今回お話しすることは、「ラジャー」です。Swatchがこの「ラジャー」を初めて聞いたのは、防衛省の英語教官から、「ラジャー!」と言われたのが最初でした。
「ラジャー」と言われたとき、日本語のなまりかと思っていました。「そうじゃろう」という意味だろうと推測して、まさか英語だとは思いもよらず。(笑)
教官に質問したところ、「そんなことも知らないのか」というあきれ顔で反応され、「まあ、、、、」とお茶を濁し、「ラジャー」を調べましたが、うまくいきませんでした。
しばらくそのままにしておきましたが、日本人同士の日常会話に、「ラジャー」が出てくるのです。原因は、ハリウッド映画のパイロットの物語が大流行したからです。
登場するパイロットが「ラジャー」と敬礼しながら言うシーンをみて、なるほど「了解!」という意味だったのかと理解した訳です。
カッコいいじゃないですか、「ラジャー、サー」なんて。空軍はやはり違うな。でも、ラジャーってどこからきているかは、わかりませんでした。
<ラジャーって、どういう意味なの>
それで「ラジャー」を調べてみたら面白いことがいっぱい出てきて、いろいろな機会で紹介して、英語教育の導入部分で使っています。
「ラジャー」って、「了解」という意味ということは解りましたが、綴りが分からない。
いろいろと調べますが、Wikipediaも普及していない時代ですから、簡単にはいきませんでした。
調べてみると、アメリカ人の男子の名前の“Roger”でした。そのころは、イギリス式に「ロジャー」と読むのが一般的でしたので、“Roger”には簡単にたどりつかなかったのです。
流行したパイロットの映画もアメリカの映画、だとすれば、「ラジャー」の方が、普通の発音になるのでは?と考え、辞書を引いたのでした。米語の発音で「ラジャー」というわけですね。納得。
<何故人の名前が、「了解」になったのかを知りたい>
なぜアメリカ人の男性の名前が「了解」の意味になったのかは不思議でした。
これには諸説あるようなのですが、一番納得いきそうな説を紹介いたします。
調べると、NATO軍のフォネティックコード(音声表)からきているということが分かりました。
フォネティックコード(音声表)は、通信を使って音声情報を伝えなくてはならない場合に、
聞き間違いがないように、聞き取りやすい単語に置き換えて通信するというものです。
この音声表とは、英語のアルファベットを通信音声で相手に伝えるときに、間違いのないように、あらかじめ英語のアルファベットの呼び方を決めたものです。
以下フォネスティコードの例
A:アルファ: alfa
B:ブラボー: Bravo
C:チャーリー: Charlie
D:デルタ: Delta
E:エコー: Echo
F:フォックススロット:Foxtrot
G:ゴルフ: Golf
H:ホテル: Hotel
I:インディア: India
J:ジュリエット: Juliette
K:キロ: Kilo
L:リマ: Lima
M:マイク: Mike
N:ノベンバー: November
O:オスカー: Oscar
P:パパ: Papa
Q:ケベック: Quebec
R:ロミオ: Romeo
S:シエラ: Shierra
T:タンゴ: Tango
U:ユニフォーム: Uniform
V:ヴィクトリ―: Victory
W:ウィスキー: Whiskey
X:エックスレイ: X- ray
Y:ヤンキー: Yankee
Z:ズルー: Zule
(参考のため、日本語のカタカナ表記にしたため、発音は正確ではありません)
このコード表を使って、「メッセージを受信した」ことを「R」であらわしたそうです。
つまり、RはReceived(受信した)を意味しました。
受信は、英語で“Receive”です。これでR=Receivedが結びつきました。もう一度音声表を見ると、1956年に発効された音声判別表に記載されているRは、Romeoでした。(上述赤字)
<音声表でRogerを探せ!>
米空軍の設立は、1947年9月18日なので、前述した1956年の音声表を参考にしたのではないことが推測できます。
それより以前では、1927年発効の音声表があります。調べると「R」は“Roger”でした。R=Rogerが判明しました。R=Received(受信する=Roger(ラジャー)が成立しました。
1927年版の音声表から、アメリカ人の男子の名前のラジャーが判明しました。
でも、なぜアメリカ人の男性の名前が採用されたのでしょうか。
当初戦場では、「受信したことを」“Received”を使っていましたが、発音が難しく、聞き取りにくかったことから、アメリカ人の男性名で発音しやすいことを理由に、Rogerに変更したそうです。
日本で言えば、太郎左衛門を太郎とかえたような感じでしょうか。
<時代の変化にも耐える「ラジャー」>
時代が変わるにつけ、さらに進化した用語を創ろうとするのは、人間の文化です。良いか悪いかではなく、過去のものを否定し、新たに未来を作り出すことが求められます。
その例に漏れず、航空業界も新しい用語を作り出しました。それは、“WILCO.”「ウイルコ―」です。“Will comply”「指示されたことに従う」という航空用語です。
Rogerとの違いは、Rogerは相手の言った内容を受信して、「了解」した。
Wilcoは、相手の指示したことに従うという意味になります。
ただし、アメリカ空軍も負けてはいません。パイロットや空軍の軍人たちは、“Roger!”を使い続けています。
さらに、ROGERを頭文字化して意味を定義づけたのです。
次のような素晴らしい頭文字語として生まれ変わりました。
Received 受信した
Order 指示・命令
Given 付与された
Expect 期待に沿える
Result 結果
「期待した結果通りの命令を受信しました」とでもなるのでしょうか。簡単に言えば、「すべてよし!」ですむのかもしれません。
米軍のパイロットと航空管制官とは、そういったターム(専門用語:TERM)を使ったやり取りがなされているのだと思います。
軍という組織は、難しい軍事用語を使って、作戦を実施しているように見えますが、実は軍事用語を明確に定義することによって、より簡単に、正確に情報が伝わる工夫をしているのです。
軍事用語とともに、その合理的なコミュニケーションの方法を取り入れていくことも、生活に刺激を与えてくれると思います。日常会話でも、「ラジャー!」は使えますね。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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