最近でかけた関西の宝塚。街中で妙なことに気づきました。
それは行きかう女性の多くが、背筋を伸ばしキビキビ歩いていることです。まるでステージ上を歩いているかのよう。
宝塚と言えば、言わずと知れた女性歌劇団の発祥の地。ところが多分団員ではない女性達も、タカラジェンヌ~女優~のような歩きっぷりなのです。
実はそれは当然のことなのかも。
何故なら、行動経済学でノーベル賞をとったカーネマンによると、人は高齢を連想させる単語の入った文章を読んだ直後、皆歩行速度が落ち少し猫背になるそうです。例えば「老・病気」等が、読む文章に入っていると、意識せずに歩き方が年寄り染みるというわけです。そんな馬鹿なと思いますか?
またシャンソンを店内に流すと、フレンチワインが、カンツォーネならイタリアンワインの売り上げが増すらしいんです。これは別の行動経済学者ダン・アリエリの実験です。これもすぐには信じられないかも。
行動経済学という、新しい経済学が研究するのは、この様に本人の気づかぬ原因が行動に及ぼす影響。
行動経済学的に見るなら、宝塚で多くの女性がタカラジェンヌの様に歩いても不思議ではないでしょう。また似た感じの女性達が宝塚に集まってくることも、当然でしょうね。
<「自分はだけは違う」>
ただ宝塚の女性に、歩き方やこの街に住んでいる理由について指摘しても、他の人達には隠れた影響はあるかも…でも自分は違うとほぼ必ず否定するのだそうです。
行動経済学の、知見って自分ごととして捉えるのは難しそう。そういう私自身そうでした。特にこれから述べる部分は、最初は余りに過激で、自分にも当てはまるとは思えませんでした。
でも、それをあなた自身のコトとして捉えられると、自己イメージが一変し新しい自分の姿が見えるかも。
<見たことのない景色?>
さて人の行動は、自分の知らない原因からの時もある…これは結局、自分の中に自身の操縦者が一人ではないことになりませんか。それぞれ勝手に行動する何人もの「あなた」がいることに。
つまり人は「一人」ではなく、様々な「人」の集合体であるという新しい自我のイメージが生まれつつあるのです。簡単には受け入れ難いでしょうが…
例えば宝塚の女性なら、歌劇の影響で行動する人物+それを否定し別行動する人物(+また色々別の人格…..) という具合。
あなたは、この人間に関する見方を聞いてどうですか?(他人の中にはそういう人もいるかも、でも自分は違う)と宝塚の女性のように否定しますか。でも繰り返しますが、例外のいる話ではないようです。
科学者の実際の発言を見てみましょう。
まずさっきのワインのお話の、アリエリ氏。
Perhaps there is no such thing as a fully integrated human being. We may, in fact, be an agglomeration of multiple selves.
(多分完全に統合された人間などいない。実際人は多数の「自分」の塊・集合かもしれない。)
ラーマチャンドラン博士(脳科学者)
Your concept of a single ”I”or “self” inhabiting your brain may be simply an illusion.
(一人だけの「私」や「自分」が脳に住んでいるというのは多分単なる幻想だ)
デイビッドイーグルマン博士(脳神経学者)
We are different people in different contexts… it’s important not only to know yourself but all of your selves.
(違う文脈では人は違う自分になる。「自分」を知るだけでなく「自分達」を知るのが重要だ)
まとまっている一つの人格という常識は、時代遅れになりつつある(のかな?)。
何れにせよ、今回の宝塚行で不思議な知見に証拠が増えた思い。見方を大きく変える力を持つ読書、あなたもいずれそうした読書ができるようになるとよいですね。
<英語版>
知ってる内容を英語ルートで理解する。洋画で字幕を読んで英語を聞くように。
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追記:
◯Daniel Kahneman
「Thinking, fast and slow」
Farrar,Straus and Giroux.2011(p105)
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(邦訳)ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 文庫 (上)(下)セット
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◯Dan Ariely
「Predictably Irrational」
HarperCollins 2008
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(邦訳)予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」https://amzn.to/3KLexwz
◯Ramachandran
「Phantoms in the brain」1998 (p64)
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(邦訳)脳のなかの幽霊 (角川文庫)
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◯David Eagleman
「The Brain 2015」
Pantheon Books (p144)
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(邦訳)あなたの脳のはなし 神経科学者が解き明かす意識の謎
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私立学校に英語教師として勤務中、40代半ばに差し掛かったころ、荒れたクラスを立て直す策として、生徒に公言して英検1級に挑戦することを思い立つ。同様の挑戦を繰り返し、退職までに英検一級(検定連合会長賞)、TOEIC満点、国連英検SA級、フランス語一級、スペイン語一級(文科大臣賞)、ドイツ語一級、放送大学大学院修士号などの成果を得る。
アメリカで生徒への対応法を学ぶ為に研修(地銀の助成金)。最新の心理学に触れた。4都県での全発表、勤務校での教員への研修を英語で行う。現在も特別選抜クラスの授業を全て英語で行っている。「どうやって単語を覚えればいいですか?」という良くある質問に答える為、印欧祖語からの派生に基づく「生徒には見せたくない語源英単語集」を執筆中。完成間近。常日頃洋書の読破で様々な思考にふれているが、そうして得た発想の一つを生かして書いた論文がコロナ対策論文として最近入賞。賞品の牛肉に舌鼓をうっている。元英検面接委員