「え???ウソ?…財布が…ない!」
私の全財産が入った財布が…ない。
ベトナムのホーチミンに到着し、ホテルに入ったばかり。
これから9日間も旅行はあるのに、日本円もベトナムドンも、そしてクレジットカードも全てがあの財布に入っていた。
最悪…。終わった…。ほんとついてない…。
<始まりはぼったくり>
初めてのベトナム。ホーチミン空港の外に出た私は少し緊張していた。空港からホテルまではタクシーを使う予定。タクシーを使う時にはいつもボッタクリされるのではないかと気になる。特に、東南アジアでは注意が必要だ。
出口を出るなり、出口付近は人の山。
出迎えに来た人や、ツアーのプレートを持った人、そして、タクシーの客引きの人たち。
すかさず“Taxi?”と数人が声を掛けてくる。こういう声をかけてくるタクシードライバーは、絶対に怪しい。営業許可のない白タクの可能性が高い。
もちろん“No.No.”と首を振って、彼らを振り切る。
正規のタクシー乗り場から乗ろうと乗り場を探すが、ネットで見ていたタクシー乗り場のような物が見当たらない。タクシーが連なってる感じもない。
はっきりと分からないものの、タクシー乗り場があるとされていた場所に黄色いタクシーが停まっていた。
「どうしよう…。このタクシー大丈夫かなぁ…。」
タクシーから少し離れて迷っていると、タクシードライバーさんが近づいてきて“Taxi?”と声をかけてきた。
「これは怪しいのか?でも、白タクではなさそうだし…。大丈夫か。」とそのタクシーに乗る事に。
乗っても安心はできない。すぐにメーターがあるか、そしてメーターを回すのか確認する。
すると、ちゃんと走りだすとメーターを回した。
第一関門、突破。
市内までは30,40分の距離。その間、メーターをチラチラみながら急に上がったりはしないか、ハイペースで回ってないかを確認。
ベトナム通貨のドンは、1円が100ドンとゼロの数が多い。なので、メーターもどんどん上がる感じがあり、焦ったが、実際は数円単位。
空港から市内までの相場は15万ドン位と調べていたので、それを大きく越えなければ大丈夫かとしばし落ち着く。
ホーチミン市の街中に入り、外の賑やかさに目を奪われているとタクシーがゆっくりとスピードを落とした。
「お、ホテルに着いたの?」と思いメーターに目をやる。
すると、道路脇に止まるかどうかという所で、パッとメーターが跳ね上がったのだ!
それまで順調に相場内の15万ドン辺りで来ていたのに、急に20万ドンになったのだ!
(えっ!!!今、メーター急に上がったよね?!しかも20万ドン!)
相場を大きく超えている。
と言っても、実際は数百円の事なのだが、到着したばかりでドンの感覚が身についてなかった私には、5万ドンの違いは数千円位、めちゃくちゃ大きなお金に思えたのだ。
(ボッタクリだ!)
しかも、タクシーはホテルの道の反対側、少し離れた所に止まったのだ。益々怪しい。
タクシーを止め、平然と20万ドンを要求するタクシードライバーに
「さっき、メーターが急に上がったよね?20万ドンは高すぎる!」と抗議。
すると、片言の英語で「空港からは別料金がかかる」みたいな事を言ってきた。
ホテルの人に聞くからホテルの前につけてと言っても、「英語が分からない」とか、「できない」とのらりくらりとかわされる。
「20万ドンは払わない。15万ドンね。」と15万ドンを渡そうとしても「No,No.20万ドンだ!」と受け取らないし、一歩も引かない。
しばらくは言い合いをしていたものの、だんだんと言い合いにも疲れてきた。
(5万ドンっていくらだっけ?)っと考え、(300円位ならもういいか。)と諦めの域に入る。
きっと相手は数百円だからと諦めるのを待ってるんだろう。数百円でもこっちでは結構なお金になるんだろうし…。相手の思う壺になる事に苛立ちを覚えながらも、根負け。
「20万ドン払えばいいんでしょ!これで満足?」と睨みつけるようにして捨て台詞をはき、お金を突きつけた。
<今度は財布が…ない?!>
(まったくもう!着いた早々、気分悪いわ~!最悪…)
そう思いながら、荷物をひき道路を渡りホテルへ。この時点で、ベトナムとベトナム人の印象は最悪。
イライラしながら、ホテルのガラス扉を開けると、車のクラクションやバイクの音で騒々しい外と違い、中はとても静かで落ち着いた空間だった。
スタッフが笑顔で迎えてくれる。その笑顔にわたしも少し、平常心を取り戻す。
歩いて入ってきた私を不思議に思ったのだろう。
「どうやって来たんですか?どこからか歩いて?」と聞いてきた。
そう聞かれて、
「タクシーで来たんだけど、ホテルの前に止めてくれなかったの。おかしいよね?料金も20万ドンって言って!高いよね?」
と同意を求めるようにさっきの事を全部話す。
すると、彼も「それはおかしいですね。ホテルの前に止まってたら、僕たちが助けてあげられたんだけど…。時々そういうタクシーがいるから注意した方がいいですよ。」と安心できるタクシー会社を教えてくれ、流しのタクシーは乗らない方がいい事など教えてくれた。
チェックインの時間にはまだ少し早い。ロビーでゆっくりしながらとりあえず無事についた事を友人や家族に連絡しようと思った。
今から6,7年前の事。WiFiは既にあったが、私自身はよく分かっていなかった。しかも海外で日本の自分の携帯からWiFiに繋げるのはその時が初めて。
ホテルでWiFiのパスワードを聞いて、いざ繋げてみる。
繋がらない…。
何度やってみてもWiFiには繋がっているはずなのに、ネットは使えないのだ。
(タクシーの後は、ネットだよ~。もう、何で何もかもうまくいかないの?)立て続けのトラブルにまたイライラしてくる。
(とりあえず、着いたって事とネットが使えないって事だけでも連絡は入れとこう。)とホテルロビーに置いてある有料のパソコンを使う事にした。
そこで、フロントでお金を払おうとした、その時…。
「え???ウソ?…財布が…ない!」
バッグの中身を全部出しても、バッグのポケットを確認しても、財布がないのだ!
