海外に行くと日本では会えないような個性的な人に出会うことがある。
Mr.Peaもその一人。もちろん、Pea(えんどう豆)は彼の本当の名前ではない。
オーストラリアのケアンズ。アメリカ系ホテルのレストランで働いていた時、私たちがイギリスのコメディに出てくる「Mr. Bean」をもじって「Mr. Pea」と呼んでいたお客様がいた。
一体、彼はどんな個性的なお客様だったのでしょう?
<Peaでそんなに怒る?!>
私がそのホテルレストランで働き始めてすぐの頃。ちょっとした騒動があった。
60前後の男性が立ちあがり、一人の女性スタッフを怒りだしたのだ。大声はあげていないものの、高級リゾートホテルのレストランでは珍しい事。
すぐにレストランマネージャーも駆け付け、男性と話し始めた。怒られている女性スタッフは、新米の私にも親切に教えてくれる優しい人で、仕事もできる。
「クレームをもらうような人じゃないのになぁ」と私は不思議に思っていた。彼が帰るとすぐに、そばにいたスタッフに聞いてみる。
私:「ねぇねぇ、あのお客様何を怒ってたの?」すると意外な答えが…
スタッフ:「peaがないって」
私:「pea??? Peaって、豆のpea? グリーンピースとかの?」
スタッフ:「そう。そのpea。冷凍のミックスベジタブルとかに入ってるでしょ?」
えっ?豆一つであんなに怒る?
というか…、メニューにpeaってあったっけ?? 料理の付け合わせを選べるようになってはいるのだが、peaは確かなかったはず。
私:「うちのメニューにpeaってあった?」
スタッフ:「ないよ。冷凍ものは使わないよ。」
私:「え? メニューにないよね。じゃぁ何で怒ってたの?」
スタッフ:「前に来た時にもなくて、でも自分は好きだから、次は用意しといてと頼んで、用意しとくって言ったのに、今回もなかった。それで怒ってたの。」
なんだ~それ!単なるワガママな人やん! そんなにpeaが好きなんかなぁ?すごい事主張するなぁ。メニューにないもの要求して怒るなんて!
その日から彼は、私たちスタッフの中で 「Mr. Pea」と呼ばれるようになった。
<Mr. Peaが…とうとう>
Mr. Peaは、ホテルのメンバーズカードを持っていて、食事代の割引があるからか、週に1、2回は来る常連さんだった。
あの日から、キッチンにはMr. Peaのために冷凍peaがいつもストックされていた。そして、私たちは彼が来るといつも「Mr. Pea来た!」とピリッとした空気になる。
まだ仕事を始めたばかりの私は、彼が来るたびに「私の担当テーブルに来ないでー!」と心の中で祈っていたものだ。
しかし、というかやっぱりというか、とうとうMr. Peaが案内され私の担当テーブルへやって来た。
「Mr. Peaとうとう来たよ~!」
ミスをしたら怒られる…。いつも以上に緊張しながら挨拶をし、飲み物のオーダーを取る。
Mr. Peaは、グラスの白ワインを注文。
ドリンクは私が用意するのだが、私はいつもグラスワインの注ぎ方が多いと、スーパーバイザーから注意を受けていた。そのため、今回は少し少な目にと気をつけて注いでMr. Peaのテーブルへ。
しかし、それが仇となる。
ワインを見たMr. Peaは「グラスワインは何mlだ?」といきなり私に質問。
えっ? 何mlって決まりあるの? 聞いた事ないよ~。正直に「知りません」と答える。
「聞いてきなさい!少し少ないはずだ。」とMr. Pea。
「失礼いたしました。」慌ててすぐに裏へ行き、スーパーバイザーに聞いてみる。
「Mr. Peaからグラスワインの量聞かれたんですけど…。」
スーパーバイザー:「あー、○○○mlだよ。」
決まった量があったんだ…。恐るべし Mr. Pea!
「あの人は量も細かいから僕が持っていくよ。」と代わりに行ってくれた。
助かった…。何とか命拾い。でも、Mr. Peaの担当やっぱり怖い…。
次は料理の注文。これはミスをする訳にはいかない。遠巻きにオーダーを取るタイミングを伺う。
が、Mr. Peaは、メニューを開けない!ずっと閉じたままなのだ!
「いつ行ったらいいの~?!」心で叫びながら、とりあえず、隣りの奥さんの様子で判断。
「よし!」と気合を入れオーダーを取りに行く。
‘‘May I take your order?’’
このレストランのメインメニューは、もともと事細かに注文できるようになっている。まずは、肉か魚の種類を選ぶ。そしてその調理方法、ソースの種類。次に付け合わせのポテトの調理方法、さらにサラダの種類とドレッシング、最後にライス(白米、玄米)かパンの種類を選ぶ。
ただでさえ、聞くことが多くて大変なオーダー。だが、大抵はメニューを見ながら、お客様も指を指したりしながらゆっくり注文してくれるので、確認もできるし問題ない。
ところがMr. Peaは、オーダーをとるときにもメニューは開かない!奥さんによると「彼は全部メニューを覚えている」というのだ!そりゃ、週に何度も来て、こだわりもあれば覚えるのかもしれない。
でも、私のためにメニューは開いて欲しかった…。奥さんの方の注文が普通にゆっくりとしたペースで終わり、いよいよMr.Peaの番。
と、彼はメニューを見る事もなく一気に「メインはこれで、焼き方はこれ。付け合わせのサラダはこれで…」と早口で注文し始めた!
