海外での生活では、予期せぬ出来事がいろいろと起きます。今回は,アメリカ留学時代に,メキシコのワレス市とアメリカのエルパソ市で共同開催された国際駅伝に参加した時のエピソードです。
コカ・コーラ社 トランスマウンテン チャレンジ2000(Coca-Cola Trans Mountain Challenge 2000)と銘打った国際駅伝への参加を留学生仲間に呼びかけた。
エルパソ市からメキシコのワレス市の街を走りぬけ,エルパソ市へ戻りトランスマウンテンを駆け上る過酷なコースに,チャレンジ好きの留学生仲間が手を挙げてくれた。
留学先のテキサス州エルパソ市のアパートで、明日の国際駅伝を控えくつろいでいると、右足の親指の付け根あたりが痛い!
痛風発作だ!
痛風発作!
痛風は、風が吹いても痛いと書きます。発作が出ると、その部分がはれ上がり、猛烈な痛みが襲います。私の痛風発作は、右足がパンパンにはれ上がり、心臓が鼓動を打つたびに右足親指に激痛が走ります。
もちろん、歩くこともできませんし、靴も履くことはできません。心臓の鼓動に合わせて、激痛が走るのです。鎮痛剤を飲み、安静にするしかなす術(すべ)がありません。
痛風は、30%が遺伝、30%が食べ物の影響だといわれています。後の40%は、ストレスともいわれます。また、発作が出る部位も個人差があり、足、膝、手などの間接部位になります。
痛風発作になると、鎮痛剤を服用しても痛みが消えるまでに1週間ほど時間がかかります。私の場合は、発作の直前、足の関節部分にチリチリとした痛みを感じます。
そのタイミングで鎮痛剤を飲むと発作を抑えることができます。自分の足をソファーに挙げてよく見ると、足首がかなり腫れています。痛みもチリチリではなく、ズキズキしています。
鎮静剤を多めに服用し、氷で足を冷やし、大量の水を飲用しました。これで、結果を待つのみです。
参加させてほしいって、英語でどう説明する?
長く痛風と付き合っていると、発作の兆候も体感することができ、薬の服用もわかってきます。
明日は、どうにか走れるだろうと予測が立つ。ただ、チームメートにどうやって説明しようか。
日本語で考えた説明はこうだ。
昨日、残念ながら痛風発作が起きてしまった。持病であるので、対処はうまくいった。今日は走れそうだ。選手としてマラソンに予定通り参加させていただきたい。よろしく!
という感じで、チームメートに伝えたい。選手として予定通りに参加させていただきたいというところの、「させていただきたい」をどう英語で表現するかがポイントとなる。
つまり、チームメートの許可を得るためにはどう表現したらよいか。そこで軍隊式選択法で3つの作戦を立てた。O-1は、オウ・ワンと読み、Operation-1(作戦その1)という選択肢です。
O-1 I’d like to join the race レースに参加「したいと思います」
O-2 You may accept to join the race レースに参加することを「受け入れて許可してもらいたい」
O-1で、淡々と「参加したいと表明」するのか。O-2は、mayと acceptをつかって「受け入れてくれ!」(accept)と表明して、君たちは 許可してくれるよね(may)と畳みかけるという作戦だ。
もう一つ選択肢(O-3)が欲しい。ズキズキと響く痛みの中で、私の英語のバイブルである映画「マイフェアーレディ」のワンシーンを思い出した。
オードリ・ヘプバーンが発音練習で使うフレーズ。”How kind of you to let me come”「私をここに来させていただき,本当にご親切さまでございます」(直訳)だ。let me comeが使えそうだ。
“Let’s”は、let usの短縮形で、意味は、「一緒に~しよう!」と呼びかけるフレーズです。大事なことは「一緒に」という感覚!カタカナ英語のレッツ~になると、その感覚が薄くってしまう。
一方,“Let us ”と離して使う場合は、少しばかり意味が違ってくる。目上の人に許可を求める表現になる。「私たちに~させてください」という感じ。発音は「レタス」になります。
これで、3つ目の選択肢、O-3が出来上がりました。
O-3 Let me join the race レースに「私を参加させてください」 です。
