Hi!
火曜のJiroです。
先日スティーブン・キングの『Rat(ネズミ)』という作品を読んだんです。
非常に面白かったのですが、今回は物語そのものではなく、私が思わず唸ったある技巧について紹介したいと思います。
主人公の売れない作家ドリューが、高熱を出しながら小説を書いているうちに、rat(ネズミ)が現れて話しかけてくるようになる、というお話。
ratは物を投げつけると消える・・・しかしまた現れる・・・。
やがて小説は完成するが、ratは消えない。
今度は現実世界にまでついてくる。
ドリューがドラッグストアで、知人のアルと話す場面。
‘…. What I want to know is how you’re doing.
’(….俺が知りたいのは君はどんな具合かってことさ)
‘Pretty good,’ Al said.
(結構調子いいよ、とアルが言った)
‘Except I’ve got this rat to contend with.
(ただこのラット〈ネズミ〉には敵わないぜ)
Now Drew bolted to his feet from his chair, suddenly feeling sick again. Feverish.
(ドルュ―は椅子から跳び上がった。気持ちが再び悪くなり、熱っぽくなった)。
‘What?’
(何だって?)
‘Oh, don’t sound so concerned,’ Al said.
(おいそんなに心配そうな声出すな。とアルが言った)
‘It’s a new medication the doctors put me on.
(医者に処方された新薬さ)
It has all kinds of side-effects, but the only one I’ve got is the rash.
(あらゆる副作用があるんだが。俺のはラッシュ〈発疹〉なんだ)
All over my back and sides.
(背中と脇腹全部さ)…
I had the test and it’s just a rash.
(検査受けたらただのラッシュ〈発疹〉さ)
Itches like hell, though.’
(ただ猛烈に痒いがね)
‘Just a rash,’ Drew echoed.
(ただのラッシュ〈発疹〉か、とドルュ―がオウム返しに言った)
Well, you take care of yourself, Al.
(お大事にな、アル)’
Stephen King. If It Bleeds Rat p.417~ Hodder & Stoughton. Kindle 版. retold
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分かったでしょうか。
私には、活字の中から突然ネズミが飛び出してきたようだったんです。
アルはrash(発疹)の話をしているだけ
でもドリューの頭の中にはrat(ネズミ)がいる
そのため rash が rat に聞こえてしまう…
面白いのは、キングが「ネズミが現れた」と説明しているわけではないこと。
ただ会話を書いているだけなのに、読者まで主人公と同じ幻覚に引きずり込んでしまう…
正直言うと、この原稿を書いている最中、私は何度か背後を振り返ってしまいました。
もちろん本物のネズミではありません。
でもこんな風に頭の中にネズミを住まわせるなんて、名人技なのではありませんか?
また、この時点では私まだ「キングすごーい!」と思っていただけなんですが、読み進めるうちに、
(これって英語学習にも関係が?)
と思い始めたんです。
次はドリューと妻との和解場面。
She took his hand and said,
(彼女は彼の手をとり言った)
‘I was pissed at you for not coming back home, writing your novel.
(私はあなたが家にも帰らず自分の小説を書いていて頭にきたの).
But I was wrong and you were rat.’
(でも私は間違ってて、あなたの方が rat〈ネズミ〉だった)
He took his hand back, feeling feverish again
(彼はまた熱っぽくなり手を引っ込めた).
‘What did you say?
(お前何て言ったんだ)’
’ ‘That I was wrong
(私が間違ってたって).
And you were right
(そしてあなたがright〈正し〉かったって).’
‘What’s the trouble, Drew?
(ドルュ―、どうかしたの?)’
He said. ‘Nothing at all.
(全然何でもない)’
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本来なら、
I was wrong.(私が間違っていた)の次には、
you were right.
(あなたが正しかった)
が来るはずですよね。
でもドリューには、
you were rat.(あなたがネズミだった)
と聞こえてしまうんです。
そして読者の頭の中にも、またネズミが走り抜ける…
最後のはさらに、キングやるなぁという感じ。
He told himself again there was no rat
(彼はネズミはいなかったと再び自らに言い聞かせた)
The rat was in his head
(ネズミは彼の頭の中にいたのだ)
When you thought about it, he had nothing to complain about.
(よく考えると彼には. 何も不満はない)
Really, everything was all rat.
(すべては全くrat〈ネズミ〉だ )
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everything was all rat.
これはもちろん、
everything was all right.
(全て大丈夫)
の変形です。
ドリューは何とか自分を安心させたいようです。
でも読者の耳には、「大丈夫」ではなくもはや「ネズミ」が聞こえるみたいです。
これこそ頭の中にネズミが巣くったとでも言えそうな感じ。
ネズミが英語の試金石?
さて、ここからあなたの英語の話です。
これまでの仕掛けが成立するのは、
rat と rash
rat と right
この綴りで似ているから…ではありません。
耳で聞くと似ているからです。
つまりキングは視覚ではなく聴覚を使って読者を怖がらせています。
だから、この作品を読んで本当にネズミが現れたように感じたなら、あなたの頭の中では英単語が音として鳴っている。
逆に、
「結局ダジャレだな」
という感想くらいだったなら、まだ単語が、あなたの頭の中に音としては入っていないのかもしれません。
英単語は、漢字のように、意味を直接表すわけではありません。
rat の文字が、ネズミという意味を直接表すのではなく、「ラット」という音を通して意味を表すのです。
だから単語の意味だけ覚えても、音が伴わなければ会話はできません。
極端な言い方をすれば、「英語の発音」という表現さえ少し変です。
英語はイコール発音、音そのものなのです。
実際の英語をたくさん聞き、たくさん声に出して読んでみましょう。
そのうちに、英語は単なる文字列でなく、音として感じられるようになるでしょう。
そしてある日活字の中から突然、ネズミが飛び出してくるかもしれません。
私立学校に英語教師として勤務中、40代半ばに差し掛かったころ、荒れたクラスを立て直す策として、生徒に公言して英検1級に挑戦することを思い立つ。同様の挑戦を繰り返し、退職までに英検一級(検定連合会長賞)、TOEIC満点、国連英検SA級、フランス語一級、スペイン語一級(文科大臣賞)、ドイツ語一級、放送大学大学院修士号などの成果を得る。
アメリカで生徒への対応法を学ぶ為に研修(地銀の助成金)。最新の心理学に触れた。4都県での全発表、勤務校での教員への研修を英語で行う。現在も特別選抜クラスの授業を全て英語で行っている。「どうやって単語を覚えればいいですか?」という良くある質問に答える為、印欧祖語からの派生に基づく「生徒には見せたくない語源英単語集」を執筆中。完成間近。常日頃洋書の読破で様々な思考にふれているが、そうして得た発想の一つを生かして書いた論文がコロナ対策論文として最近入賞。賞品の牛肉に舌鼓をうっている。元英検面接委員






