私Swatchが、防衛省の語学学校で英語を習い始めて3ヶ月。やっと日常会話ができるようなレベルになり,英語って楽しいなという実感がわき始めていた頃,英語学生にあたらしい「教範」(きょうはん)が配られました。
自衛隊の専門用語で、「テキストブック」のことを、「教範」といいます。
そのタイトルが「軍事英語教範」
この軍事英語教範が、自衛隊通訳として英語ペラペラになる為に,必須のものだったのです。
軍事英語って何?
「軍事英語教範」は、自衛隊で編集した軍事英語のテキスト。何が書いてあるんだろうとペラペラとページを食ってみると、不思議な感じが。次の瞬間,全く訳が分からん!
アルファベットを並べたページに,
A Alfa (アルファ)
B Bravo (ブラボー)
C Charly (チャーリー)
D Delta (デルタ)
E Echo (エコー)
F Foxtrot (フォックストロット)
G Golf (ゴルフ)
・
・
・
と印刷されています。
※(読み仮名)は筆者注
これは,軍の中で使われるアルファベッドの呼び方,発音の仕方が書かれていました。
軍の電話は,非常に音が悪く聞き取りづらいので,アルファベッドを正しく伝えるために,アルファベッドを単語に置き換えたもの。
日本で言うと,東京の「と」,インクの「い」のように単語の頭文字を使って,確実に伝えようとする工夫だったのです。
正式には,NATOの同盟国が使う「NATOフォネティックコード」という暗号です。米軍人,自衛隊員は,これを暗記して実際に作戦で使うのです。
例えば,電話で日本の地名を告げる場合,日本の地名は、外国人には良く聞き取れない場合があります。そういう時は,アルファベットの綴りを聞き,確認します。
自衛官:Come to the Fuji area!
(富士地区まで来てくれ)
米軍人:What’s area? How do you spell it?
(どこの地区だって?どういう綴りだ?)
自衛官:Foxtrot, Uniform, Juliet and India!FUJI
(F・U ・J・Iで富士だ)
米軍人:Roger!
(了解!)
軍の使う言葉や用語は,教範(テキスト)に記載されていることが基準となり,それを暗記して使うことが義務付けられています。
聞き違いや,間違ったことを相手に伝えないように,すべて教範に書かれています。
上記アルファベットの呼び方に始まり,教範に書かれている様々な軍事英語(英語の専門用語,また専門用語を使った英会話)を,防衛省の英語学校の学生(自衛官)は暗記をして,最短3か月で通訳となるのです。
英語ペラペラは、自分の世界を表現できること
日本人は,英語を義務教育で3年間,高校で3年間、さらに人によっては大学で学術的な英語を数年学びます。そこで学ぶのは,文法、長文読解、そして英会話は,いわゆる汎用英語です。
また,TOEICは,生活やビジネスに関連することを想定して,プログラムされていますが,一般に,TOEICで想定された場面に出くわすことは,あまりないかもしれません。
英語のテキストに必ずある海外旅行の章。美しい外国の景色で心ワクワク,海外の空港の様子や,チェックカウンターの写真は旅心を刺激しますね。
でも,海外旅行編の英語を暗記しても,海外旅行しない人も多くいます。日本国内では,税関での英語はまず使いません。
この海外旅行の章を含め、広く浅くいろいろなことを知っておく,というのが義務教育や英語学校で行われている英語教育ですね。でも,あまり役には立たないと実感する方,多いのではないでしょうか。
それはなぜか。それは,この英語教育だけでは,自分のこと,自分で考えていることを,相手に英語で伝えることができるようになるには不十分だからです。
英語ペラペラとは,あらゆることをすべて英語で表現できることではなく,自分こと,自分が生活している,働いている世界を,英語で表現できることだと考えます。
自衛隊通訳の英語ペラペラ
防衛省の英語学校での教育目的は,「英語を話せるようになること」ではなく,「英語通訳を養成する」ということです。
そのために,軍事英語を覚える。軍事英語は,すべて教範にかかれている事項で,軍事の世界の常識です。自分の世界の常識が英語でいえる。これがポイントです。
その常識をしっかりと押さえておけば,英語は実用的なものになる。つまり英語ペラペラの世界になるのです。
私の教えていた英語課程の卒業要件は,TOEIC400点でした。
一般的にTOEIC400点は,日常の会話もうまくできないレベルで、TOEICの7段階の評価で,「400点~495点:基礎力不足,意思疎通は限定的,読み書き不正確」となっています。
しかし,自衛官は,この軍事英語をしっかり覚えることで,最短3ヶ月で米軍人との通訳として,英語ペラペラになります。逆に,TOEIC800点でも,軍事英語を知らなければ,自衛隊・米軍間の通訳はできません。
このように、自分の仕事や生活で必要な分野の英語に特化して学んでいく、自分が伝えたいことに限定して学習することが、英語ペラペラの早道になります。
絶えずアップデイトする
軍では,次々に新たな技術が導入されます。多額の研究費をつぎ込んで,兵器の性能をあげるのに必死なのです。
装備・兵器の能力が向上すると,それに伴って軍事作戦自体にも影響が出て,新しい戦い方が生み出されます。
その結果,今までのマニュアル(教範など)が書き直されることになります。それが頻繁に起こるのです!
米国の教範が変われば,自衛隊通訳が最初にその教範を勉強し,知識を新たにする必要があります。
自衛隊通訳は,米軍の教範の変更に応じて,軍事英語の知識をアップデイトしていくことが必要。アップデイトしなければ,通訳任務につけない過去の人になってしまいます。
アップデイトしているから,通訳ができる。英語が通じるのです。
これは,一般の英会話も同じことです。会社,自分の置かれている立場が変化すれば,その変化した部分をアップデイトすることが非常に大切です。会社の変化,取り引き先や輸出入国の変化,アプリなどのソフト面の変化,新技術の導入など,自分のビジネスの変化に伴って必要になった新たな英語を取り入れていくことが必要です。
何年も英語を勉強しているけど,ペラペラ感がないと感じる人は,英語のアップデイトが滞っているのかもしれません。
英語ペラペラへの早道は,自分の必要な英語に特化して学ぶこと。そして,絶えずアップデイトしていくことで,英語ペラペラを維持できるのです。
私自身,仕事の変化だけでなく,新しい趣味を始めた時等,英語で説明できるように, 常に情報をアップデイトしています。
今年もあと3日、今年一年でアップデイトし忘れているところがないか、来年に向けて見直してみるのも良いかもしれませんね。
それでは、2022年が,皆様にとってより良い年となりますように。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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