マラソン当日は、晴天でメキシコにしては涼しい風が吹いていました。私の足の腫れも引き、ジョギングシューズも履けました。国境を超えるバスの集合場所にいき、メンバーが集まったところでバスに乗り込みます。
メンバーの数を確認し、メンバーに挨拶をします。開口一番、「昨日、痛風発作が起きた」” Last night I got gout attack!”(ガウト・アタック) と叫びました。バスの中がどよめいた。すかさず現状を説明する。
薬を飲んで足の腫れも引いた。レースは大丈夫だろう。ここでO-3を引用する! Let me join the race and run with you!「レースに参加させてくれ、そして一緒に走らせてくれ!」と告げた。
車中、OK!(大丈夫) Go for it!(がんばれ!)と励ましの言葉が飛ぶ。その反応に安堵とやる気が湧いてきた。バスは国境のリオ・グランデ川を越えて、ワレスの街にはいっていった。
後列立姿 韓国,ボツワナ,オランダ,日本,筆者,スイス,アカデミー留学生部長,ギニア
前列座位 南アフリカ,イタリア,シンガポール,ブラジル,クロアチア
One for all, all for one!
バスの中で会話が盛り上がり、チームのやる気も上昇した。留学生全員が優勝を狙う気持ちも高まっていった。レースは選手がそれぞれの区間を走りバトンを渡していく駅伝方式だ。
レースは街を通り抜け,坂道を上り丘の上のゴールを目指すコースだったと思うが、苦しかったことは覚えているが、レース自体の記憶はなぜかすっぽりと抜け落ちている。
坂道を走りながら,バスの中で、チームのメンバーが言っていた、” One for all, all for one”のフレーズが頭をよぎる。日本でも,ラグビーブームで有名になったフレーズだ。
「一人はすべてのために、皆はひとりのために」と訳されているが、ラグビー経験者によると、少しばかり、日本語の意味とずれているようだ。
前半のone for allは、一人はすべての人をサポートする。後半のall for oneは,すべての人は、一つの「目標」(トライすること)に向かって力を合わせるということらしい。意味がすっきりする。
究極のチームワークを表わすフレーズだと思う。すべてのメンバーが力を合わせて一つの目標を達成すること。留学生12人が、力を合わせて優勝を狙っている。
留学生チームは、国際マラソン大会で優勝しました。レース後、優勝の朗報は、アカデミーの校長にも報告されており、月曜日の全校朝礼で紹介されることになった。
当日、約500名の学生と学校スタッフが集まるオーデトリアム(講演会場)に、私の名前が呼ばれステージに上がるように促されます。トロフィーを抱えてステージに上ります。
校長が握手を求めてきたので、選手全員をステージに上がらせる許可を求めました。二つ返事で許可が出て、一緒に走った留学生をステージに呼び込みました。全員そろってステージに整列!
発言を求められたときに、バスで聞いたフレーズが頭に浮かんだ。呪文をとなえるように、This is not for me, but One for all, All for one!とつぶやき、続いて大声で“We are your classmates !”「我々は,皆さんの同期だ!」と叫んだ。
会場から、大きな拍手が沸き起こった。この時、留学生仲間だけでなく、米軍の仲間と混然一体となった感覚は忘れられない思い出となっている。
このアカデミーでは,スピーチは最重要課目であり,「3分間与えられたら,3分間できっちりと内容を伝える」技術と時間管理が求められる。学生は,いきなり挨拶を振られても,対応できるようスキルを磨いている。
そのため常日頃から,様々な場面を想定し,時間を限定して練習を続けている。軍隊式3択で表現を吟味したり,話す相手によって言葉や話すスピードを変えたりする工夫をしている。
そういった地道な努力が,英語ペラペラにつながっていくのは間違いない!
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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