ。
本人は「歯を直した方がいいよ」という親切心で言ってあげているとさえ思っているかもしれない。
ありがた迷惑のような親切心やおせっかいも大阪のおばちゃんと似ている。
でも実際、そのお陰?で、私はイタリアから帰国後すぐに歯の矯正を始めた。「会ってすぐに言う位なんだから、やっぱり私の歯はよっぽど変なんだな」と気づいたからだ。
あの時、歯の矯正に踏み切るきっかけをくれたのは間違いなく彼女だし、矯正後、海外でも堂々と歯を見せて笑えるようになったのも彼女のおかげだと思っている。
トランクイッラに限らず、イタリア人を見ていると大阪のおばちゃんを彷彿とさせる。
食べるのが好きなところ、おしゃべりが好きなところ、そして「お金の話が好き」というところ。
ルームメイト同士や家族、親せきなどが集まったときなど、話している内容は大抵お金の話が多い。何を買うにも何をするにも最初に議論するのはお金の事だ。
例えば、服を買ってムールメイトに「これ、今日買ったんだ~」と言って見せる。と、必ず最初の発言は「いいね~」とか「かわいいね~」とかではなく、「いくらだった?」
私が「〇〇ユーロ」と答えると、初めて「お~!それならいいね~!すてき!」となる。もちろん値段は、「安い方がいい買い物をした」という事になる。
コミュ力高っ!
そんなイタリア人と大阪のおばちゃんを見ていて、「すごいなぁ、彼ら最強やなぁ」と思う所。
それは、「コミュ力が半端ない!」ということ。
イタリア人も、大阪のおばちゃんもイタリア語のみ、日本語のみでもちゃんと会話を成立させているのだ。
添乗で行っていると、大阪のお客様から、「これ、まけてもらわれへんか聞いて」とお土産物屋などで言われる事があった。
基本的に値切るのは苦手な私は「どうですかねぇ。安くなりますかねぇ~」と渋ってると、「ええわ。自分でやってみるわ」と言って、自ら乗り出す。
それがイタリアだと、見ているだけで本当に面白い。
まずは値段交渉。
お客様:「これ、30ユーロで。OK?」
これでええやろ?というように店員さんを覗き込むような表情でお金を出す。
イタリア人店員さん: 目を見開いて驚いた表情のあと、たまったもんじゃないよ~というような表情で「NO, No. No! 40euro!」と首を振る
お客様:「え~、あかんの?じゃ、35ユーロ!もうこれ以上は無理やで。」
がっかりしたような表情を見せた後、「これで最後やで」という強い眼差しで5ユーロ付け足す。
店員さん:「No,No….」
おい、おい、勘弁してくれよ~という感じでおでこを手でたたき、首を振りながら手を広げる。そして、頼むよ~と言う感じで両手を合わせて拝むように「40euro…」。
安くならないと分かってもただでは引き下がらない。
お客様:「わかったわ。兄ちゃん、じゃぁ、これ、おまけで付けてぇや~」と言って、つけてもらいたい物を持って来て、買うものと合わせる。
「はい。これで、40ユーロ。いいね。」
と「もう決まった!」というように堂々とお金を渡し、笑いながら品物を持って帰ろうとする。
ここまでくると店員さんも「もう参った~!」という感じ。「OK.OK! Grazie!」と苦笑い。
「ありがとう!」と満足気な様子のお客様。
これが、安くなった時は安くなった時で「やるや~ん!」と店員さんの肩をたたいて、「グ~ッ」と親指を立てて笑う。
時にはイタリア人の店員さんものって、肩を組んで二人で揺れたり、手をつないでダンスを始めたりするような事もあった。
コントのようなイタリア人と大阪のおばちゃんのやり取りに「彼らほんと最強やわ~」と感心する。私は英語で会話はできるけど、あそこまでの交渉や深いコミュニケーションはなかなか取れない。
「英語ができないと、海外では話しができない」とか、「英語が話せればもっと旅行も楽しめるのに」とか思いがち。
でも、「英語ができなくても、英語を使わなくてもこれだけの事ができるし、楽しめる」といういい例だと思う。
そもそも英語を使う目的は、相手との会話、相手との「コミュニケーション」。
世界でも英語を話す人は多いので、英語を使えればそれだけコミュニケーションも楽になる。だけど、英語ができれば全部OK!という訳ではない。
英語を話せない/話さない人もいるし、英語が片言の人もいる。むしろ英語圏以外の国ではそういう人たちの方が多い。
そういう人たちとコミュニケーションをとるには? やっぱり英語で話しますか?
英語が分からない人には英語で話しても、日本語で話しても一緒の事。「言葉」では全く伝わらないんです。
言葉でお互いに伝わらない時、どうするか。
イタリア人や大阪のおばちゃんがやっていたように、身振り手振りと顔の表情で伝えていく。これが彼らはピカイチ!
ボディーランゲージもLanguageと付くように、英語と同じ立派な「言語」の一つ。
相手とのコミュニケーションが目的なら、フォーカスすべきは「英語を話す」という事よりも「自分の言いたい事をどうやって相手に伝わるように伝えるか」
要は「相手に伝わる」という事が大事で、その方法はどうだっていいと私は思います。だって、完璧な英語を話しても、相手に伝わらなければ意味がないんです。
英語は単なる「コミュニケーションツール」の一つ。だから、英語が使えなければ、別の「ツール」、別の言語、またはボディーランゲージを使えばいいんです。
私も海外に行ったり、外国人と話したりする時には、自然とリアクションやボディーランゲージが大きくなります。
それは、「自分の考えがより相手に伝わりやすいように」と思う気持ちから、知らない間に身に着けた技なのかもしれません。
持ち前のオープンさとひょうきんさ、大きなリアクションと豊かな表情やボディーランゲージを駆使してコミュニケーションをとるイタリア人や大阪のおばちゃん。
彼らには「言葉での会話」を超えた人と人の交流があり、それを楽しんでいる。それは、見ているこちらまで笑いたくなるくらいに楽しそう♪
世界の人たちと交流する事って、本当に楽しいんです!
「私も英語ができれば世界中の人たちと話しがしたいわ!」
と思ってませんか?または、「世界中の人たちと話しがしたい」と思うからこそ英語を学んでいるという人も多いでしょう。
それなら、英語がまだできなくても、先に会話を楽しんでしまえばいいんです!
「英語をマスターしたら → 世界中の人たちと話せるようになる」という順番でなくていい。
英語が片言でも、世界中の人たちとコミュニケーションを楽しむことはできる!イタリア人や大阪のおばちゃんたちがしていたように。
必要なのは、彼らのようなオープンマインドとボディーランゲージ!顔の表情、体、全部を使って「言葉の会話」を超えた人と人との交流を体験してみましょう♪
世界の人たちと交流する楽しさを知ったら、きっともっと英語も使いたくなるはず!
中学生時代から英語を話せるようになる事に憧れ、外国語短大へ進学。その後イギリスへ留学するも英語が話せず落ちこぼれの生徒に。英会話のトレーニング(カランメソッド)を受け英会話が上達。帰国後、夢だったツアーコンダクターになる。渡航国約35カ国 年間200日以上を海外で過ごす。その後オーストラリアにワーキングホリデーで渡り、オーストラリアにあるハミルトン島のリゾート会社に就職。その後日本に帰国し、京都のホテルやゲストハウスなどでの経験を経て、地元宮崎にUターン。現在は地元宮崎で、英会話教室及び、単位制、通信制の高校で英会話を教えている。
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