つい先日,NHKやキー局のニュースで,
「外国人労働者が次々と帰国」というニュースが流れてきました。
続く円安のため,母国への送金も減額せざるを得なくなり,
このまま日本にいても意味がない,という内容。
その内容もそうですが,このニュースのある部分で
「思い出したこと」があったのです。
それはどの部分だと思いますか?
―労働力は財産―
私は主に英語教材などを執筆・制作しておりますが,たまに日本語教材にも携わっています。
数年前,日本で働く外国の方々が増えた頃には
「私,日本語教材の専門制作だったっけ?」
と思うくらい,日本語関連のものを作っておりました。
その際に,欧米人である上司からこんなことを言われたのです。
「今後,外国人労働者という言葉は使わないでください。
これからは,外国人人材というようにしましょう。」と。
私からすると,
「えっと,働く人を表す「労働者」なのだからいいのでは?」と思ったのですが,
その上司からすると,
「労働 = labor 。 “labor”には「肉体労働のみ」というニュアンスがある。
オフィスワークやショップ店員,飲食業界などすべての業界を含めての[労働力]なので
[人材]が適している」
とのことでした。
なるほど…これは英語と日本語の違いなのかもしれません。
でも「人材」という言葉でさえ日本語でも微妙なんですよね。
人によっては
「人を[材料]のように「モノ」として捉えているのではないか」
というイメージを持つ人もいる。
だったらもう「人は財産」ということで,「外国人人財」でいいんじゃないかと思うんですよね。
あ,だからうちの会社では,人材部が人財部だったのかしら・・・
私も会社から,「財産」って思ってもらえていればいいんだけど(笑)
―外人さんって使ってない?―
実は,外国の人に対して絶対に使ってほしくない言葉があるんです。
うちの近所には,割と欧米系の方々が多く住んでいます。
エレベーターの中で出会ったり,ワンコつながりであったり。
そんな顔見知りの人とは英語で話すことが多いのですが,
先日,最近引っ越してきたらしい方とお話をする機会がありました。
見た感じはヨーロッパかな? という感じ。
基本的に日本在住の外国の方と話す時は,日本語でと決めている私。
先方はまだあまり日本語を話せない感じでしたが,一生懸命に話してくれたので,
こちらも日本語で会話。
その様子を見ていた近所の方が,
「外人さんとお話ししてたね。」
と。
これを聞いて,私はちょっとモヤモヤした気持ちになりました。
それは「外人」という言葉。
なぜ「外人」がモヤモヤするかというと・・・
―確かに外国から来た人だけど―
この「外人」という言葉。
なぜかアジア系にはほとんど使わず,主に欧米系の人に対して使っています。
この言葉は当の外国人からすると「差別的」と捉える人は結構多くいるのです。
もしかしたらあなたは,
「外国人を略して[外人]」だと思っていませんか?
それは正解でもあり間違いでもあるんです。
まずは「外人」がなぜ,「差別的」と捉えられるのかを考えてみますね。
今は主に「外国から来た人(主に欧米人)」を指して使われているのですが,
もともとは「部外者や敵」を表す言葉だったのです。
平家物語 巻第一「鹿谷(ししのたに)」には次のような一文があります。
「しかるに其恩をわすれて,(しかしその恩を忘れ)
外人もなき所に兵具をとゝのへ,(敵もいない所で武器を整え)
軍兵をかたらひをき,(兵を集めて軍議を開き)
其営みの外は他事なし。(その他のことは何も考えなかった)」
のように,「外人」は「敵」として表されています。
自分たちの軍の人間ではない,ということから「外の人」ということだったのでしょうか。
このことで,「敵」「部外者」等を表す使い方がされてきたため,というのが考えられます
そして,時代は映って明治時代。
これまで「異人・異邦人,異国人」のように呼ばれていた外国人ですが,明治政府が「外国人」ということばを普及させようとしてきました。
その結果,「外国人」を略して「外人」になった,とも考えられています。
そこに,「敵・部外者」を表す元々の意味も重なり,
「外人=差別的な呼び方」と考えられるようになったのかもしれません。
いずれにせよ,「外の人」ということなのでいい気持ちはしません。
あえて言うなら「外国人」ですが,海外では一般的には
“foreigner” と言うよりも「○○人」,つまり “American”, “Japanese”, “Chinese”などのようにその人の国籍で表すことのほうが多いんですよね。
―あなたの母語は何ですか?―
と思われた方いらっしゃいますか?
