ミリタリー飯(またはミリ飯)が話題になっているのをご存知でしょうか。
東日本大地震では,被災地に60万食のミリタリー飯が配られました。
ミリタリー飯とは,自衛隊の非常食のことで,自衛官が演習や訓練の時に食べる食事のことです。
最近は,ミリタリー飯が,災害のみならず,レジャーやキャンプなどにも活用されているのです。
米軍にもミリタリー飯があり,コンバット・レーション(Combat ration:戦闘糧食)と呼ばれています。
自衛隊と米軍のミリ飯は,それぞれまったく違うコンセプトで作られています。自衛隊は,カロリーと栄養を考えた機能食品という感じですが,アメリカ軍は,なんとフルディナー・タイプなんです。
米軍は良いものを食べているなあという感じですね。でも,日米のミリ飯を食べ比べてみたら,そうでもないことが分かります。
今回は,そんな日本とアメリカのミリタリー飯を紹介したいと思います。
まずは,自衛隊のミリタリー飯から。
自衛隊の主食―缶詰
皆さん,これが自衛隊のミリタリー飯,缶飯(かんめし)です。
自衛隊員は,派遣された被災地では,温かい食事(自衛隊では温食と呼びます)を食べることはありません。缶詰食(缶飯:かんめし)を食べます。
写真のように,OD 色(オリーブ・ドラブ色:Olive Drab)に塗られた缶詰で,熱湯でボイルすることで,調理済みの状態になります。
ご飯の種類は,白飯,赤飯,五目御飯などがあり,それにウインナーソーセージ,たくあんなどの副食(おかず)がつく場合もあります。
敵と戦う時間を,戦闘状況と言いますが,その間,火は使いません。煙がネイティヴ・インディアンの狼煙(のろし)のようにあがって,敵に自分たちの位置を見つけられてしまうからです。
戦闘中に,火を使わず食事がとれるように,あらかじめボイルして食べれる状態にしたものを、持ち運べるよう工夫された戦闘糧食が,缶食だったのです。自衛隊演習場で,戦闘訓練を重ねる自衛隊は,有事を想定して,缶飯を食べ,飢えをしのぐのです。
最前線に配置される歩兵部隊は,戦闘糧食を自分の背のう(デイバッグのようなもの)に,行動する日数分入れ,それを担いで,敵陣近くまで徒歩で移動するという作戦を実行します。
長時間の訓練で空腹を満たすものは,自分の背のうに入れた缶飯だけです。
缶飯の味は?
缶飯の味はどうなんだろうか。気になるところですよね。
缶飯は,非常食と呼ぶ通り,作戦の状況が厳しい時に,自分の命を守るために食べる食料です。
過酷な条件(雨,雪,嵐,極寒,猛暑など)の中で,激しい運動ができるように、栄養と、カロリー摂取を目的に作られたもの。完全機能食品です。
一晩中,思い荷物を背負って行軍(約40kmを歩く)した後,夜明け前の薄暗い中,携行した缶切りで缶のふたを開け,冷めたご飯を食べる。「うまいわけがない!」と考えるのが普通。
防衛省・自衛隊神奈川地方協力本部HP
https://www.mod.go.jp/pco/kanagawa/kouho/kan/kan.html
中央 鶏肉もつ野菜煮 とり飯 赤飯 五目飯
手前 サバの水煮 マグロの味付 味付ハンバーグ たくあん漬
缶のふたを開けた写真をみて,どうでしょうか。見かけは,美味しそうに見えます。食してみると・・・,
やはり美味しい。笑
レストランや食堂で食べる「美味しい」食事とはいいませんが,一般的な食事で美味しい!栄養と、カロリー摂取を目的に作られたものにしては、「それなりに美味しい」ということですね。
山の中で座って休憩ができ,空腹を食べ物で満たすことができる幸せ。一般にはあまり経験できない幸福感です。
この缶飯を開発した業者は,防衛省からの厳しいニーズに応えるべく,研究と試作を重ね,ボイルするだけで、その後数日間,食べる状態を維持できる缶飯を完成させて,1954年から防衛省に納入しています。
食材もしっかりと精選され,高品質の食材が使われています。日本の業者は,本当に素晴らしいです。
その完成度が高かったので,防衛省は、これを海外派遣の際の糧食としても使っています。
ディナータイプの米軍の戦闘糧食
Muttley – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる
次に紹介するのは,アメリカ軍の戦闘糧食(Combat ration)です。
茶色のパッケージにMEALと大きく書かれているものが,アメリカ軍の戦闘糧食であるMRE (Meal, Ready-to Eat)です。意訳すれば,「今すぐ食べられる食事」で、「エム・アール・イー」と呼びます。
アメリカ軍のMREは、主食から副食,さらにデザート,珈琲までがひとつにパッケージ化されています。
え?コーヒーやデザート?
