異文化に触れる!何か夢がありそうですよね。でも実際,異文化の中に放り込まれたら,どうでしょうか。心細いですよね。そして,誰でもカルチャーショックを経験しますね。
カルチャーショックは,異文化に関する情報不足で起こります。現在は,ITの発達で,異文化の情報も入手することができますが,20年前には,ITも普及しておらず,なかなか外国の情報はゲットできませんでした。
今回は,Swatchが米陸軍のアカデミーに留学した時の数々のカルチャーショックと,生死にかかわるような恐ろしい体験をお話したいと思います。
今は,いたるところにコンビニがあり,オンラインで所望のものがデリバリーでされる時代です。
ITで様々な情報が入手できます。現代は,ITとコンビニが生活を支えているかもしれません。
異文化へ飛び出していったときに,情報が不足するとどういうことが起きるか,私が経験した留学時代のカルチャーショッックをお楽しみください。
それでは,皆さん。1999年のアメリカテキサス州エルパソ市へタイムトリップです。
<広大な軍事基地 フォート・ブリス>
さあ,皆さんは,テキサス州のエルパソ市(El Paso)国際空港に到着し,そこから車で20分ほどのところにあるフォート・ブリス陸軍基地のゲートの前にいます。
エルパソ市はテキサス州の最西端に位置し,リオグランデ川(Rio Grande 大きい川という意味)は,アメリカとメキシコの国境となっています。
人口は,約65万人(2010年国勢調査)で,米国19位の都市です。市の人口の8割がヒスパニック系です。気候は,5月から日中は30度を超え,朝は15度まで冷え込みます。
カルチャーショック,感じませんか? 朝は,気温が15度,長袖が必要です。昼は30度を超え,Tシャツ一枚でOKです。気温の日較差(にちかくさ,にちこうさ。一日の最高気温と最低気温の差)がすごいです。
一年を通じて乾燥しており,平年で302日が晴天で,The Sun City(太陽の街)と呼ばれています。3月から5月は,砂嵐に見舞われますが,年間を通じて温暖であり,朝夕は気温が下がることから過ごしやすく,リタイアした軍人が多く住んでいます。
エルパソ市にはフォート・ブリス陸軍基地、ビッグス陸軍飛行場、ウィリアム・ボーモント陸軍医療センター、陸軍大学の学校群が置かれています。そのほかに,ミサイルを射撃できる!!!射場もあります!
駐屯地だけで4,900㎢の広大な土地を有しており、東京23区が大体8個。東京ディズニーランドが9,608個は入る計算です。さらに年間,数千人の陸軍軍人が入学・卒業していきます。それだけでも,経済効果は大きいですね。
軍隊の中に大学がある?これもカルチャーショックです。米軍は各軍で大学を設置しています。
例えば,陸軍大学。その中に多くのschool, academyが設置されており,軍人に対してプロの職業教育を実施しています。すべての教育機関が大学・大学院レベルで,単位を取得できます。
米軍人が,階級をあげるためには,大学のアカデミーやスクールのコースに入学して,良好な成績を修めなければならなりません。それをPME : Professional Military Education(軍事専門教育)と呼んでいます。
エルパソ市への経済効果は莫大なものがあることは説明しましたが,次に,いかに軍人が大切にされているかということをお話します。
実は,軍の大学への留学生は,コースが始まる前にエルパソ市長を表敬し,エルパソ市名誉市民に承認される栄誉に浴するのです。日本では考えられないですね。カルチャーショック!
エルパソ市から贈呈された名誉市民の承認状
<危険!脱水症状!>
アカデミーに到着してすぐさまブリーフィングを受け,生活基盤を2週間で整備することを指示されます。つまり,この地で生活できるように居住環境を整えることです。
車社会であるアメリカでは自家用車の手配です。レンタカー会社との長期契約です。これが一番手っ取り早い。メンテナンスも会社任せ,故障した場合はすぐに他の車に乗り換えることもできます。
次に,住居の契約。家族帯同の場合は,軍の官舎に入ることができます。庭付き(10m×20mぐらい)の一戸建てになります。ただし,庭付きがくせもの。
庭には芝生が植えられていますが,エルパソでは,芝生や雑草が伸びるのが半端ないんです。週末は,芝刈り機で芝刈りをしなければなりません。刈らないとどうなる?
