「東京喰種(トーキョーグール)って漫画知ってる?」と、イギリス人留学生の女の子から聞かれた。
東京喰種(トーキョーグール)は、どっちかというと、マイナーな漫画。
でも私は、「知ってるよ」。すると、「これ見て!」とイギリス人留学生から見せられたのは、東京喰種(トーキョーグール)のアニメの主題歌を歌う男の子の動画。
それは今流行りの「演奏してみた!」ってタイトルのYouTubeの動画。普通に主題歌を歌っているのではなくて、途中にアヒルのおもちゃが大きい声で鳴いたり、面白い音が沢山入っている。
「うわー、すごい!!!面白いと」と思わず笑ってしまう私。
「東京にいる友達が送ってくれたの」と言いながら、イギリス人留学生の女の子は嬉しそうに笑った。その顔はあまりにも子供っぽい。
###彼女との出会いはライブハウスだった
私は今の施設で働く前から音楽が大好きで、バンドを組んでドラムを演奏していた。そのうち、演奏だけでは飽き足らずライブハウスでアルバイトまで。
当時ロックのライブ演奏イベントが頻繁にあり、毎回同じメンバー数名の外国人の団体が来ていた。挨拶をするうちに、お互い顔を覚えていったのだけど、その中で一番年上の、いつも一眼レフを持って写真を撮ってくれていたドイツ人が、今の私の上司。
そして、赤い髪を耳から上半分以上刈上げ、顔には4個以上のピアス、銀色のビスがついた皮チョーカーを首につけ、イギリス国旗の柄のスカート、黒い厚底ブーツ、とイギリスパンクファッションで固めた、どこをどう見ても生粋のイギリス人だと分かる女の子が、冒頭で漫画の話で盛り上がった女の子。
でもこの時はまだ、私とは世界が違うこんなすごい人とは友達にもなってもらえないだろう、というのが第一印象だった。
###職場でまさかの再開
その後、今の施設で働くことが決まり、外国人のお世話を担当することに。ただ、実験室は数か所あって、施設内の実験室へは、私たち事務員は暗黙の了解で絶対に立ち入らないし、他は車で15分ほどの離れた場所にあるので、なかなか研究者と会うことがない。
外国人のお世話を担当する私としては、外国人の研究者と仲良くすることが私のこの施設での最 初のミッションだったので、実験施設から研究者が帰ってきたら、いつも真っ先に挨拶をしてまわっていた。そのうち外国人に会うだろうと思って。
ある日の夕方、実験施設から研究者が車で帰ってきた。ぞろぞろと降りてくる研究者と学生たちの中に何やら赤い髪の人がいた。 何か見覚えがあるような・・・?と思ってじーっと見ていると、そうあのイギリス人女の子ではないか。そして、いつもライブハウスに一緒に来ている外国人もいる!
「留学生って、ここで研究してたの?」と、思わずイギリス人留学生に私は声をかけてしまった。 彼女もだけど、いつもライブハウスでしか会ったことがない外国人もみんな驚いていた。私はみんなに「マサ」と呼ばれていたので、みんなは一斉にこう言った。
###日本での生活はサバイバル
やっと、担当する外国人の留学生と会えた私の次のミッションは、「言葉の壁を越えて仲良くなる」。外国人と一緒に仕事をするなんて初めての経験。どうやって仲良くなるのか、何を話したら、相手の心を掴めるのかも分からない…。私は悩んでいた。
ライブハウスで会うときは挨拶程度のコミュニケーションでいい。時に面白いことをして、みんなが笑ったらその場はOKだ。
だけど、私からの仕事の説明やお願い事があるときにスムーズに聞いてもらわなければいけないし、彼らも、私に相談しやすい環境をつくる必要があったので、ここではもう一歩踏み込んで仲良くする必要があった。
彼ら外国人の留学生にとって、日本に住むということはサバイバルに他ならない。街の小さな飲食店では、英語のメニューも提示していない。市役所へいっても英語で対応してくれる事は皆無。
住居・車の購入・保証人・税金・年金・・・と彼らが理解できず頭を悩ませる日本のきまりことがたくさんある。それらを少しでも助けたいと、当初私は熱い思いを抱いていた。
でも、今一つみんなと打ち解けられないまま、数か月が過ぎた。この施設で働きはじめたころの熱い情熱も冷めはじめ、こんな感じで卒なく過ぎていけばいいのかも、と思い始めた頃だった。
###突然訪れた転機
そんな時、施設長秘書の女性が「石倉さん相談あるんだけど、ちょっと来て」と、私に話しかけてきた。
彼女の部屋に呼ばれ、注意されるのかしら?仕事で失敗したのかしら?と、ドキドキしながら座っていると、秘書の彼女はゆっくりした口調を、さらに何か言いづらそうにゆっくりと話し始 めた。
「あのね、イギリス人留学生の女の子知ってるよね。彼女、急に今の部屋を出なきゃいけなくなってしまったの。そこで、頼みづらい相談だけど住むところを探すの手伝ってくれない?」
