Apollo Theater / アポロシアター・イン・ ハーレム
このシアターが建設されたのは1914年。まさに第一次世界大戦の始まりとほぼ同じ時期とは、不思議な巡り合わせです。アフリカ系アメリカ人が多く住むここハーレムに、一大イベントシアターが創設されました。
多分昨今では、ニューヨークのハーレムで一番有名な劇場ではないかと思います。アポロシアターと言えば、スティービー・ワンダー、ジャクソン5(マイケル・ジャクソンがリードヴォーカル)、エラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリデイ、ダイアナ・ロス、マーヴィン・ゲイ、アレサ・フランクリン、ジェームス・ブラウンなどを生み出した、毎週水曜日のアマチュアナイト。この話題は、きっとご存知と思います。
アフリカ系アメリカ人によるキレッキレのフルバンドが、ステージ上にスタンバイ。コメディアンでもありパフォーマーの、大笑いするようなジョークを交えたMCで、このショーがスタートします。客席に向かって、1階席、2階席、3階席と分けて掛け声を競わせたり、それをラップ調でやったり、オーディエンスの中にはもうそのグルーブでノリノリ、立ち上がって踊りだす人もいたり、アフリカ系アメリカ人ならではのノリがある、いろんな面白い演出があります。観客も、全然恥ずかしがったりしないんです。精一杯の大声を上げて笑って、司会者に答えます。
この賞金のスポンサー会社は、コカコーラ。勝ち抜いていくと、約200万円ほどの賞金がもらえるそうです。今までに、日本人もダンス部門などで、結構挑戦しているそうですよ。優勝者も、何人か出ているそうです。
オーディションを通過したアマチュアの、シンガーや、ダンサー、ラッパーやビートボックス、ミュージシャンなどが次々と登場して技を披露するのですが、審査するのはオーディエンスのみなさん。この皆さんが大声でブーッと何度もブーイングをすると、そのパフォーマーは舞台の袖へ追いやられてしまいます。ピエロの格好したおじさんがほうきを持ってステージ上に上がってきて、叩き出しちゃうんですよ。
感動するのは、子供の部があって、本当に大人顔負けの芸を披露するんです。ちっちゃな坊やがマイケルジャクソンの衣装を着て、彼のダンスをそっくり披露してくれたり、可愛らしい少女が見事なゴスペルを聞かせてくれたり、します。将来が楽しみ、とニコニコしちゃいます。
そして勝ち残った人たちの中からその週の優勝者が選ばれ、チャンピオン大会へと進みます。スタ誕みたいな感じですね。ただ、審査員は、一般のオーディエンス。専門家でなく、普通の人の心を、しっかり掴めた人が勝ち、と言うわけです。思いっきり、それぞれ自分の応援する出演者のときにそこでワーワーキャーキャーと声援や拍手でノイズを出してもらい、その音量の大きさで判断するって言う感じです。最近はその音の大きさがデジタルに数字でステージ上に出るので、それで優勝者が決まるみたいです。
1934年より、この間に何度か、数年づつ経営困難のため劇場が閉館していたこともありますが、これだけ、アマチュアが参加してオーディエンスがそれを楽しみながら評価するって言う形式のショーが長く続いているのは、さすがクリエイティブな才能を持った人々が集まるハーレム、1920年代からのアメリカの突出文化的ムーブメント、「ハーレムルネッサンス」を生み出した唯一のシアターだけの事はあります。めちゃくちゃ多くのファンが、世界中にいるんだと思います。早くコロナが終わって、またこの楽しさがニューヨーク、ハーレムに戻ってくることを祈ります。
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。