2020年から,小学校に英語の授業が導入されました。小学校3年生から,外国人の先生に英会話を学ぶのです。
外国人の先生は,正式には「先生」ではなく,外国語指導助手(Assistant Language Teacher)と呼ばれ,通常,ALT(エーエルティ)と呼んでいます。
Swatchは,ALTの友人もたくさんいます。そのうちの一人,Anastasiaに小学生のクラスがどんな感じか話してもらいました。なかなか面白い内容で,大人も十分楽しめそうでした。
実は,小学生の英語クラスでは,大人が英会話を学ぶ上で見落としがちな大事なポイントを,いくつか確認することができます。
どんな大事なポイントがあるのか。
今回は,小学校の3年生の英語クラスから,英会話のポイントを探してみました。
<Are you ready? 準備はいいですか>
さて,子どもたちとAnastasiaのクラスが始まったようです,Anastasiaはどうやら,「アンナ」と呼ばれているようです。
生徒たちは,何かぶつぶつと呟いていますが,よく聞くと「アンナ」と言っています。なるほど,まずは先生の名前を呼んで,注意をひいているようです。
アンナ先生が,満面の笑みで,
“Are you ready!?
(準備はいいですか)
とクラスに話しかけます。
子どもたちが,”Anna, yes, I’m ready!” なんていっています。
アンナ先生に聞くと,生徒の前に出るときには,かなりのハイテンションの状態でクラスに入るそうです。そして,クラスに入ると,目に入った生徒の名前を大声で呼んでいく。
名前を呼ばれた生徒は,「Hi! Anna!」と目を合わせながら応じます。
子供たちは,自分の名前が呼ばれるまで,「Hi! Anna」を連呼します。目を輝かせながら,「アンナ,アンナ」と呼ぶ生徒の姿が,真剣で少し羨ましい感じですね。
自分の名前が呼ばれるまで,子どもたちは諦めません。なぜなら,日本人の先生が,「名前を呼ばれるまで,ALTの先生の名前を呼び続けなさい」と指示したからです。これが日本人の先生の重要な役割です。
生徒たちの目は真剣にアンナ先生を追っています。自分から目を合わせて,アンナ先生に微笑みかけたいと生徒は思っています。
素晴らしいトレーニングです。会話の時には「eye to eye contact」をとるという原則,目でコミュニケーションをとるという習慣が身に付くのです。
文科省は,英語を小学校に導入するにあたって,指導要綱で,
「外国語を通じて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図る」
としており,生徒たちは,その態度を身に付けています!!
◯英会話ポイント1
=「eye to eye contact」という原則,目でコミュニケーションをとるという習慣=
<Well done! 良くできました!>
ひととおり,挨拶をかわし,準備ができたところで,今日のフレーズを教えていきます。今日は,「好きなものを相手に伝える」ということのようです。
アンナ先生は,日本人の先生が用意しているプリントを指さして,
“Take one and pass them on!”
(プリントを一枚とって,残りは回してください)
と指示します。
プリントが配られたあと,再び“Are you ready?” とアンナ先生が問いかけます。
生徒は,色々なものが描いてあるプリントを見ながら,
“I like an apple ! ”, “I like ice cream ! ”,“I like a dog! ” など
自分の好きなものを言います。
カバの絵をみて,”I like a hippopotamus”と言えず, I like a ひぽぽぽぽ,,,とうまく言えない生徒がいたとしても,大丈夫。
他の生徒が,気づいたように声を出し始めます。「ヒッポウだ!」,「ユ ライカ ヒッポウ!」とその生徒を応援します。アンナ先生が,
”You like a hippo!”
(かばさんが好きなのね!)
とフォローしてくれます。
そのあとは,生徒全員で”I like a hippo, too”と合唱。
授業の終盤,アンナ先生が締めの一言を。本日のクラスでの生徒の努力を評価します。
”Well done”
(皆さん,良くできました!)
すると,生徒は目を輝かせ,自分の気持ちを英語のフレーズにして,大きな声で口にします。
“Great!”
(すごい!)
“ I did it!“
(やったね!)
“ OK, Anna!”
(良かった,アンナ先生)
“ I like it!”
(満足よ!)
“Thank you, Anna”
(アンナ先生,ありがとう)
ネイティヴのような英語のフレーズが,教室のあちこちから聞こえてきます。
他人から誉められた時は,必ず自分の気持ちを表現することが「国際感覚」です。日本人の奥ゆかしさとは,少し感覚が違います。日本人はそういった練習はしていないので,戸惑ってしまいます。
これも文科省の小学校外国語学習要領に,「言語に対する国際感覚を養う」と書かれています。
◯英会話ポイント2
=「他人から誉められた時は,必ず自分の気持ちを表現する」=
<Don’t run, please walk! 廊下を走っちゃだめ!歩いてください!>
授業がおわり,日本人の先生とアンナ先生が教室を出ていきます。生徒が廊下を走って,アンナたちを追い抜いていきます。咄嗟にアンナ先生が注意をします。
“Don’t run, please walk!”
(廊下を走っちゃだめ!歩いてください!)
日本語だと,この2つの英語のフレーズの文法の違いに気がつきませんが,英文をよく読むと分かります。最初は,Don’t run! 主語がないので命令形です。つまり,強い禁止を意味します。
2つ目のフレーズは,”please, walk!”。以前,pleaseを取り上げた記事で説明しましたが,Please+命令形の文型ですね。
形は命令形になるので,「歩け!」と言っていますが,前にPleaseをつけることによって,非常に丁寧な表現になります。これキモです!
最初の“Don’t run”は,危険があるので,走ってはいけませんという強い警告になっています。
危険防止のために,強い表現をして生徒たちの行動を規制しています。
次の表現に,please をつけているのは,単に丁寧な表現にするだけではなく,危険がない状態,つまり「走るな!」と,動作を止めた状態で,それ以上,生徒の行動を規制する必要がないからです。
生徒を一人の人格を持った人間として扱い,Please+命令形を使い,「私の言うことが良いと思うなら従っていただけますか」と,相手をリスペクトしながら「歩くことを促している」のです。
危険な行為はすぐに否定する。依頼する場合には,たとえ子供でも丁寧な言葉使いをする。
これが英語の文化なのです。外国語を学ぶときに,非常に重要なコンセプトとなります。文型によって外国語の文化の背景を,しっかりと理解することができるのです。
文科省学習指導要綱には,
「外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深める」
と,小学校英語授業の目的の第一番目に書いてあります。
◯英会話ポイント3
=危険な行為はすぐに否定し,依頼する場合には,丁寧な言葉使いをする=
小学3年生の英語クラスからみる英会話のポイント,いかがでしょうか。
現在の小学生は,こういったネイティヴの助手と日本人の先生によって,素晴らしい英語の授業を体験して,英語とその文化を学んでいます。遅くとも10年後には「英語の話せる日本人」が誕生します。
英語のフレーズを覚えることも大事ですが,その背景や文化を理解するのも非常に重要です。
大人は文化背景を理解することで,今まで習った英語が,実践的に使えるようになるのです。
Let’s speak English!
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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