20年前の、2002年9月26日。
アフリカの西でタイタニックよりも悲惨な沈没事故が起こったことを、あなたはご存知ですか?
沈没した船の名はJoola号。
2000人以上を乗せた船が、たった十数分で沈み、助かったのは数十名。タイタニックは乗客約2200人中700人以上が救助されたので、数の上だけでもそれ以上の惨事が起きたのです。それもたった20年前の出来事です。
犠牲者の中には500人位の大学生。未来の国の精鋭が一瞬にして命を奪われたセネガルには、さぞ大きな損失だったでしょう。乗客が定員の3,5倍程。最初から船が傾いていたのに、「よくあること」と、誰も気にも止めていなかったそう。
そんな傾いた船が嵐にあい、あっと言う間の転覆と浸水。直前まで大勢の人が歌い踊っていたそうですから、本当に一寸先は闇ですね。
このように昔から危険と背中合わせの船。実はそんな命がけの船の過酷さを窺わせる語源が英語にあるんです。
船と言うと普通思いつくのがshipやboatでしょう。でも今回取り上げるのは、NAU(ナウ)という別のDNA 。ただ意味は船。このNAUを含む単語を3つ…noise(騒音), nausea(めまい), navigate(誘導する)などを見てみたいと思います^^
騒音と眩暈が船酔いから?
まず最初はnoise(ノイズ/騒音)。あなたは、綴りが変で意味も繋がらない…と思うかも。単語DNAは9000年位の歳月を経た古い語源。文字がない時代の方が長かったようです。だからNAU(ナウ) がnoi..(ノイ…) みたいな発音や綴りになっても無理はないかも。
さてDNAの「船」とnoiseの「騒音」の意味。全く別に見えますが、どういう関係なのでしょう。
あなたは船酔いの経験はあるでしょうか。私は何度か。荒れた海ではひどい酔いで戻したくなることがざらに…noiseの「騒音」は船酔いのゲーゲー吐く音が元らしいのです。大昔、船って本当に揺れたんでしょう。
さて次はnausea(ノーシア/めまい)。nauの部分は単語DNAのNAU(ナウ)そのままです。nauseaも船酔いに関係しそうです。「めまい」は元々船酔いの「めまい」だったのが、めまい一般に広がったのかも。
↗ noise (ノイズ/ゲーっと吐く音→騒音)
NAU (ナウ/船)→(船酔い)
↘ nausea (ノーシア/船酔いのめまい→めまい一般)
カーナビは船ナビ
日本語でよく言うカーナビのナビ。英語ではnavigate(ナビゲイト/誘導する)。この単語のnav-に、同じ船のNAUがあります。
多少細かくなりますが、-igate(-イゲイト)は「駆り立てる」意味のラテン語から。全体では「船を駆り立てる」。それが「船を操る」やがて「案内・誘導する」になったと考えられます。
ただ「駆り立てる」って少し違和感があるかも。でも英語なら「駆り立てる」はdrive。drive a carのdriveです。車の運転って、実は「車を駆り立てる」ことだったんですね。
NAU +ラテン語「駆り立てる」→ navigate (船を駆り立てる) → 船を操る → 誘導する
なぜ報道されないのか
冒頭のJoola号に戻ります。相変わらず何年たっても報道されないまま。あなたもこの記事を読むまでは聞いたことがなかったかも。一体なぜこれほど報じられないのか不思議ですよね。
いったい何故でしょう。少し考えてみてください。
私が考えた理由は、まず起きた時期のこと。Joola号が沈没したのは2002年9月26日。ニューヨークの同時多発事件から、ちょうど一年と2週間後。
高層ビルが崩れ落ちた中継はショッキングでした。9.11は全てのニュースを霞ませるトップニュース。その日付周辺の出来事の扱いが、9.11のアメリカ同時多発テロよりも、少なくなってしまうのは、ある意味仕方のないことかも知れません。
ですがもう1つ、理由があるのではないかと。それは、差別主義です。
Joola号に乗っていたのは大部分が黒人。だから報道されにくいのではないだろうかということです。これを指摘したのが、フランスの新聞ル・モンド。
ル・モンドはJoola号事件をすぐ報じた稀なフランスの新聞。20年前仏検受験をしていた私、その記事が偶然目に。昔の記憶を辿るとこんな感じでした。
「どちらも人命が多数失われた。だが9.11とJoola号事件の報道量は雲泥の差。これは黒人と白人、命の価値が違うと言うのと同じだ」と。
お前はどうだと問われた気持ち。そして自分にも同じ差別感情が、自分でも気付かないうちに少しあるのかもしれない…、と思い至り当時愕然としました。
アフリカで起きた沈没9.26とアメリカ本土で起きたテロ9.11。毎年9.11の報道一辺倒になる理由には、やはり人間の皮膚の色についての誤った見方が反映している…考えすぎなのでしょうか。
遅まきながらでも関心を
生存者の中には、よく眠れなくなった方もいたそうです。縋り付く人々を振り払いながら泳いだ記憶…海に沈んでいく顔を10年間夢で見たそうです。悪夢はその後消えたのでしょうか。
Joola号が世界中でニュースになるのを20年待ち、きっと待ちくたびれた多くの人々…関係者の苦しみが20年後の今残っていても不思議ではありません。
今更ですが、私にできることないか考えました。何もできないのは承知です。でもそれでも何かと…一つありました。自分ができる易しいこと…それはJoola号への関心を持つこと。平凡ですが、私でもまた誰にでもかなりし易いことなのでは。
有名な言葉ですが、マザーテレサが言っています「愛の反対は憎しみでなく、無関心だ」と。
私はいつも偉そうなこと口にするばかり。でも今回の小さな記事、読んで頂き有難うございました。あなたはきっと心優しく意識が高い方。そうでなければ読んでもらえなかったかも。
あなたの心に点いたであろう9.26への関心の灯。他の人も照らすようになるといいですね。
P.S.
現在唯一のJoola関連の英書。これを直接利用でき、世界を広げる英語の力と有難みを改めて感じました。
Pat Wiley. JOOLA, Africa’s Titanic: True Story from One of the Worst Maritime Disasters in History 2013.
私立学校に英語教師として勤務中、40代半ばに差し掛かったころ、荒れたクラスを立て直す策として、生徒に公言して英検1級に挑戦することを思い立つ。同様の挑戦を繰り返し、退職までに英検一級(検定連合会長賞)、TOEIC満点、国連英検SA級、フランス語一級、スペイン語一級(文科大臣賞)、ドイツ語一級、放送大学大学院修士号などの成果を得る。
アメリカで生徒への対応法を学ぶ為に研修(地銀の助成金)。最新の心理学に触れた。4都県での全発表、勤務校での教員への研修を英語で行う。現在も特別選抜クラスの授業を全て英語で行っている。「どうやって単語を覚えればいいですか?」という良くある質問に答える為、印欧祖語からの派生に基づく「生徒には見せたくない語源英単語集」を執筆中。完成間近。常日頃洋書の読破で様々な思考にふれているが、そうして得た発想の一つを生かして書いた論文がコロナ対策論文として最近入賞。賞品の牛肉に舌鼓をうっている。元英検面接委員