「ラビット!」
え、うさぎ?
ある日、小学生のクラスで英語を指導していた時のこと。
英語の対話文を聞いて、「聞こえた内容を何でも発表する」というものなのですが、
「ラビット!」は、ある1人の生徒が発した言葉でした。
その対話の内容は
「主人公が、兄弟姉妹に何かプレゼントをあげる」
というような内容だったと思います。
「なんでうさぎって言ったんだろう・・・。」
映像を見ながらみんなで内容を確認していくと、
プレゼントをもらった主人公が最後に
“I love it!”
と言ったんですね。
あえてカタカナにすると「アイラヴィット!」
「アイラヴィット…」
「ア、ラビット!」
「なるほど!こう聞こえたのか!」
こういった経験から、
私は現在、小学生、中学生、高校生などの英語を中心とした教材を制作しています。
それは入試用であったり、定期テスト対策であったり。
みなさんご存知の通り、日本のテストは減点方式です。
「満点から間違えた問題の点数を引いていく」、というやり方。
だからどうしても「間違えてはいけない」という心理が働いてしまいます。
これが中学、高校と一般的に6年間英語を学習しても
「英語を話せない日本人」
と揶揄されてしまう原因の一つではないかと思うのです。
「間違いを恐れず、楽しんで身につけることが大切」
そう言われることもありますよね。
それができれば一番なのですが、
現在の入試というもののスタイルが変わらない限り、現段階ではなかなか難しい。
そうであれば、
「知らない語彙があってもいい。どうやったら『できた!』と思えるようになるか。
『できた!』という達成感が、学習意欲につながるのは間違いない!」
そういう思いから、今回の教材で意識した「リスニング力のつけ方」。
巷には、様々な素晴らしい教材がたくさんありますが、
今回は私なりのリスニング力についての考え方を、ちょっとだけこっそりとご紹介。
一般的に、“I love it!” を “a rabbit” と聞き間違えるということは、
「“L”の発音と “R”の発音がよくわかっていないからだ!」と言う方もいます。
もちろん、それも一理あります。
でも私は必ずしもそこだとは思わないのです。
それはなぜかというと…
私は現在、いろいろな国の人たちと一緒に様々な制作の仕事をしています。
その共通言語はもちろん英語。
でも英語のネイティブではない国の人たちもたくさんいます。
インド英語、香港英語、ヨーロッパ英語、シンガポール英語…と、それはもう様々。
そうなると、 “L”と “R”などのように正しい発音が「聞ける、聞けない」だけでは会議も仕事も進まないのです。
そこで必要なスキルが、2つあると感じています。
それは「自動化力」と「推測力」。
その中でも「推測力」が大切なのです。
もちろんネイティブともそうですが、
どうしても「母語の音」に近くなってしまうノンネイティブとのコミュニケーションには、必要不可欠な要素だと思います。
相手の発音が正しくなくても、「話の前後や流れで考える力」、
それが推測力です。
例えば、
会議で「なんらかの機能を有料で提供するかどうか」という話をしていたとします。
そこで誰かが 「フリー(無料)」と発言したけれど、
その発音は “flea(蚤)”に近かったとします。
話の流れから、だれも「蚤」の話をしたとは思いませんよね。
「あ、 “free”と言ったんだな。」とすぐに理解できる、
簡単に言うとそれが「推測力」です。
以前、こんな事がありました。
ある時、イギリス人の同僚と会話していた私。
話の中で “confident(自信がある)”と話していた「つもり」だったのですが、私は
何度も “conflict(争い、紛争)” と無意識に言ってしまっていたのです。
「はっ!」と自分で気づいた私は、
“Oh, I mean “confident.”(あ、「自信がある」ってことね。)
と言い直したのですが、
「わかってるよconfidentのことだなって。」とその同僚。
ノンネイティブの私の話を、やはり内容から推測してくれていたのです。
「あ、「推測力」使わせちゃった(笑)」
発音じゃなくて単語の言い間違いだけど…。
こういうことって結構頻繁にあるんですよね。
2年くらい前、東京で行われたInternational Conferenceに出向いたときのこと。
私いるブースにはインド、サウジアラビア、ロシア etc. と様々な国の方々が
来られたのですが、中でもインドの人の英語はなかなか難しい。
英語自体は本当にうまいんです。
でも発音に慣れない。
「トゥルルリー」
「???」
「や、やばい、トゥルルリー・・・なんか昔の歌謡曲の歌詞しか浮かばん…
trulyだったら話の内容からして変だしな。よし、推測力、推測力…」
「あ、もしかしてthree?」
そう、それは数の「three」のことだということが判明。
インドの人は結構巻き舌で、threeもトゥルルリーにように聞こえるんですね。
いやあ、まだまだ修行が足りてませんでした^^;
そういう意味でも、話の内容からの「推測力」は必要だなと思いました。
さて、 “I love it.” を“a rabbit!”と捉えてしまったあの小学生の生徒、
高校生になった頃には当たり前のように聞き取れるようになっていました。
しっかりと「推測力」と「自動化」の力をつけていっていました。
そんな経験と思いを込めた教材、多くの人に使ってもらえますように。
「あれ?自動化については?」と思ったあなた。
そのお話は「The Cozy流リスニング力のつけ方(仮題)」で、
またいつかお話させていただければと思ってます。
英語教材開発・制作者
米国留学から帰国後、幼児・児童英語教師を経て、中学・高校英語、受験英語、時事英語等多岐にわたる指導を行い英語教師経験を積む。また、ホテル勤務での実践英語経験を積んだり、カナダにて現地の子どもたちの英語教育にも携わりながら、CertTEYL(世界での児童英語講師認定コース)の認定を受ける。さらに、青山学院大学でTutoringの研究員としても活動。英語講師養成のeラーニングコースの日本での立ち上げメンバーとなる。「現場での経験を教材に活かしたい!」と、現在は英語教材開発会社にて日々教材開発に勤しむ。高校入試用のリスニングトレーニング教材(塾・学校向け)は累計10万部以上のベストセラーとなる。英語教材開発の傍ら、全国の英語教師への研修なども行う。また、土堂小学校(広島県尾道市)での英語指導や、初の民間校長として一躍時の人となった藤原校長(当時:杉並区立和田中学校)が手掛けた英語コースの指導に2年間携わるなど、英語教育に関する多様な分野で活躍。大の犬好きから、ホリスティックケア・カウンセラーなどペット関連の様々な資格を取得し、ペットライターとしても活動中。