あなたは、外交の世界と同じように、各国との軍との関係にも、細かな習慣や決まりがあるのをご存じでしょうか。今回はそんな外交上の取り決めと英語表現について、お話ししましょう。
Swatchが米海兵隊の連絡官のころ、米海兵隊の将軍が自衛隊の司令部を公式訪問することが多くありました。私の仕事は、米軍の将官にアテンドすること。
アテンド?ってあまり聞き慣れませんね。英語では、attendと綴ります。上司の出張などに付き添い、あれこれと仕事の段取りをすることです。言ってみれば、芸能人のマネージャのようなもの。
海兵隊の師団長にアテンドして、九州地方の司令部を訪問することになりました。
陸上自衛隊司令部の師団長は、海兵隊の師団長の訪問を大歓迎していました。
式典も成功裏に終わり、出席者がその場を離れようとすると、式典の終了のアナウンスが英語で流れました。皆、英語のアナウンスに耳を傾けます。
Swatchも、次にとるべき行動のために、英語のアナウンスを聞き逃さないように聞いて言いました。
“Everybody, get out from the room, ,,,,,,Except General!
最後にアナウンスされた、“Except General!”の一言に、米軍側の出席者がいきなりどよめきました。
普段、米軍の将校がそのような声を上げることは皆無です。いったい何が起こったのでしょうか?
1. Except は除外すること
英語の場内アナウンスは、少し硬い表現でしたが、次にとるべき行動の指示を伝えるには十分でした。
日本語にすれば、「皆様、ご退場ください。(少しの間)将軍は除きます」という感じでしょうか。
しかし、退場のアナウンスの後に、「将軍は除きます」という言葉を聞いた途端、海兵隊の将校は、
「オ~!」と怒涛の声を上げたのです。
英語のexceptは、「除外すること」です。丁寧な日本語でアナウンスする場合、「将軍閣下は、その場にお残りください」とするところです。
が、アナウンスは、海兵隊の将軍をモノのような表現で、除外すると強い調子で言明したのです。
自分たちのトップの師団長を、モノ扱いされては、海兵隊の将校達もたまりません。
海兵隊の将校にとっては、公の場では珍しく、その場でブーイングすることになったのです。
2. Get out from the Room!は部屋を出ていけ!
さて、アナウンスのフレーズを思い出していただきましょう。
“Everybody, get out from the room, ,,,,,,Except General!”
“Except General!”が、非常に失礼な表現であったことがお判りいただけたと思います。
それでは、その前のフレーズ
“Everybody, get out from the room!”
まず英文が命令分で書かれていることに注目してください。「皆様、ご退場ください」というつもりが、「全員、部屋から出ろ!」と言っています。だれでも、気分が悪くなりますよね。
英文としては、正しくとも相手への配慮がありません。英語は通じれば良いという考えは、ある意味、日常英会話の中では大事な考え方です。
しかし、英語の会話においても、TPOを考えることは非常に重要なことなのです。
公式なアナウンスの場合、丁寧にかつ敬意を払った表現にするのが常識なのです。
そこで重要なことが、国と国との外交行事には、国際的な決まりがあるということを知ることです。
それをプロトコール(国際儀典)と呼びます。
3. プロトコ―ル(Protocol)って何?
プロトコール(国際儀礼)は、外国との交流行事を円滑に進めるための、国際的な取り決めと考えてください。
そういった取り決めがあることで、国際行事が問題なく進めることができるのです。
今回例に取り上げた行事をプロトコールに従って、考えてみましょう。
英語表現は、敬意を払いできる限り紳士的に、丁寧で格調のある表現を使うことが大切です。
師団長のような政府の高官に対しての表現ですが、上述のモノのように扱うのは言語道断です。来賓として、失礼のないようにすることがポイントです。
そして、式典が終わった場合、最初に式場から退場するのは、高官つまり来賓です。来賓は、待たせてはいけません。出席者が退場を見送ることにより、あるいは拍手をして敬意を表します。
それが、プロトコールなのです。それをしっかりと頭に入れて、行事の計画をすべきなのですね。
4. 正しい表現を考えてみる!
英語では、どのような表現にすれば良かったか。
“Everybody get out from the room, ,,,,,,Except General!”
を、儀式にふさわしい表現をプロトコールで考えてみましょう。
まず、将軍の退場をアナウンスして、会場の出席者に知らせることが必要です。
「皆様、これから海兵隊師団長がご退場されます。」
とアナウンスすべきです。
英語では、
“General A will leave the ceremony”
とアナウンスします。
“Get out from the room”「部屋から出ていく」とは表現しません。
そのかわりに、“leave the ceremony”「式典を終え退場されます」と表現します。
その時に、「拍手をもってお見送りください」とは言いません。自然に拍手が起きることが理想ですが、そこは日本人のスタッフが最初に拍手をすれば、会場に広がっていくものです。
出席者の退場については、“Everybody get out from the room”のような表現ではなく、式典の終了の表現としては、
“Thank you for your attendance !”
「ご出席ありがとうございました」で伝わります。
いかがでしたでしょうか。プロトコール(国際儀礼)を知ることで、正しいおもてなしが可能になります。それにより二国間の関係の基礎を固めてくれるのです。
プロトコールを知ることで、丁寧で格調高い英語表現が可能になります。
※写真は、昨年挙行された米海兵隊横田基地の創立記念日の式典の際に撮ったものです。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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