“Oh, my brain isn’t switched on today.” (今日は頭のスイッチが入らない。)
これは、ある英語での会議の時、私の頭の中に浮かんだ言葉です。
いつも以上に一生懸命に耳を傾けて、それぞれの人達の発言を聞こうとするのですが、
聞こうとすればするほど聞けない状態に陥ってしまうんです。
そうなると、急に自分の英語力に自信がなくなり、
「あれ?あれれ…。」
と不安になってきて、ますます英語がわからなくなってしまうのです。
「なってしまう」というよりも、「そう思い込んでしまう」という方が正しいかもしれません。
というのも、この時、以前論文に書いた内容を思い出したからなのです。
みなさんは「情意フィルター」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
これはアメリカの言語学者、スティーブン・クラッシェン(Stephen Krashen)が唱えた「第二言語習得に関する5つの仮説」の中の一つで、「学習者の心理的な要因が、言語を習得する上でいかに影響を及ぼすか」というもの。
「不安感や焦り」、「自信喪失」「飽き」などのネガティブな感情が、第二言語習得の過程に干渉してしまい、言語インプットにおいて効率的な処理を阻害してしまうというものです。
まさに私は、
「今日は頭が働かないなぁ。」
↓
「やばい、ちょっと理解が追いつかないかも」
↓
焦る
↓
不安と焦りと自信喪失
↓
ますますわからなくなる
のように、クラッシェンが唱えた仮説通りに脳にフィルターがかかってしまい、
自分の「実力以下」の能力しか出せない状態に陥ってしまっていたのです。
私たち日本人は、世界の中でも「英語ができない」と言われることがあります。
でも「それは違うのではないか」と私は思うのです。
だって、ほとんどの人は、義務教育である中学校で英語を学習しています。
いくら苦手だったとしても、授業、定期テスト、入試などを経験し、ある程度の英語は知っているはずです。
なのに、「間違ったら恥ずかしい」という気持ちや、「苦手だ」という意識がフィルターとなり、本来知っているはずの単語でさえ出なくなっているのではないかと思うのです。
そういうのも「英語ができない(と思い込んでいる)一つの原因だと思うのです。
また、外国の人を目の前にすると緊張して英語が出てこない、という人も多くいます。
これらもすべて「情意フィルター」がかかってしまっている状態です。
情意フィルターが邪魔して、自分の本来持っている力が出せなくなるんですね。
言語習得において、この「情意フィルター」を「下げること」が重要であると言われています。
ではどのようにすれば、下げることができるのでしょうか。
お酒を嗜まれるみなさん、こんな経験ありませんか?
「酔ってくると、英語がどんどん口から出てくる」といった経験。
お酒が入ると、これまで持っていた「恥ずかしい」「不安」という気持ちが和らぎ、
「間違ったって気にしない」という気持ちになりやすいんですよね。
だから、急激に「情意フィルター」が下がるのです。
でも、酔わないと英語が話せない、では困ります。
「あの人、いつも酔っぱらって英語を話している。」なんて思われたらヤバいですもんね。
ある程度英語を話せる人で、「今日は調子悪いな」という時は、
気にしないこと(笑)
「こんなときもあるよね。」くらいにドーンと構えておきましょう。
もともと英語に苦手意識を持っている人は、英語に慣れる練習をしましょう。
英語を発話すること自体に慣れるのです。
本など何でもいいですので、音読してみましょう。
そして、慣れてきたら「今自分が思っていること」を英語で独り言を言ってみましょう。
「思っていること」が難しかったら、「今、目に見えるもの」を英語で声を出して言ってみましょう。
とにかく英語に慣れること、これが大切です。
英語ネイティブの人を目の前にすると、緊張してしまう人は、
「みんな同じ人間。宇宙人じゃないんだ。」
「英語ネイティブは怖くない。私は日本語ネイティブ。方言だってネイティブ。むしろ私のほうが言語数多いじゃん!すごい、私!」くらいに思っておくくらいで良いと思うのです。
そして何より、リラックスすることです。
適度な緊張は能力を発揮するには良いのですが、緊張しすぎてしまうと「情意フィルター」が高くなってしまい、自分が本来もっている実力を出すことができません。
深呼吸をしたり、楽しいこと好きなことを想像したり、好きな香りを嗅いでみたり。
外でもできる自分に合うリラックス法を考えておきましょう。
私自身、緊張する会議よりも家でリラックスした状態で見るCNNなどの英語ニュースのほうが全然頭に入ってきます。
例えば、憧れの人や尊敬する人を目の前にして緊張した経験はありませんか。
緊張しすぎて、その後「え、何を話したか覚えていない!」なんてことありませんか。
それだけ感情って、記憶や理解力などにも影響があるんですね。
ですので、「リラックスする」というのも情意フィルターを下げる一つの方法だと私は思うのです。
お風呂に入りながら、英語のポッドキャストを聞いたり、
緊張したら空を見上げてみたり…というだけでも良いかもしれません。
自分なりのリラックス法を考えてみてくださいね。
でも、リラックスとは言っても「リラックスし過ぎ」はダメですよ。
「集中せずにボーッとする」では頭に入りません。
そう考えると、冒頭の会議の時、私はただボーッとしていただけなのかもしれません。
だから頭に入ってこなかったのかも。
でもいいんです。
もう過ぎたこと。人生、前を向いて行かなくちゃ。
その経験のおかげで、情意フィルターのことを再び意識できるようになったのですから。
クラッシェンも言っています。
言語習得において大切なこと…、
それは「ポジティブになること」。
このWorld Lifeのタイトル、「英語ができれば世界が広がる」。
なんてポジティブで夢があるんでしょう。
「英語を通して、今いる世界をもっともっと広げていく」
そう考えるとワクワクしませんか。
さあ、情意フィルターを低くすることを意識して、
一緒に、明るく楽しい英語ライフを送りましょう!
英語教材開発・制作者
米国留学から帰国後、幼児・児童英語教師を経て、中学・高校英語、受験英語、時事英語等多岐にわたる指導を行い英語教師経験を積む。また、ホテル勤務での実践英語経験を積んだり、カナダにて現地の子どもたちの英語教育にも携わりながら、CertTEYL(世界での児童英語講師認定コース)の認定を受ける。さらに、青山学院大学でTutoringの研究員としても活動。英語講師養成のeラーニングコースの日本での立ち上げメンバーとなる。「現場での経験を教材に活かしたい!」と、現在は英語教材開発会社にて日々教材開発に勤しむ。高校入試用のリスニングトレーニング教材(塾・学校向け)は累計10万部以上のベストセラーとなる。英語教材開発の傍ら、全国の英語教師への研修なども行う。また、土堂小学校(広島県尾道市)での英語指導や、初の民間校長として一躍時の人となった藤原校長(当時:杉並区立和田中学校)が手掛けた英語コースの指導に2年間携わるなど、英語教育に関する多様な分野で活躍。大の犬好きから、ホリスティックケア・カウンセラーなどペット関連の様々な資格を取得し、ペットライターとしても活動中。