彼女の任期はあと1年ほど。外国人が部屋を借りるのは大変で、2年契約で敷金・礼金・保証人が必要だ。当時彼女は1年ぐらいで帰国するので、なかなか新しいアパートを借りることができないというのだ。
その頃、私は新しいアパートへ引っ越しをするところだった。私が引っ越し前に住んでいたのは古い一軒家で、大家さんもかなりの高齢の夫婦。だから、大家さんにお願いして、私が引っ越した後、イギリス留学生をその一軒家へ住まわせてもらえないか?というのである。
この話は案外とスムーズに進んだ。イギリス人留学生の女の子は、うるさい音楽大好きな派手な風貌とは裏腹に、純和風の家を自分のお城としてかまえることになった。彼女は私にこう言った。
「私のイギリスの実家なんて、何十年も前に作ったものなの。だから今でもレンガで作られた佂戸に火をつけて、鶏肉を焼くのよ。私、古い家と畳は大好きなの。」
(え?畳?)と心の中でつぶやきながら、私は意外な一面を見て彼女の秘密を知ったような気持ちだったが、本心だろうか?または、ただのお世辞なのだろうか?どちらもきっとyesだろう。
とにかく、イギリス人留学生は日本での留学生としての任期を終えるための拠点ができた、彼女はそのことにとても感謝していたようだ。そして、日本人に似た感覚で私に寄り添い、感謝の気持ちを伝えてのだろう、と私は思っている。
後にわかった事だが、イギリス人は時々日本人のような気遣いを見せる。
ここでほんの少し距離が近くなった。
###きっかけは「アニメ」
さて、無事に引っ越しを済ませたイギリス人留学生、彼女のお困りごとにいちいち対応する事になった私は、思わぬ形で忙しくなった。
さて、無事に引っ越しを済ませたイギリス人留学生、彼女のお困りごとにいちいち対応する事になった私は、思わぬ形で忙しくなった。
その後、私はこれからの時間をどうしたらいいのか少し途方にくれていた時、イギリス人留学生が口を開いた。
「東京喰種(トーキョーグール)って漫画知ってる?」と。そこから意気投合した私たちは、 Youtubeの動画を見て笑い合っていた。ライブハウスでクールで笑わない表情しか知らなかった私は、外国人留学生の意外な一面を知って距離が近くなる。
「ねえ、同じ施設の日本人の学生の●●君て、アニメ”ドラえもん”の”のびた君”そっくりなじゃな い?」と私が言うと
「あははは、そうだね!」とイギリス人留学生が笑った。本当に面白いと思っている時の顔だ。
初めて、外国人と英語で笑って、こんなにも長い会話をした。それから、私の話す事を真剣に聞こうとする彼女のブルーな目は、面白い物を逃したくない子供のように輝いていた。
それからアニメの話や、同じ施設の中の人の事を2人で話した。当時の私は、イギリス人留学生の女の子の「イギリス英語」を全て理解できなかった。 だけど、私は彼女の中の「友達のカテゴリー」に入ったのを感じた。
こうしてイギリス人留学生との交流のおかげで、私は外国人と仲良くなるコツを掴んだ。
「同じように笑える楽しい事を探す」だ。
日本のアニメは優秀だ。
外国での人気が著しく高いことに気づいた私は、外国人留学生には必ず 「日本のアニメで好きなのは何か?」を聞くようになった。
ほぼ99%の割合で、彼らは「自分のお気に入りのアニメの事」を嬉しそうに話す。
東京の秋葉原も彼らは大好きだ。秋葉原にはアニメ好きに欠かせないお店や、ゲームグッズやフィギュアが沢山あるようで、「秋葉原(通称アキバで通じる)へ行った事がある?」もとても有効な質問だ。
この2つの質問で初対面の外国人留学生とはだいたい、すぐに打ち解ける事ができる。英語を何年勉強しているかとか、文法が完璧かどうかなんか関係がない。
難しいことを考えずに、「同じように笑える楽しい事を探す」
たったこれだけで、外国人の友達との仲は、以前よりももっと深まる。
京都が大好きで光華女子学園へ進学、卒業後、大阪の企業で経理課勤務。仕事が肌に合わず、夢だったイラストレーターを目指して大阪芸術専門学校へ。賃貸住宅ニュース雑誌社へ派遣社員として就職。その後地元へ帰り、地元のフリーペーパーやパチンコ店などのポスター制作するグラフィックデザイナー、ベジタリアン・ヴィーガンのお料理の先生、バンドのドラマー(ジャズ・ロック・軽めのフュージョンなどジャンルを問わず、地元ではセミプロとして活躍する。プロドラマー海野俊介氏に師事)、お琴奏者(趣味で名取まで取得)、演劇が好きで劇団にも少しだけ所属・・・など様々な経験を経て、英検3級しかありませんが、縁あって現在は、某施設で外国人担当のお仕事をしています。