秋晴れが続くと,米軍基地内で行われた日米ピクニックを思い出します。
「日米ピクニック」は,米軍の家族と自衛隊の家族100名ぐらいが参加する日米交流の行事のひとつ。米軍基地内の芝生が広がる公園には,バーベキュー(BBQ)の設備も完備されています。
日米交流行事なので,私服に英語の名札をつけます。名札をつけているので、家族,夫婦であることはすぐに分かります。女性は,圧倒的に専業主婦が多いのですが,まれに夫婦ともに米軍兵もいます。
自衛官同士で結婚した夫婦が,米軍同士の夫婦を見つけて話を聞いています。
自衛官妻:「米陸軍で,夫婦で共働きは大変じゃない?」
米軍妻:「大変だけど,結婚するといろいろと配慮をしてくれるのよ。結婚前とは全然違う」
自衛官夫:「結婚前って,そんなに大変なことがあるんですか?」
米軍夫:「妻は当時,私の部下だったから,交際が禁止されていた」
自衛官夫妻:「え!? 交際が禁止?」
<米軍には,交際禁止の規則がある!>
自衛官夫妻は,顔を見合わせた。
「交際が禁止」って,米軍は,自衛隊よりずっと自由な組織だと思っていたから,日本の高校の「男女交際禁止」のような事実に,面食らったのである。
「日米ピクニック」は,私にとっても,憧れの生活を体験するようなワクワク感がありました。そんな憧れの米陸軍の中で,男女が自由に交際できないと聞いたときには,耳を疑いました。
米軍夫は,米陸軍司令部のオペレーション担当の将校。妻は,同じ部署で軍人の出張の予約や申請などを担当する部下で,下士官だった。
米陸軍には,「陸軍規則」が定められており、生活のすべての項目にわたって,規則が定められている。例えば,国旗や国歌への対応。私服であっても,国旗が上がるときには,敬意を表さなければならない。
そして、「陸軍規則600条」には,将校と下士官,下士官と兵との間での禁止事項が明記されています。
それが,米陸軍における「交際禁止の規則」。最初に,「デートすること」,「同棲すること」が禁止事項として挙がっている。自分の区分以外の階級の者とは,基本的に交際ができないのだ。
区分と階級の関係について説明します。軍には,区分が,「将校」,「下士官」,「兵」の3つあります。
「将校」とは,大佐~少佐,大尉~少尉,准尉の階級にある者,「下士官」とは,上級曹長から伍長の階級にある者,「兵」は,上等兵,1等兵,2等兵
陸軍内の男女交際に,このように厳しい規則があることは,あまり知られていない。海軍等、他軍種にも同じ規則が制定されている。いずれにせよ,規則を守ることが大切であり,米陸軍が二人の関係を壊そうとしている訳ではない。
自衛官夫妻と話していた米軍夫妻は,結婚前は,規律違反となり,軍事裁判にかけられ,規律違反だとされれば,除隊または,陸軍の職員に身分を変更するよう勧告される。
<米軍内では,なぜ交際できないのか?>
米陸軍内での,上下関係にある軍人同志が,なぜ交際できないのか,陸軍規則を調べてみましょう。その中でも,分かりやすい理由を,3つ例を挙げてみます。
1、私情による人事管理となる。
付き合っている部下に対して,忖度したり,エコヒイキしたりすることになる。
2、不公平な人事評価になる可能性がある。
米軍の人事評価は公平でなければならないが,それがゆがめられる可能性がある。
3、階級や役職を不正利用することになる。
階級が上であることや,役職により,人事を付き合っている軍人に有利にする可能性がある。
陸軍規則に明記されていることは,陸軍の長い歴史の中で問題点を見つけ,解決してきた結果が反映されています。つまり,そういった事例が過去にたくさんあったからだと推測できます。
エコヒイキ,忖度,好きな人に特別な計らいをするなど,いろいろな不正行為があったから,規則に明記されることになったのだと思います。
現在では,人事評価は,米軍のどの軍種でもフェアー(公正であること)を第一に実施されています。人事評価をする場合には,その都度,人事委員会が設置される規則も作られています。
軍人同志の交際についての陸軍規則は,区分の違う上下関係によって,フェアーである人事管理がゆがめられ,それにより命令,規律,任務の遂行にマイナスな影響を与えることを懸念していると言えます。
<自衛隊は交際可>
自衛官夫妻は,幹部と陸曹で,米軍でいう将校と下士官の関係である。二人は,同じ自衛隊司令部で広報課に勤務し,上司と部下の関係で交際をスタートさせました。米陸軍ならここでアウトです。
付き合いはじめて1年ほどで結婚を決めたそうです。籍を入れる6ヶ月前に,人事担当者へ婚約・結婚の予定を通報。人事担当者は,定期異動の時期に合わせて異動を調整しました。
時間的余裕があれば,夫婦で北海道,沖縄という勤務地が離れ離れになるというほど,極端な人事はなく,関東圏にとどまりたければそれなりの勤務地を指定してくれることも可能です。
<ひとめぼれで結婚しました!>
自衛官夫妻から結婚までの経緯を聞いた米陸軍夫妻は,お互いの顔を見合わせながら,結婚までの経緯を自衛官夫妻に語りました。
米軍夫:「私たち米陸軍は,いつでも展開(作戦に参加すること)できるように,訓練し準備しています。作戦に参加するということは,生死をかけるということでもあります。
その中で,自分の伴侶を見つけるということは,非常に難しいことかもしれません。私たち夫婦は,職場での上下関係をもとに,人間として信頼できるかを確認しあっていったのだと思います。
ですから,そこに社会一般の形式としての婚約といったものはありませんでした。結局,結婚した日のみを,司令官に報告したことになります。」
米軍妻:当時、私たちの司令官は,非常にユーモアのセンスがあり,結婚を報告したときに,次の様なユニークな質問が来ました。
〜〜〜〜〜〜〜
司令官:君たちは,いつ出会って,結婚したんだ?(ほほ笑む)
米軍妻:はい。実は,昨日会って,即日結婚しました。ひとめぼれで結婚したんです!
司令官:運命的な出会いだ!それはめでたい。結婚おめでとう。
〜〜〜〜〜〜〜
<時代遅れに見える規則の真実>
米軍の組織の根幹は,チームワークです。さらに,個人においては,任務を最優先する使命感が要求されます。それは現在でも陸軍規則に明記されています。
同時に,軍人の生活の質(クオリティ オブ ライフ:QOL)に関しては,米国政府を挙げて,その向上に取り組んでいます。その中でも,家庭=結婚は,非常に重要な役割を演じています。
米陸軍は,多様性を取り入れつつ,一見,現実とはそぐわないような,時代遅れに見える規則にも,実は変わらぬ陸軍の精神「公正さと任務遂行の精神」をそこに反映させているのだと思います。
「一目あったその日から,恋の花咲くこともある。」
司令官がそういったかどうかは,知りませんが…。
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執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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