私は聞き逃すまいと必死でメモを取る。
「ポテトはchips(フライドポテト)で」と言った所で、急に私を見て
’’How many potatoes?’’
と聞いてきた。
え? 不意打ちをくらった質問に混乱する。
’’How many potatoes?’’って、じゃがいも何個使ってるかって事? それともchips(フライドポテト)の本数?? そんなの分かんないよ~!ひょっとしてまた決まってるの?
頭の中で色んな答えを考え巡らせる。しかしどれもハッキリしない。
またしても私は
’’I don’t know.’’。
「シェフに確認します」と言うと、笑いながら
「12potatoes.」
とMr. Pea.
フライドポテト12本という事だ!何のこだわり?!
意味はよくわからないが、とりあえず希望通り「12potatoes」とオーダーを入力する。さて、彼のオーダーが終わったところで、聞いておかなければいけない事があった。
それは「pea」の事。前のように怒られては困る。せっかく用意もしてあるし、言われる前に聞いておこう。
‘‘Would you like some peas?’’
その質問に
‘‘No peas, today.’’
と笑いながら答えるMr. Pea。
えー!用意している時はいらんのかい!思わず、心の中でツッコむ。
それでも、今日は機嫌がいいのか、peaを聞いてもらえたのが嬉しかったのか満足げな様子のMr. Pea。その笑顔を見て私もホッとする。
<自己主張って空気読めない人?>
Mr. Peaほどのこだわりを持ってレストランでオーダーする人を私は知らない。日本だと、クレーマーとされるのかも。
でも、彼はクレーマーというより、こだわりが強くて、主張が激しい人。接客をするのは緊張するけれど、どこか憎めない所がある。
ほかのスタッフも嫌がるよりもむしろ面白がる感じ。彼が来ると、裏では彼がどんなこだわりオーダーをするのかが話題になる。
私も彼が何でpeaにこだわるのかとか、12本のポテトに何の意味があるのかとか彼への興味は尽きない。
それと同時に、堂々と主張するMr. Peaを「すごいなあ。あんな風にはっきり物が言えたらな」とある意味憧れていた。
私なんか、たまに飲み物のオーダーを間違えて持ってこられても、「私はホットを頼んだんですけど…でも大丈夫です。アイスでいいです。」と店員さんに気を遣って言ってしまう事がある。
相手が間違ったのだから、クレームでも何でもないのだが、主張する事がいけないような気がして、日本では特に気が引ける。
Mr. Peaなら自分が頼んでいないものでOKなんて、あり得ないことだろうし、信じられないと言うだろう。
海外では自己主張することはむしろいいこと。
自己主張や自分の考え、好みを伝えないと逆に「あなたってどんな人なの?はっきりして。」となる。つまり、自己主張は自分がどんな人間かを知らせる事でもあるのだ。
ただ、それが日本人には難しい事だったりする。
常に相手や周りの人達の事を考え、空気を読んで周りに合わせる。それが良い事とされる日本社会の中で生きていると、無意識に自分よりも周りの考えを優先してしまいがち。
それに、自分の思うままに行動したり、発言したりすると「空気読めない人だよね」と揶揄される危険性もある。そういう中ではなかなか自己主張はしづらいし、「自己主張=悪」のイメージになる。
そういう人が海外に行くと、周りの自由な発言や行動に、誰に合わせていいか分からなくて困るし、自分ってどんな考え持ってるんだっけ?と混乱してしまう。私も留学した時、そうだった。
最初は戸惑うけれど、自分の考えを自由に言えたり、自己主張出来る環境って、慣れると凄く楽。何より誰かに合わせる事なく自分のままでいられるのが心地良い。
日本でも時代は変わり「個性の時代」「個々の時代」になってきていると思う。自分を自由に表現できたり、自己主張できたりするなら楽だと思いませんか?
とは言え、今まで周りに合わせてきた人が、急に自分を出したり、自己主張したりする事はまだまだ難しいかも。
まずは、Mr.Peaを見習って?「自己主張って悪いことじゃなくて、どんな自分か伝える自己表現。だから自己主張してもOK!」って「自己主張=悪」のイメージを外す所から始めてみましょう。
空気読めなくてOK! 自己主張はあなたを伝える自己表現!Mr. Peaのように愛される個性派人間になりましょう!
中学生時代から英語を話せるようになる事に憧れ、外国語短大へ進学。その後イギリスへ留学するも英語が話せず落ちこぼれの生徒に。英会話のトレーニング(カランメソッド)を受け英会話が上達。帰国後、夢だったツアーコンダクターになる。渡航国約35カ国 年間200日以上を海外で過ごす。その後オーストラリアにワーキングホリデーで渡り、オーストラリアにあるハミルトン島のリゾート会社に就職。その後日本に帰国し、京都のホテルやゲストハウスなどでの経験を経て、地元宮崎にUターン。現在は地元宮崎で、英会話教室及び、単位制、通信制の高校で英会話を教えている。
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