あなたは,英語で大勢の前で話をしたことはありますか?
それも、筋肉隆々の米海兵隊員の前で、、、
おそらくほとんどの人が、そんな経験ありませんよね。
海兵隊に会ったことも,街で見かけたこともないでしょう。
ですがもし、大勢の海兵隊員の前で、
あなたが英語で命令したり,指示しなければならないとしたら、、、
あなたはどんな風に英語をはなしますか?
それは大声で「貴様ら,聞け!」と
シャウトすること、ではありません。
実は,小声でボソっとつぶやくだけです。
今回は,そんな英会話の技術をあなただけにお話します。
<“Listen up!”で座は静まり返る!>
東京都内の某議会場に,私が主任教官をつとめる英語課程の学生40名の自衛官とキャンプ富士に所属する海兵隊員20名が集合している。
60名は,ここで首都防災対策のブリーフィングを英語で受け,日米共同防災活動の基本的事項を理解し,将来の災害時の共同作戦に備えるのである。
簡単に言えば,将来,英語通訳官となる自衛官の研修である。40名の学生は,2~3名の海兵隊員とグループで,GMEP(ジーメップ)という交流プログラムを実施するのだ。
GMEPとは,GSDF Marine Exchange Programの略語(アクロニム)
Ground Self-Defense Force : 陸上自衛隊
Marine :マリーン,キャンプ富士の米海兵隊員
Exchange:交流又は交換
Program:プログラム
英会話の慣熟度を上げ,海兵隊員とも対等に英語で話ができる関係を作るため,1泊2日で,両部隊の隊員が都内で研修をするSwatchオリジナルのプログラムであった。
プログラムの概要を説明しよう。
1日目は,小平市にある防衛省語学学校で,陸上自衛隊と各駐屯地等の概要を学習する。
2日目は,グループ(自衛官4名,海兵隊員2名)で,都内研修。
各グループは,初日に共同で都内研修(議事堂見学,浅草研修等)の計画を一緒にたてる。その間,日本語は禁止。すべて英語で会話をする。一日中,英語漬けとなる訓練となる。
グループごとに小平駅を7時30分に出発し,新宿都庁に集合する。「痛勤電車」を体験。自衛官は,東京勤務の予行。海兵隊員は,日本のビジネスの厳しさを体験してもらう。
浅草でのランチも学生が決める。海兵隊員の好みや食のアレルギー,日本の食文化の紹介,マナーなどを英語で説明する。将来通訳官として,海外の高官を招聘するときに重要だ。
議事堂見学では,東京都防災に関する特別ブリーフィングを受講し,将来の災害派遣行動の基礎知識を習得する。この研修の目玉である。担当官も英語でブリーフをしてくれる。
ブリーフィング会場となる会議場は,特別に入場が許可されており,机上には,Governor, Chief, City Mayorなど,地方行政の長の名札が設置されている。
学生も海兵隊員も,心は「ちむどんどん」(沖縄方言でドキドキすること)である。
”Hey!I’m sitting in the Governor’s chair!”
「知事の席に座ってるぜ!」
と大声を出す。
ブリーフィングの準備で,担当者がマイクのテストを始める。Can you hear me?「聞こえますか」といっても,誰も反応しない。学生と海兵隊員は最高に盛り上がっている。
防災ブリーフィングを前に,無邪気に騒いでいる60名を前に,私はブリーフ台に立った。話し声は止まない。私は,マイクに向かって,ボソッ!とつぶやく!
“Guys! Listen up!”