えっ?
エッ?
えっ?
どういう事?なんでないの?
(ひょっとして…あのタクシーの中に忘れた?!)
頭が真っ白になり、血の気が引く。
あの財布には日本円、両替したドン、そしてクレジットカードも全てが入っている。ホテルの部屋でゆっくり小分けにするつもりで、まだ財布を分けてもいなかった。
あの財布には私の9日間の全財産が入っているのだ。しかもカードまで全部!
そして、忘れたのはあのぼったくりタクシー。
(あのぼったくりドライバーじゃ絶対に盗ってる!カードももう使われているかもしれない…。)
ドライバーと言い合いになって、頭に血がのぼり、払う時も文句を言う方に神経がいき、財布をしっかりバッグに入れていなかったのだ。
いつもなら、降りる時にも忘れ物がないか座席を確認するのに、この時はイライラして確認もせずにバンっとドアを閉めたのだ…。
何という事だ…。終わった…。
すぐにフロントスタッフにその事を伝えて、タクシー会社を探してもらう。
が、私が覚えているのは「黄色いタクシー」というだけ。特徴的な色だからすぐ分かるかと思いきや、「黄色のタクシー会社はいっぱいあるよ。」とスタッフ。
それでも、思い当たるタクシー会社に電話をしてくれ、少し前に空港からホテルまで行ったタクシーがないかを聞いてくれた。
いくつかのタクシー会社に電話をしてくれたが、結果はやっぱり見つからなかった。
忘れ物や落し物がちゃんと出てくる日本とは訳が違う。現金の入った財布なら、なおさら絶望的だ。出てくることはあり得ない。
特にあのぼったくりタクシードライバーではネコババするに決まっている。今頃大喜びしているに違いない。
(現金もカードもなくなって、これからどうする?)
絶望の淵に立たされ、「どうしようか?警察に届けようか?」とフロントスタッフと話していると…
さっき、乗ったのと同じような黄色いタクシーがホテルの前に止まった。
「あ!あんなタクシーだったんだよ!」と指を指して、スタッフに告げる。
スタッフもカウンター越しに覗き込む。
すると、中からドライバーさんが降りてきた。
な、な、なんと!
あの、ぼったくりドライバーではないか!!!
「あ!彼だ!さっき乗ったドライバー!」
そして、高く上げた彼の右手には私の財布が握られている!
「あ!私の財布!」
フロントスタッフが言うには、座席に財布が忘れていたのに気づいて持ってきたと言う。
(え???ぼったくりだったけど、財布は盗らなかった?しかもホテルまで持ってきてくれて。この人はいい人だったの???)
財布を受け取り、中を見てみると、現金もカードも全部そのまま入っていた。抜かれている感じもない。
(どういう事?本当はいい人なの?)
彼の行動は意味不明だったが、とにかく私は命拾いした。なんせ全財産を失う所だったんだから。
それで、ぼったくられたドライバーではあるが、届けてくれたという事で私はチップを渡した。
ぼったくられて、さらにチップを渡すとはお人好しな気もしたが、全財産なくした場合を考えるとチップを払っても全然安いと思った。
それに、私はあんなに文句を言って悪態をついたのに、彼は親切に財布を届けてくれて、自分が恥ずかしくもなったのだ。
それにしても、変な事件だった。
今思い出しても意味不明で笑ってしまう。
なんで、あのドライバーさんは財布を届けてくれたのか。しかもあんなに拒否していたホテル前まであの時はタクシーを寄せて。
ぼったくった分、財布まで盗るのは悪いと思ったのだろうか…。それとも、彼は本当はぼったくりではなかったのか…。謎だ。
海外では不思議な事やあり得ない事が時々起こる。
だから海外は面白い。
日本では体験できないことが体験できるから。
ハプニングもまた楽しい海外旅行の思い出。
とはいえ、いつも忘れ物が返ってくるとは限りません。財布は小分けにして、忘れ物がないか確認しましょうね。
中学生時代から英語を話せるようになる事に憧れ、外国語短大へ進学。その後イギリスへ留学するも英語が話せず落ちこぼれの生徒に。英会話のトレーニング(カランメソッド)を受け英会話が上達。帰国後、夢だったツアーコンダクターになる。渡航国約35カ国 年間200日以上を海外で過ごす。その後オーストラリアにワーキングホリデーで渡り、オーストラリアにあるハミルトン島のリゾート会社に就職。その後日本に帰国し、京都のホテルやゲストハウスなどでの経験を経て、地元宮崎にUターン。現在は地元宮崎で、英会話教室及び、単位制、通信制の高校で英会話を教えている。
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