こんにちは
NYのKayoです。
日本にいた頃、私は「お巡りさんは、困ったときの市民の味方」という考えを、疑いもなく持っていました。
財布や定期券を落としたら交番へ。道に迷ったら交番へ。子どもの頃からそう教えられ、実際に落とし物が持ち主に戻ってきた経験もあります。だから「お巡りさんを信じる」ことは、日本人にとってほぼ常識といっていいと思います。
ところが、アメリカに来て最初にカルチャーショックを受けたのが、この「お巡りさん信仰」の崩壊でした。
警官に届けたら笑い話に!
ある日、街を歩いていて、なんと現金の札束が入った封筒を拾ってしまったのです。私は迷うことなくポリスに届けました。
ところがその話を友人や知人に話した途端、返ってきたのは「なんて馬鹿なことを!」という大合唱。あっけにとられる私に、彼らは口々に「そんなのは警官が自分のものにするに決まってる」「届けたって持ち主には絶対戻らない」と言うのです。
もちろん、アメリカの警察官が全員そんなふうだと言いたいわけではありません。
でも「落とし物を届ける=正しいこと」という日本的発想は、こちらでは笑い話にされてしまうのです!
ニューヨークで暮らして30年、確かにこの国では「警察を無条件に信じる」人にはほとんど出会ったことがありません。むしろ「警察とは距離を置くべき存在」と考える人が多いのです。
日本で警察に届けたら・・・
一方で、日本の交番文化は独特です。
24時間365日、制服姿のお巡りさんが待機していて、落とし物から迷子相談まで、何でも親切に対応してくれる。世界の大都市をいろいろ見てきましたが、この安心感は、日本だけの宝物かもしれません。
ずいぶんと昔の話にはなりますけれど、東京の六本木で女子会の帰りに、一ツ木通りでアタッシュケースを拾いました。ピカピカ光るジュラルミンのロックのかかったもので、どう見ても高級そう。
どなたかが紛失したものに違いありません。私たちはわざわざ警察まで行って、それを拾得物として届けました。
後日、電話があり、その方は近くのレストランのオーナーで、その日の売り上げや銀行関係の書類が全て入っていたそうです。その日はあまりにも荷物が多く、タクシーに乗るときに何かの拍子で落としてしまったようでした。
その後、私たちはそのレストランに招待され、食べ飲み放題となり、おまけに金一封までいただいて帰途についたのでした(笑)
米国では警察を信用しないのが普通
日本に行った時、日本の友人に「アメリカでは、警察を信用しないのが普通だよ」と話すと、今度はこちらが驚かれる番です。
友人は「だって警察官なのに?」「じゃあ落とし物はどうするの?」と目を丸くするのです。
そこで私は「落としたらまず戻ってこない、と思った方がいい」と答えるのですが、なかなか信じてもらえません。
結局、これはきっと、歴史をさかのぼって考えるに、文化の違いに相違ない。
日本では「信頼を前提に社会が回る」。アメリカでは「まずは自分で守る」が前提。警察官という存在ひとつ取っても、ここまで価値観が違うのですね。
それにしても、あのとき拾った札束は今ごろどうなっているのだろう(笑)。持ち主に返っていたらいいなと願いつつ、名前も何も書いていない封筒に入っていた札束。誰かが、おいしいご飯でも食べたのでしょうか(笑)。
アメリカ人の友人たちに話すと、今でも「あなた、やっぱり日本人だね」と笑われるのです。こういう感覚は、なかなか変えるのは難しいですね。
それではまた来週♫
Kayo
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。