軍の警務隊(MP)が巡回をしており,芝刈りや庭の掃除がされていないと注意されます。警告といったほうが良いでしょう。警告に反し芝刈りや掃除を怠ると,軍の官舎から撤去命令が出されます。カルチャーショック!厳しいですね。
一日中走り回って,やっとホテルに戻り家族と再会すると,どうも様子がおかしい。頭痛がするというのです。私自身もエルパソに来てから頭痛がしています。
二日酔いのような倦怠感とガンガンと響く頭痛です。さらに,吐き気もします。室内は,冷房がガンガン効き,肌寒いくらいです。空調のコントローラーは,調節できない。
その時,アカデミーで受けたブリーフィングの一言が頭に浮かびます。“Dehydration”(デハイドレーション:脱水症)に気をつけろ!職業柄,日本では,脱水症を避けるような水分補給をしていたので,脱水症の経験がありませんでした。
クーラーの効きすぎで,肌寒い(実は体温上昇)。長時間のフライト?で疲れていると感じた。(病的な倦怠感)。目の奥にきりきりと感じる痛みと頭を締め付けるような頭痛!
経験がないので,昨日から続いているそれらの症状が脱水症だと分からなかったのです。
カルチャーショックですね。さらに,情報不足によるとんでもない失敗が!
アメリカの水道水は飲料には適さないので,ペットボトルの水を飲むことを勧められましたが,実際に,大量の飲料水を買いだめするということが頭になかったのです。
後でわかったことですが,日本医学会の「熱中症の重症度と症状,治療法」によれば,「頭痛,嘔吐,倦怠感,虚脱感,判断力の低下」は,「医療機関での診察が必要」と指示されています。緊急事態!
コンビニに走り,1ガロン(約4リットル)入りの飲料水とペットボトルの水を大量に買い込みました。家族に水を飲ませ,時間を決めて水を採るように指示します。なんと頭痛が引くのに2日かかりました。
アメリカで快適に生活するではなく,異文化の中で,どうやって生き延びていくかという考えに変わった瞬間でした。飲料水摂取の目安は,一日2リットルと決めました。
<英語がまったく聞き取れない!>
生活の環境が整い,授業のカリキュラムも入手し,履修前コース(プリコース)が始まりました。これもカルチャーショックでした。
日本の大学には,オリエンテーションはありますが,学生に対して授業の事前説明(スチューデント・アドバイジング)はありません。アメリカの大学では,この学生支援を非常に重視しています。
アメリカの大学は入学するのは簡単で,卒業が難しいといわれています。事実ですが,実力がつかなければ,卒業できないといったほうが的を得ています。
学生を振るい落とすということではなく,学生を成長させることに重点が置かれているのです!
プリコースにおいても,模擬授業,授業の進め方,学生が求められていることを確認することができます。就学の目的がはっきりと理解することができます。
また,授業を受けるまでにどのような準備が必要か,授業での質疑応答,ノートの取り方,レポートの書き方,試験の受験の仕方まで懇切丁寧に,説明と模擬授業で理解させてくれるのです。
先の行動が分かれば,人間,楽観的になれます。これで素晴らしい留学生活が始まると夢を描きます。心も高揚し,ワクワクしてきます。だが,現実は甘くなかった!
初日の授業。主任教官(Faculty:ファカルティ)は,バッカ―(Bakker)氏。歓迎の言葉の後,自己紹介か始まるが,名前を聞いた直後から,何を言っているのかわからない。
中南米の国から移民をして,ニューヨークで陸軍に入隊したらしい。とにかく英単語が耳に入ってこない。ひどいアクセント(なまり)だ!
休憩時間に,アメリカ人の同級生に聞いてみた。「何言っているかわかる?」と私。「難しいね。聞き取れないことがあるよ」。そうか!アメリカ人でも聞き取れないのか。
心を決めた!
バッカー氏のところへ行く。「教官の英語がまったく聞き取れない。ゆっくり話してくれませんか」と頼んでみた。考えてみれば,かなりぶっきらぼうな言い方である。
教官がじっと私を見つめる。黒光りするおでこにうっすらと汗がにじんでいる。目を大きく見開き,厚い唇がかすかに動く。‟Tak!”(私をニックネームで呼ぶが,「トウッ」と聞こえる)
「すまない。私は,中南米の国から移民して,ニューヨークの高校から陸軍に入隊したんだ。母国語のアクセントが強いことは認めるよ。わかるように話すようにする。」と笑顔を作った。
最後に,「相談してくれてありがとう!」とお礼を言われた。カルチャーショック!
