『他の国々にあるのは気候で、イギリスにあるのは天気だ。
(Other countries have a climate; in England we have weather…)
たった一日の中で四季を体験できるのは英国だけだ。
(In no other country can one experience four seasons in the course of a single day!)』
これはある英語教科書の一節で、とてもよく引用される箇所です。英国の変わり易い空模様をclimateとweatherの2語を使いまとめています。
一日に四季の分、まとめて変化が起きる位なら、天気が変わり易いのは確かですね。でも今の日本、変化の激しさは負けてないかも。私の所でも昨日まで猛暑、それが一晩で寒い程の朝。季節の移り変わりが強く感じられますね。
さて話を一旦weather(ウェザー/天気)とclimate(クライメット/気候)に戻します。この2語の違い、weatherは「(毎日変化する)天気」、climateは「一定のパターンの気候」とされます。引用の説明もそこがポイントになっていました。
weather ・・・(毎日変化する)天気
climate ・・・一定のパターンの気候
でもちょっと不思議にならないでしょうか。気象を表す似た2つの意味から、なぜそんな差が出てくるのかなと。
私も不思議な気持ちで単語DNAを調べてみました。単語DNAとは英語やフランス語….などの大昔に遡るツール。するとなるほど、と納得できたんです。
<weatherは風向きの違い>
まずweather には単語DNAの「ヴェー/(風が)吹く」を持っています。同じDNAを持っているのは例えばwind(ウィンド/風)。そのままですよね。
つまりweather(ウェザー)は風の変化、向きや強さの変化位が元々の意味のようです。風向きだったら頻繁に変わりそう。むしろ一定に吹く方が難しいかもしれません。
他方climate(クライメット)の単語DNAは「クリーやクライ/傾き」です。これ言い換えると、大昔の「緯度」かも。緯度は「~度」って角度ですよね。そして各「緯度」の辺りの気候をclimateと呼んだようです。そうするとclimate「気候」は寒帯や熱帯等一定パターンの感じになりますね。
傾きDNAの他の例は、reclining chair(リクライニング チェア)。これは、re (後ろに) + clining (傾く、傾いている) で「後ろに傾けられる椅子」ということです。
weather(風の変化) ⇒ (毎日の変化する)天気
climate (緯度ごとの気象パターン) ⇒(場所・時代ごとの一定パターンの)気候
<壁に耳ありでなく、窓に目がある?>
Window(ウィンドウ/窓)の最初の部分はwind(ウィンド/風)。では最後の-owって何か知っていますか?私今回調べなおして少し感動しました。それは-owの単語DNAが「アウグ目/」だと再確認したんです。ちなみに、ドイツ語でこの単語DNAを持っている語は、Auge(アウゲ/眼)です。
ですからwindow は単語DNA的には「風の眼」。これって素敵な表現だなと私思います。家の中に風がのぞき込んでくる、その風の目が窓だって言うんですよね。
どうして窓をこんな風に呼んだのか。考えてみるといろいろな理由が考えられそうです。
「悪い風に当たるな!」などを「風の眼(窓)を閉めろ!」と言ったとか。あるいは「他人の目」っていうことなのかも。例えば、「人が窓から見てるぞ」と注意したい時、「風の眼を閉めろ」と言った…「隣の~が見てる!」と直接に言うのを、避けたのかもしれませんね。
<翼も風>
鳥などのwing (ウィング/翼)も、「風が吹く」というDNAを持っています。現代は、鳥を間近に見る機会は減っているかもしれませんね。近くで見る時には、もう鶏肉状態かも。
私の周りでは、田舎が残っているので、鳥を目にすること結構あるんです。小川の土手で足元から、鷺(heron/ヘロン)に飛び立たれたことがあります。また小さな百舌(shrikeシュライク)が、物置から飛び出てくることも。
それで、近くで飛び立たれると、翼の羽ばたく音がちょっとすごいんです。どこにそんな力がと思いますが、翼って風に乗り、風を縫っていくものだなと実感させられます。
こういう体験、まさに単語DNAで可能になる、一味違う自然の体験ですよね。
<社会的距離の時代に自然を身近に>
私今回、天気や風等の自然の事物の話をしましたが、不思議な楽しさがあったんです。なぜだろうと考えたのが、元々人間は自然と関わるようにできてるからかなと。そもそも人間って自然ですよね。
「社会的距離」で、人と気楽に話せない、人の絆が恋しい…苦しい不幸な今を嘆きたくなるかも。でも幸せの求め方が、偏っているとしたらどうでしょう。人間関係だけで、自分の幸不幸を考えていたとしたら…私も実はそうでした。ハッとしたのは、養老孟司氏の概ね次のような言葉。
「幸福とは?と尋ねると、ほとんどの人が家族や、仲間の絆…つまり「人間関係」を答える。
一方「風」とか「天気」「鳥」など自然の風物に幸福を感じるという答えはほぼない。
これは余りに偏りすぎだ。人も自然の一部。
人同士の関係だけでなく、自然の風物も幸福感を与えてくれるはず。」
今回英語のDNAのお話で、窓や天気、鳥の翼の中に風があることをお話しました。窓の外の自然に目を向けて、実感で味わい確かめられるといいですね。
引用
“Modern English I for Teacher Students” by G. Graustein
【養老孟司】幸せか不幸かはすべて人間関係から
https://www.youtube.com/watch?v=a2D8TG98Cnc
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私立学校に英語教師として勤務中、40代半ばに差し掛かったころ、荒れたクラスを立て直す策として、生徒に公言して英検1級に挑戦することを思い立つ。同様の挑戦を繰り返し、退職までに英検一級(検定連合会長賞)、TOEIC満点、国連英検SA級、フランス語一級、スペイン語一級(文科大臣賞)、ドイツ語一級、放送大学大学院修士号などの成果を得る。
アメリカで生徒への対応法を学ぶ為に研修(地銀の助成金)。最新の心理学に触れた。4都県での全発表、勤務校での教員への研修を英語で行う。現在も特別選抜クラスの授業を全て英語で行っている。「どうやって単語を覚えればいいですか?」という良くある質問に答える為、印欧祖語からの派生に基づく「生徒には見せたくない語源英単語集」を執筆中。完成間近。常日頃洋書の読破で様々な思考にふれているが、そうして得た発想の一つを生かして書いた論文がコロナ対策論文として最近入賞。賞品の牛肉に舌鼓をうっている。元英検面接委員