米海兵隊司令部での勤務は、Swatchにとって、毎日が刺激に満ちたものでした。
英語によるコミュニケーションは、日米の文化の差を浮き彫りにします。
あなたも、仕事や海外旅行で英語を話す機会を得たときに、緊張と同時に素晴らしいワクワク感があったのではないでしょうか。
やはり言語は、使ってみなければわからないところがあります。
今回紹介する一言は、海兵隊の将軍とミーテイングをしていた時に聞いたフレーズです。
海兵隊の司令官室で、沖縄から東京への出張日程の打ち合わせをした時のことです。
司令官である将軍と海兵隊通訳、副官(秘書)、出張に同行する少佐とSwatchでした。
私が発言したことに対して、将軍がいったひとことが、胸に突き刺さりました。
“You motivated me!”
今までに、職場で上司からそんな言葉を受けたことはなかったので、「えっ!」と思いました。
<将軍が言った!You motivated me!>
“You motivate me!”って、説明すると、(あなたが私をやる気にさせた)という意味です。
Swatchの大学でも、就職先が決まり、卒業単位も修得した学生が、「先生のお陰で、やる気になれました」とお礼をいわれるこの頃です。
日本では、先生、先輩、上司、恩師に、モチベーションをあげてもらって、やる気がでたかについて、お礼を言うことが多いですね。
まあ、半分はリップサービスのところがあります。Swatchも、そういう日本文化にどっぷりとつかっていましたので、「やる気がでました!」は、目上の人にお礼を言う理由だと思っています。
そんな規定概念をもっていた私に、ミーテイングの場で、海兵隊の司令官が、「あなたが私をやる気にさせてくれた」と言われたときは、耳を疑いました。
リップサービスだと思い、“Did I?”とすかさず反応してみると、
「あなたの考えは、論理的で私の今まで考えていなかった、日本人の視点からの意見が参考になる」
と説明してくれたのです。
日米の違いを理解したうえで、日本側の立場に立って発言すれば、日本人は必ず好印象を持ってくれるというような意見だったと思います。
そういう考え方を、「気配り」といいます。あなたも、なるほど!と思われたと思います。
私を、「え!」と驚かせたのは、海兵隊の司令官が、自分の心の動きを正直に発言したことです。
通常、部下が意見を言えば、上司から、それについて良い、悪いといった評価を聞くのが普通です。
司令官は、「自分がやる気になった」と心の動きをミーテイングで発言したのです。
日本では、「君たちが頑張っているから、私も頑張ることができる」といったチームワーク的なことは、いうかもしれません。
個人的に、部下の考えに影響されたとか、やる気にさせられたということは、日本の上司はいいません。言ってみれば、部下から学ぶなんてことは、日本のリーダーにとってとんでもないことなのかもしれません。
<やる気にさせるのがリーダーの仕事>
日米のリーダーシップに差があることは、あなたも感じていることと思います。
その一つが、「やる気にさせる」リーダーシップです。
私が留学した米陸軍の大学では、部下をどのように思いやり、成長させるかというcaring(ケアリング)というコンセプトが大切だと強調されています。
部下の兵士の日常の不安を取り除き、問題を解決して、任務にまい進させるといった考え方です。
難しく言えば、任務にまい進させる環境を作ることです。
それを実行するなかで、“motivate” (その気にさせる、やる気をださせる)ということが重要なポイントとして、考えられています。
リーダーとして、部下にやる気を起こさせなければならないということです。
“I must motivate my members to work hard”
(一所懸命働かせるために、部下のやる気をあげること)
を、常に考えることがリーダーに必要とされています。
(やる気を起こさせる)=(懸命に働かせる)ためという公式になります。
さらに、目標を達成させたり成績や成果をあげさせたりするためには、懸命に働かせるだけではなく、「持っている才能を十分発揮させること、最善をつくさせること」を要求します。
motivate(やる気を起こさせて)、①work hard(懸命に働かせる)、②do his (her) best(ベストを尽くさせる)という二つの目的を達成させることになっています。
日本の場合は、その気にさせることは出来ても、後の2つの目的や目標を達成させるケアが足りないと感じています。リーダーは、やる気にさせて、仕事に懸命に取り組ませ、さらに個人の能力をいかんなく100%発揮させることが必要である、ということになります。
“The Leaders should be motivating their members to work hard and do their best!”
これがリーダーの生きる道です。
<学ぶことに貪欲なプロたち>
そういったリーダーシップの中でもまれた海兵隊のリーダーたちは、自分の気持ちを前向きにさせてくれるリーダーに尊敬を払い、自分自身もそうありたいと思うわけですね。
それにより目標や課題を達成して、成長していく。それが海兵隊の文化です。
日本でのリップサービスで、「やる気になりました」というのではなく、実際に、やる気を起こし、さらに懸命に仕事をして、最善を尽くすことができる仕事環境で活躍ができる。
それがプロフェッショナルです。プロフェッショナルな精神を、英語ではProfessionalism(プロフェッショナリズム)と言います。あえて訳すと、「プロ精神」です。
motivation(やる気)を起こさせるという動詞が、motivateです。
海兵隊のリーダーは、やる気を起こさせることが得意です。やる気を起こさせるプロです。
“The leaders (of the US Marine Corps) are good at motivating their members to do their best!”
((海兵隊の)リーダーたちは、部下が最善を尽くさせるように、やる気を起こさせることがうまい)
やる気を起こさせることを常に求めていることにより、自分自身もモチベーションの塊のような人間になっていきます。
そうなれば“I’m very motivated”(やる気満々です) そういう状態をキープして、活躍していくことができそうですね。
自分を成長させてくれる人物、機会、環境を、そういったリーダーは敏感に反応します。
あらゆる機会と時間を貪欲に利用して、自分の成長を促そうとします。
リーダーたちは、上下の関係、年上、年下等の年齢の違い、学歴の違いといった既成事実にこだわることはしません。学べることがあれば、誰でも、何からでも、学ぼうとします。
海兵隊の将軍がミーテイングで、部下にやる気を起こされたことも、実際に不思議なことではなく、いつでも前向きに、貪欲に他人から学んでいこうという気概が感じられます。
あなたも、そんな上司を目指してみてください。誰からでも学ぶことができる、貪欲な学習意欲と柔軟な思考力。
全ての人、機会から学び、自己実現していく上司がいれば、部下はその背中をみて動きます。
まさしく“You are a very motivated leader”となるのです。素晴らしいですね。
追伸:
文中の写真は、沖縄を訪れ、硫黄島研修に同行したヘイジ海兵隊総司令官(コマンダント)とのスナップです。
硫黄島で、司令官を案内しました。お礼に、沖縄まで司令官セスナ機(アテンダント付)で帰った次の日の朝食会での一番思い出のある写真です。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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