では,言い換えてみます。
「あなたの母国語は何ですか?」
もちろん,「日本語」と答える人が多いかもしれませんね。
「自分の第一言語=母国語」と考えている人がこの日本にはすごく多いのです。
でもそれは違います。
特に様々な国のルーツを持つ人が多くなってきた現代では,
「母国語」と「母語(第一言語)」は区別する必要があるのです。
英語では,自分の第一言語を “mother tongue”(母の舌)と言います。
ですので日本でも現在は「母国語」ではなく
「母語」というようになってきています。
ちょっとわかりにくいかもしれませんね。
つまり,
母国は「生まれた国」
母語は「自分の第一言語」であり,国籍とは関係ありません。
ですので,私は
母国は日本であり,母語は日本語です。
英語は第二言語となります。
私の友人には,「生まれは日本だけど第一言語は英語」 という人が数名います。
彼らは日本で生まれて多くの時間を日本で過ごしており,両親は欧米人。
家庭でも学校(インターナショナルスクール)でも英語で過ごし,
日本語は話せますが,英語ほどではありません。
ですので,彼らの母国は「日本」。
彼らの第一言語,つまり母語は「英語」。
そして,彼らの母国語は「日本語」
となるのです。
もしもあなたがアメリカで生まれ,幼児期をアメリカで過ごし,小学校から現在まで日本で過ごしたとします。
ほとんど英語も覚えていません。
話すのは日本語です。
この場合,あなたの母国はアメリカ,母語は日本語,そして母国語は英語(英語が話せなくても,母国の言葉だから)
となるのです。
このように,普段何気なく使っている言葉でも捉え方や人によっては,気をつけなければならないこともあります。
日本語では良いけれど,英語ではニュアンスが違ったり,
知らずに差別的な意味になっていたり,
また,母語と母国語のように意味が違っていたり。
このようなことを知っておくことも,英語でのコミュニケーションをとる上ではとても大切なこと。
英語の学習だけではなく,このような言語からはちょっと離れたお話も大切なんですね。
あ,途中のお話に出てきたヨーロッパかな?という方,先日,うちの愛犬に
“Ciao ciao!”(チャオ,チャオ!)と手を振ってくれたので
たぶんイタリアの方かと思います。
今度,聞いてみよっと。
それではまた来週〜♪
英語教材開発・制作者
米国留学から帰国後、幼児・児童英語教師を経て、中学・高校英語、受験英語、時事英語等多岐にわたる指導を行い英語教師経験を積む。また、ホテル勤務での実践英語経験を積んだり、カナダにて現地の子どもたちの英語教育にも携わりながら、CertTEYL(世界での児童英語講師認定コース)の認定を受ける。さらに、青山学院大学でTutoringの研究員としても活動。英語講師養成のeラーニングコースの日本での立ち上げメンバーとなる。「現場での経験を教材に活かしたい!」と、現在は英語教材開発会社にて日々教材開発に勤しむ。高校入試用のリスニングトレーニング教材(塾・学校向け)は累計10万部以上のベストセラーとなる。英語教材開発の傍ら、全国の英語教師への研修なども行う。また、土堂小学校(広島県尾道市)での英語指導や、初の民間校長として一躍時の人となった藤原校長(当時:杉並区立和田中学校)が手掛けた英語コースの指導に2年間携わるなど、英語教育に関する多様な分野で活躍。大の犬好きから、ホリスティックケア・カウンセラーなどペット関連の様々な資格を取得し、ペットライターとしても活動中。