アメリカ軍の戦闘糧食には,自衛隊の考えにはない、食の娯楽性が加わります。
戦闘間の貴重な娯楽時間として,コーヒータイムが加えられました。右の最上部にある黄色のパッケージは,アメリカではお馴染みのM&M’sのチョコレートです。
これは、炎天下でも溶けにくい特徴があります。その下は,調味料のパッケージでタバスコも含まれています。缶詰ではないので,軽量であることも特徴です。
自衛隊の機能的な食事,という考えとは別に,高カロリーと高栄養を達成するために,多くの種類の食品が含まれています。
さらに,第2次世界大戦,朝鮮戦争,ベトナム戦争の経験から,前線の厳しい状況のなかの食事,という特別な時間に,ささやかでも娯楽性を加えて,戦闘員の気持ちを癒す時間を作るという工夫です。
MREってなんの略?
最初、MRE が、Meal, Ready-to Eatの略と知らなかった頃、日米共同演習などで,私が,アメリカ人兵士に
”What stand for MRE?”
(MREって何の略?)
と聞くと,アメリカ人兵士がそれぞれに違う意味を教えてくるので,混乱したことがありました。
実は,英語にはバクロニム(backronym)という言葉遊びがあり,MREという略語を使って,それぞれのアルファベッドで始まる違った意味の英単語を並べて,面白さを競う遊びをしていたようです。
私が言われた,MRE(本来はMeals, ready-to eat) のバクロニムは,
Meals 糧食
Rarely ほとんど~でない
Edible 食用の
つまり、ほとんど食用ではない糧食ということで、その米軍人が言ったM R Eの意味は、「とても食べられたものじゃない!」「食用にはならない!」ということだったのです。笑い話です。
初期のMRE(戦闘糧食)は,保存性を重視し,保存料が大量に使用されたため,味にもかなりの影響が出て,非常にまずく、安全性にも問題があり2週間以上食べ続けないことという規則まであったと聞きます。
実際に,当時のMREは「食えたものじゃない」という感じだったそうです。防腐剤を食べているようなものだったのでしょう。薬品の味がするまずい食べ物という感じです。
自衛隊のミリ飯とアメリカのミリ飯,食べ比べたらどちらが美味しいか,想像がつきそうですね。
進化する非常用糧食
1954年から始まった自衛隊の缶飯は,1990年代にはいると,改良された新型の糧食が入ってきました。レトルトパックの登場です。
缶切りで缶を切る必要もなく,全体を携帯できる蒸気発生器で温め,レトルトバックを開け,プラスティックの容器で温かい食事ができるようになったのです。これを契機に,2016年には缶飯が廃止されることになりました。
レトルトパック型になり種類も本当に多くなりました。五目飯,カニチャーハン,カツオカレー煮,タコライス,すき焼きハンバーグ,カモ肉じゃが,スタミナ丼,肉団子,野菜マーボなど豊富です。
日米が一緒に戦うためには,お互いを知る必要があります。日米合同演習で行なわれた糧食交換会では、自衛隊の戦闘糧食をアメリカ海兵隊員が試食をし,非常に好評でした。
米軍のMRE(戦闘糧食)を試食した自衛官は、「毎食はちょっと!?・・・」だそうです。
アメリカ式のフルコース的な戦闘糧食よりも,ごはんそのものが美味い自衛隊の戦闘糧食は、アメリカ海兵隊兵士の胃袋をがっちり掴んだようです。
時代が変われば,食もかわる
食は文化を象徴します。日米の戦闘糧食を比較して,戦略のコンセプトの違いがわかります。
兵士のために,食料を確保することは,自衛隊も米軍も同じですが,米軍はあくまでも,食料を前線に送りつづけることを真剣に考えてシステム化した。
米軍は,調理した食物の長期保存を可能にし,パックにして戦地へ送った。兵士は,生きた人間であり,国民であり,住民であり,父であり,息子であった。その考えが,戦闘糧食の改良につながった。
フルコースのセットメニューも,食事への娯楽性の導入にも,そういった思いが表れている。
自衛隊は,カロリーと栄養の補給という機能食品を,缶飯で追求した。
そこに戦闘糧食の担当者の思いと,ニーズに真摯に応えようと研究に真摯に取り組んだ,日本の企業が実現した。
安全で美味な戦闘糧食が新しい技術で,ミリ飯として,国民にも受け入れらえている。それは,日本的であり,喜ばしい限りです。時代が変われば,食もかわる。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
Facebook
https://www.facebook.com/takeru.suwa.7/
※友達申請いただく際「World Lifeで見ました」と一言コメント頂けますでしょうか。よろしくお願いします。