一言つぶやいただけで,座は静まり返った。正しくは,海兵隊員全員が私を注目し,話をやめた!日本人学生は,状況が分からないものの,空気を読んで静かにしている。
“Thank you for your attention! It’s my honor and pleasure to introduce you Colonel K, ,,,”
「注目ありがとう!本日説明をしていただくK1佐を紹介するのは私の歓びであり光栄と」
と担当の講師を紹介する。そして,1時間のブリーフが始まった。
”Guys!Listen up“ でなぜ静かになったのでしょう。まず,Guysは,「お前(男)たち」という意味ではありません。女子も含まれています。親しい呼びかけなのです。
Listen up!「聞け!」は文法的には命令形と説明されますが,実際は,up*をつけることによって,聞くことに集中しなさい,全力で聞きなさいというニュアンスになります。
自分の頭を「聞くモードに切り替えなさい」という言い方です。便利ですね。
大声でシャウトする必要もなく,淡々と目の前の海兵隊員に告げれば良いのです。
*upの様々な使い方は、稿をあらためて取り上げたいと思います。
<“You can come to my office to talk with me”で自分の立場を理解させる>
次に,Swatchが沖縄の海兵隊基地で勤務していた時のことです。
私の仕事は,沖縄の10か所の基地を訪問して情報を集めること。
陸上自衛隊と米海兵隊の人事交流,相互訪問,各種行事の招待,出席に関することです。いわば,営業活動です。お客様のニーズに応えるべく話を聞くために訪問する。
キャンプ・シュワブを訪問した時,司令部の前の休憩所でアポ前の時間つぶし。若い海兵隊員5~6名に囲まれた。自衛隊の迷彩服が珍しいらしく,まずはジロジロとみられる。
「その迷彩柄,新しいパターンか」と気軽に話しかけてくる。ちらっと階級を確認する。上等兵だ。海兵隊員は,誠実で素朴である。普段は,目上に対する遠慮も忖度もない。
上等兵は,最新のデザインのデジタル・パターンという迷彩服を着ている。海兵隊では迷彩戦闘服を,カモフラージュ(camouflage)を縮めて「キャミ」と呼んでいる。
「これは,自衛隊のパターンだよ。デジ・キャミもカッコいいじゃないか」
「日本の? 海兵隊じゃないんだ。ここにどうしているんだ?日本人は珍しい」
とため口。Swatchは,こういった会話の時間が,非常に楽しい。
「司令官と最先任上級曹長に会い来たんだ。もうすぐアポの時間だ。」
私の役職と階級をつげると,若者たちはそそくさとその場を立ち去ろうとする。
すかさず,
“You can come to my office to talk with me”と告げる。
「私の事務所に話に来てれよ」
とは,個室を構え,相談にのれる立場を言っている。
実はこの表現は海兵隊の司令官と上級曹長の常套句。この二つのポジションは,常に部下の海兵隊員のことを考え,隊員のために最良のアドバイスをすることを任務としている。
「何か悩みや問題があったら,いつでも話に来なさい」と言う意味である。上下関係がしっかりしている海兵隊で,いきなり司令官や最先任上級曹長のところ行くことはない。
だが,いつでも部屋の扉は,彼らのために開いているのである。
<“I’ll take care of you!”で,責任者であることを伝える>
米海兵隊と一緒にいった硫黄島でのお話。沖縄へ帰る人員輸送機がドタキャンされ,硫黄島に一泊することに。海兵隊員は,日帰りの予定で,食事も水も寝具ももっていない。
日が暮れ,夕食時になった。硫黄島航空自衛隊基地の飛行場ターミナルラウンジに設置されている自動販売機は,すべて売り切れ,飲み物も食べ物も買うことが出来ない。
Swatchは,ラウンジで腹をすかしている海兵隊員に向かって,少し声を張って言った。
“Hey, guys, listen up!” 「話を聞いてくれ!」
全隊員の注目が集まった。沖縄米空軍からの輸送支援がキャンセルされ,現在,海兵隊の人員輸送機が硫黄島に向かっている。到着は明日の朝であることを告げた。
「その間,寝るところもない,食料もない水もない!
ただ,ここには日本語が話せるお前たちの連絡官がいる。」(連絡官とは私のことです)
“I’ll take care of you, marines!”
「俺がお前たちの面倒をみる!」
一瞬の間があって,「ウラア!」と海兵隊員の快哉を叫ぶ声が怒涛のように聞こえた。
詳しくはこちら「硫黄島帰りの飛行機がない!」
I’ll take care of youは,「相手の面倒を見る,世話をする」という意味である。この場合は,島に取り残された海兵隊員のために,食事と寝る場所を確保するということだ。
I will という表現に,「今!私は決心して,それを実行する」という強い意志が含まれている。そのやる気が,海兵隊員に全員に通じたということだ。
沖縄に帰った後,私の基地での営業活動はすこぶる楽しく,スムーズになった。基地では隊員からも話しかけられるようになった。一宿一飯の恩は海兵隊でも生きている。笑
言葉は生きています。状況(TPO)に合った表現を選ぶことで,効果的に伝えることが出来ます。「黙れ、静かにしろ!」と大声で命令口調にいっても,人の心には響かない。
まず,話しかける相手への尊敬の念が必要。それが相手の心を開き,話を聞いてくれることになります。そして相手に自分の考えを伝える。
自分の言ったことを考えさせ,理解させる。そうすれば,人は必ず言葉に従ってくれる。
米海兵隊員と話す機会はないと思いますが,今回紹介したフレーズや伝え方は,ビジネスや小さなグループ活動の英会話にも役に立つと思います。是非,トライしてみてください。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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