<授業は誰がするの?>
教官は,授業を担当しない。え?誰が教えるの?
教官は,カリキュラムの科目を学生に割り当て,学生は授業を担当する。割り当てられた科目を研究し,レッスンプラン(教授計画)を作成する。
授業を教える3日前に,教官のところへ出向き,理解できない点や研究した事項を報告し,授業を実施する許可を得る。これがアカデミーのシステムであった。
教官は,学生へのアドバイスと授業を評価するのが仕事である。さらに評価の中に,同級生(受講生)の評価が含まれる。授業が終わったら,同級生は,学生教官を採点して評価表を提出する。
カルチャーショック!である。異文化そのもの。日本の大学の光景が目に浮かぶ。授業を聴き,教授の言ったことをノートにとり,最後に質問をしておわり。そんな授業の概念が根本から覆る。
学生が教えるってなぜだろうか。つまり,「リーダシップをとるためには,良き教育者でなければならない」が米陸軍のコンセプトであった。
そのために求められるスキルは,説明が平易で要領を得ていること。学生へのeye to eye contact(目を見て話すこと)が取れること。学生の質問を正しく理解し,簡潔に応えることができること。
さらに,リーダーとして姿勢をしっかりと保ち,体全体で表現する方法を習得していること。そして,何よりも重要なことが,時間内に授業を終了できる,つまりタイムマネジメントである。
好機に乗じて(ここがチャンスだと思って)決行するには,時は金なりという概念ではない。「時間をコントロールするスキル」,つまり「今だ!」という感覚の醸成なのだ。カルチャーショック!
<お前の名前は,下水だぜ!>
「教官!教官の日本語はむちゃくちゃ訛っていて,何言ってるかわかりませんよ!」と,日本の学校で発言したら,どのような反応が返ってくるでしょうか。
「トラブルメーカー」とレッテルを貼られて,肩身の狭い思いをするかもしれません。アメリカは,「発言の自由」と「反論の必然」で成り立ちます。また,お互いを理解しようとするのが大前提です。
教室には10人の学生と教官がいます。昼休みは,家に帰るもの,食堂に行く者,教室でランチを食べるものに分かれます。バッカー教官は,教室で学生と一緒に昼食をとります。
「ニューヨーカー」なので,新しいものが好き。昼食はカップヌードル。お湯を入れて3分間ではなく,水を入れて6分間チン!をする。皆さんは電子レンジでカップ麺を作ったことありますか!?
バッカー教官は,電子レンジでカップ麺を作ります。6分経ったカップ麺は,カップから面がはみ出し,もやし詰めのような感じ。これも長年の経験(タイムマネジメント)で調理時間を決めているのだと思います。
私は,コンビニで購入したターキーサンドとプロテイン入りドリンク。
ひとしきりカップ麺で話題が盛り上がります。「日本人は,良いものを発明してくれるよな」と教官。「アメリカ人も頭いいですよね」と私。カップ麺を電子レンジで調理するのを初めて目の当たりにしたカルチャーショックもあり,教官へのリップサービス。
話が盛り上がったところで,名前の話になる。
「そういえば,教官の名前は,日本では,馬鹿とかあほという意味なんですよ」と振ってみる。こういう行為を英語ではchallenge(チャレンジ)という。つまり「喧嘩を売る」ことである。笑
教官は素早く反応した。「スワってのは,アメリカじゃ,下水って意味だぜ!」。「お前の名前は,下水だぜ!」。周りの級友も大笑いである。そうか,“sewer”か。下水を表す時は,「スワ」と発音するな。カルチャーショック!
次の瞬間,「下水!,馬鹿!」と呼んで,お互いに満面の笑みで,ハイタッチ!で締める。
<カルチャーショックから学ぶこと>
私の留学経験で遭遇した様々なカルチャーショックいかがでしたでしょうか。情報がなかったり,知らなかったりしたことで,カルチャーショックを受ける。異文化ではそれが日々生起します。
また,ITは万能ではありません。カルチャーショックは,いつでも,どこでも遭遇する可能性があります。
カルチャーショックを体験で終わらせては,だめ!です。カルチャーショックは,他国の文化を学び,多様性を体感し,時には,生命の危険を回避するサバイバル・スキルをゲットする最高のチャンスなのです。
Swatch
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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