防衛省上級英語課程を卒業し、英語を使った業務に従事した頃、1日7時間の翻訳業務をこなし、ストレスフルの状態。午後5時を過ぎると,スポーツクラブや六本木の街で,ストレスを発散していた。
当時、私の行動地域(action area)は,防衛庁のあった赤坂9丁目(現ミッドタウンが防衛庁跡地)を中心に,六本木全域、赤坂,麻布一帯に及んだ。これにはある計算されたもくろみがあった。
六本木交差点には、待ち合わせ場所として有名なアマンド(Almond),西麻布の交差点付近には、アイスクリームのホブソンズ(Hobson’s)があり、多くの外国人観光客がたむろしていた。
六本木を突き抜ける外苑東通りは、ビル全体が飲食店である中高層のビルが連なり、夜はネオン街となる。六本木界隈は、17人に一人は外国人が居住していており,英会話好きには人気のスポット。
何が人気かというと、外国人と気軽に話ができる場所ということだ。飲食店で働く外国人が日本人客を店に呼び込むために、夕方から歩道にでてくる。つまり,外国人と英会話が無料でできるのだ。
店の前では、様々な人種が、片言の日本語で客引きをする。英語の話せる日本人は、彼ら、彼女らにとっても言葉が通じるので都合がよく、客を店に呼び込もうと英語で軽口を交わすことになる。
さながら六本木は英会話のフリータウンだ。
英会話の武者修行
行きつけの外国人の多いレストランやバーで,バー・カウンターに座り,隣に外国人が座るのを待つ。英会話武者修行の場である。常連になると,外国人から声がかかり始めた。
外国人観光客の場合、話によっては、そこからツアーガイドのようなこともした。
まず、六本木のディスコやクラブは、入り口で黒服が入場チェックをしていた。黒服とは、タキシード、ブラックタイを身に付けた従業員だ。街中のレストランやバーでは,ドレスコード入場制限をしていた。
男性客は、ブランド物のスーツが定番、女性はボディコン(体にフィットしたワンピース)。肩や腕を出し、ドレス丈もミニ。六本木の街が一気に華やいだのは事実である。
外国人の観光客は,スマートカジュアルな恰好が多い。日本人ならドレスコードに引っ掛かり入場できないような服装でも,私がエスコート(一緒に入場)すればOKなディスコもあった。
ディスコでも英語の個人レッスンの時間が確保できる。常に持ち歩いている電子英和辞書も大活躍であった。ただし、相手の目前で、単語を引くことはない。会話をするときは,相手の目を見るが基本。
英語の修行にもルールがある。相手に不快感を与えないこと。目の前で電子辞書は使わない。英単語や内容が理解できない場合でも、自分の英語力と知識を使い、コミュニケーションをとるのだ。
相手と別れた後、会話中に記憶した知らない英単語や口語表現を、忘れないうちに整理する。そして、長期記憶にしていく。毎日が新しい発見の連続であった。
秘密の隠れ家:ジャズバー
六本木の賑わいとは別に、西麻布の交差点を入ったところ(現在の六本木ヒルズ辺り)に私のお気に入りのジャズバー「射手座」があった。店を知ったきっかけは、ジャズ好きの友人の紹介だった。
2階建ての一軒家に,小さなネオンサイン「射手座」が点灯していた。狭い階段を2階に上がると、ドアに照明が当たり店の名前が浮き上がっていた。ドアを開けると、ジャズ・トリオが演奏していた。
女性オーナーが目の前で、“Welcome”とつぶやく。その妖艶さに虜になったのかもしれない。
カウンターだけのバーで、アップライトピアノが店の奥にあり、そこで生演奏する。演奏中にリクエストはご法度で、バーのオーナーママに希望の曲を告げる。チップは、カウンターに置かれた専用のワイングラスへお札を差し込む。
麻布界隈には、当時でも多くの大使館があり、現在では40以上の大使館がある。六本木の喧騒を避けた大使館員が顔を出す国際的なバーで、英語も行きかう。
常連や大使館員のお目当ては,ママの作る手料理。季節を先取りした日本料理一品がチャージに含まれている。春ならばタケノコの炊いたん,夏は鱧,秋ならばマツタケご飯,冬はジビエの煮物と舌包みをうつ。ジャズの生演奏を聴きながらである。
隣り座った様々な国の大使館員が、それぞれの国の文化や風習を教えてくれる。こちらも日本の文化を紹介する。英語での話が盛り上がり、酒も進む。
アメリカ大使館に勤める陸軍の将校からは,「アメリカ陸軍の階級と酒の関係」を教わった。アメリカの特産であるバーボンの話であった。
兵(Private)は,Early Times or Four Roses (アーリータイムズ又はフォーロウゼズ)
下士官(NCO)は,I. W. Harper (I.W. ハーパー)
将校(Officer)は,Jack Daniel (ジャック・ダニエル)
将軍(General)は,Wild Turkey (ワイルドターキー)
米陸軍では,伝統的にバーボンが良く飲まれる。
その際、兵は,アーリータイムズを好み,下士官はI.Wハーパーを愛す。
将校は,ジャック・ダニエルを常飲する。
しかして将軍は,ワイルドターキーを嗜(たし)なむ。
バーボン好きならピンとくるだろうが,お酒に興味のない人は???かもしれない。
階級によって飲む酒が違うというのは,給料の違いからくる。階級が上がれば,給料も上がり、高級な酒を飲めるということである。
将軍ではないが,私はこのワイルドターキーをがぶ飲みし,六本木を英語でぶつぶつと独り言を言いながら,ふらついていたものである。
防衛庁は移転し、跡地はミッドタウンになった。行きつけのバー辺りは、六本木ヒルズとして再開発され店じまいした。街は発展したが、私が通ったような国際色豊かな店はバブルのように消えた。
バーボンの話、ジャズ、外国の文化・風習であろうが、好きなことを英語で多くの外国人と語り合った経験は、私を国際化してくれた。経験や思い出が、英語ペラペラの礎となり、知識の引出しとなっている。
お話した六本木のような都市はないかもしれませんが,現在、多くの外国人が日本で働き、滞在しています。礼儀をわきまえた英会話の武者修行、チャレンジしてみませんか。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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