Hi!
火曜のJiroです。
もし超有名人同士のやり取りが、雑誌の都合で少し“ずれて”伝えられていたらどうでしょう。
しかも、それが世界的雑誌の日本版だけで起きているとしたら。
あなたは Vogue というファッション雑誌の名前を聞いたことがあるでしょう。
先日、そのUSA版に Meryl Streep と Anna Wintour の対談記事が掲載されました。
今公開中の 「The Devil Wears Prada 2 」で、ストリープは再び編集長役を演じています。
そのモデルとして長年噂されてきたのが今回の対談相手ウィンターなのです。
つまり「雑誌編集長を演じる女優」と「そのモデル本人」の対談、興味をそそられますよね。
“shoes” が引っかかった
私も面白そうだと思い、英語版を読んでいました。すると、ストリープのあるセリフで「あれ?」と引っかかったんです。
司会者がある質問をして、それに答えたセリフです。
司会者:「もしお互いの仕事を交換したら、何がエキサイティングで、逆に何が絶対に無理だと思うか?」
ウィンター:「絶対無理。私は才能ゼロ。歌えない、踊れない、不器用で、料理も裁縫も駄目」
とまず答えています。
その直後のストリープの発言がこちらです。
ストリープ:「You run a multinational corporation, that’s all…. I would dread the shoes. Every day, wow, to pull it together…」
最初に読んだ時、私は少し不思議だったんです。
「なぜいきなり“shoes(靴)”の話になるのだろう?」
相手のファッションについて触れる場面は、ほぼここだけです。
だが、しばらくして思い出しました。
靴ではなく「立場」
shoes には「靴」以外に「立場」という意味もあるんですね。
例えば大学受験の「日本語の意味になるように適語を選べ」という問題
▪️私の身にもなってください。
Just(①change・②help・③put・ ④wear)yourself in my shoes. (日大)
・
・
・
正解は③
put yourself in my shoes.
これ文字通りは「私の靴を履け」ですが、通常は「私の立場になれ」という意味です。
こう考えてくるとストリープの発言は自然に見えてきました。
ストリープは、ウィンターのファッションというより、むしろ「巨大組織のトップ」という立場について話したのではないでしょうか。
そこで私は、こんな風に訳してみました。
「あなたは多国籍企業の経営者。それが全てだわ。私なら、その“靴”──つまりその立場が一番嫌になるでしょうね。毎日、全部をまとめていくなんて」
ここで面白いのは、pull …together 「一緒に引っ張る」も意味が二つになる点です。
ファッションについて「うまくまとめる、コーディネートする」。
集団について「巨大な組織をまとめる」。
日本版では意味が変わっていた
受験英語も案外役に立つな、と思いつつ確認のために日本版を覗いてみて驚きました。
ストリープのセリフがこう訳されていたのです。
「私はアナが履いているような靴を履くのが一番嫌です。毎日ですよ? 本当に感心します」
「立場」のニュアンスが消え、ファッションへのコメントだけになっている…
最初私が「shoe=立場」という言い回しを訳者が見落としたのか…と思いました。
でも学校の試験じゃあるまいし、その可能性はあまり高くない気がします。
誤訳ではなく「編集」かも

そう考えているうちに、ふと思ったんです。
(これは誤訳というより、“雑誌として自然な方向へ寄せた”のではないか。)って。
と言うのも、原文のストリープの発言は、よく読むとかなりストレートだからです。
「Vogueは巨大企業だ。内部調整も多くて大変だろう。毎日よくやってますね」
かなり乱暴に言えば、そういう響きすらありませんか。
でもファッション誌としては、「企業統治の苦労」より「毎日ビシッと服をキメル編集長への リスペクト」の方が、誌面の空気に合いそうです。
そこで日本版では、“shoes” を「靴」の側へ寄せたのかも。
もしそうだとすれば、翻訳の正確さより、「雑誌としてどこに焦点を当てるか」という編集意識が垣間見えそうです。
英語で読む面白さ
もちろん拙訳が一番優れている等と言いたいわけではありませんw。
ただ、日本版だけを読んでいたら、多分私は、この小さな“ずれ”に気づきませんでした。
英語で一次ソースに触れていると、時々面白い発見に出会えるんですね。
今回私が出会ったのは、「編集者の視点」だったのかもしれません。
英語を学ぶというのは、単に言葉を覚えることだけではなく、こうした別の見え方に出会うことでもあるのかもしれませんね。
追伸:
編集の意図を確かめたく、編集部へ電話で問い合わせてみた。
ところが、留守番電話ばかり。
販売元に問い合わせたら「内容については分かりません」とあっさり。
残念。
私立学校に英語教師として勤務中、40代半ばに差し掛かったころ、荒れたクラスを立て直す策として、生徒に公言して英検1級に挑戦することを思い立つ。同様の挑戦を繰り返し、退職までに英検一級(検定連合会長賞)、TOEIC満点、国連英検SA級、フランス語一級、スペイン語一級(文科大臣賞)、ドイツ語一級、放送大学大学院修士号などの成果を得る。
アメリカで生徒への対応法を学ぶ為に研修(地銀の助成金)。最新の心理学に触れた。4都県での全発表、勤務校での教員への研修を英語で行う。現在も特別選抜クラスの授業を全て英語で行っている。「どうやって単語を覚えればいいですか?」という良くある質問に答える為、印欧祖語からの派生に基づく「生徒には見せたくない語源英単語集」を執筆中。完成間近。常日頃洋書の読破で様々な思考にふれているが、そうして得た発想の一つを生かして書いた論文がコロナ対策論文として最近入賞。賞品の牛肉に舌鼓をうっている。元英検面接委員






