「来年はリストラします。」
つい先日,うちの上司が会議で放った言葉。
おそらく,その場にいた数名は
「やばい,人員整理されちゃうのだろうか。」
と,驚いた人もいたかもしれません。
その上司というのは欧米人。
ですが,英語を使わない部署を含めた会議では,基本的に日本語で話します。
変に「リストラ」なんて日本式に省略して言うものだから焦りますよね。
でもね,違うんです。
実際の意味は…
―リストラは “restructuring / restructure”の省略―
日本のビジネスやニュースなどで用いられている,この「リストラ」という言葉。
もちろん英語の “restructuring”(リストラクチャリング)から来ているのですが,
その本来の意味は,
「再構築」「再編成」「組織改革」。
動詞の “restructure” も,
「再構築する」「再編する」
の意味であり,日本人がイメージする「人員整理」やクビなどの「解雇」という意味では用いられません。
それどころか,人間に対してはあまり使われないのです。
だから,今回の上司の言葉は「組織の再編成をする」という意味なのですね。
これは数年に一度あることなので私は特に何も思わないのですが,
でも,絶対に「誤解している人がいる」に1万点!
―分解すれば理解できる?―
日本語で「リストラ」というと,職を失ってしまうかのようなイメージですが,
そもそもの英語は “restructuring”。
この単語の接頭辞(単語の頭につくもの)を見てみると,
“re”が付いています。
これは,大きく分けると「再び」「繰り返し」「反対」「後ろ」という意味をもっています。
その中でも「再び」を取り上げてみましょう。
“refresh” (リフレッシュ)・・・「再び」フレッシュにする
“rebound”(リバウンド)・・・「再び」跳ねる→跳ね返る
“replay”(リプレイ)・・・「再び」プレイする→再生する
ほら,聞いたことのある言葉ばかりじゃないですか?
そう考えると,
“restructuring”は,動詞で「構築化」であり,その前に “re”が付いているので
「再構築化」という意味であることがわかります。
―そもそもなんで「リストラ=解雇」なの?―
「リストラ」という言葉が使われ始めたのは,1991年のバブル崩壊以降だそう。
バブルが崩壊してからの日本の企業は,どの産業においても大変厳しい状況。
当時の私はまだ社会人にはなっていませんでしたが,連日放送されるニュースでその厳しさは理解していました。
多くの企業は不採算事業を見直し,縮小したり統合したり,はたまた閉鎖するなどをせざるを得ない状況。
この時から「リストラクチャリング(再構築)」,いわゆる「リストラ」という言葉が使われるようになったのだそう。
しかしその「リストラ(再構築)」に伴って,人員の配置転換や人員削減も多く発生しました。
中でも,この「人員削減」が大きくクローズアップされ,いつしか「リストラ」は「整理解雇」というイメージが先行するようになった,というのが真相のようです。
―日本で使われる本来の意味とは違う英語―
「リストラ」というのは,組織などを「再編成」「再構築」するということで,
「整理解雇」ではない,ということはおわかり頂けたと思います。
このように,日本では「本来の意味とは違う道を歩んできた英語」がまだまだたくさんあります。
国内で使うには「意味は通じる」ので良いのですが,
これを「英語も同じ意味だ」と思って使ってしまうとあら大変!
例えば,
「うちの家,今,リフォームしてるの。」
英語にすると“reform”…,
ほら,思い出してください!
接頭辞は “re”ですよ。
“form”の意味はいろいろとありますが,動詞では「形成する」「生み出す」「結成する」。
「《再び》形成する」ということで, “reform”は
「(組織などを)改革する」
という意味になります。
古い家に手を加えて新しくするのは
“renovate”(リノベイト),名詞では “renovation”(リノベーション)または, “remodel”(リモデル)と言い,
この言葉を聞いたことのある人は多いのではないでしょうか。
ここも 接頭辞は “re” 。
“novate”は,「新しい何かと交換する,(契約などを)更新する」です。
「《再び》新しい何かと交換する」
「《再び》更新する」
そんな感じから,家のリフォームは「リノベーション」というんですね。
ちょっと無理くり感もありますが,だんだんイメージついてきましたでしょうか。
また,この “reform”には,「改心する」という意味もあるんですよ。
“re(再び)form(生み出す)”から,「生まれ変わる→改心する」ということなんでしょうね。
ですので, “reform”を家に使うことはありません。
ただ, “We reformed our house.”と,家のことを話しているときに言ってしまった場合,
前後の文脈から理解してくれることはあるかもしれません。
でも,???という反応が返ってくる可能性のほうが高いかも。
それくらい, “reform”というのは「改革する」「改心する」のようにちょっと重みのある言葉なのです。
日本では,「形や配置を変える」ということから「リフォーム」という言葉が根付いたのでしょうね。
それを考えると,言葉って面白いです!
このように,日本語で使われているカタカナ英語は,実は違った意味というのはたくさんあります。
でも「間違いだから,使うと変!!」なんて言うつもりは全くありません。
だって日本ではそれで通じてるから。
ただ,英語として使う時には,
「あ,これは違う意味だったな。」とちょっとでも思い出していただけますと,
「書いててよかった♪」
となる私です。
なんだか,随分昔のコンビニのCM(https://www.youtube.com/watch?v=H36MF2AJznk)のようなセリフで締めてしまいそうなので,
そろそろ私のこの古〜い頭も
“restructuring”(リストラ)しなきゃ,です!
英語教材開発・制作者
米国留学から帰国後、幼児・児童英語教師を経て、中学・高校英語、受験英語、時事英語等多岐にわたる指導を行い英語教師経験を積む。また、ホテル勤務での実践英語経験を積んだり、カナダにて現地の子どもたちの英語教育にも携わりながら、CertTEYL(世界での児童英語講師認定コース)の認定を受ける。さらに、青山学院大学でTutoringの研究員としても活動。英語講師養成のeラーニングコースの日本での立ち上げメンバーとなる。「現場での経験を教材に活かしたい!」と、現在は英語教材開発会社にて日々教材開発に勤しむ。高校入試用のリスニングトレーニング教材(塾・学校向け)は累計10万部以上のベストセラーとなる。英語教材開発の傍ら、全国の英語教師への研修なども行う。また、土堂小学校(広島県尾道市)での英語指導や、初の民間校長として一躍時の人となった藤原校長(当時:杉並区立和田中学校)が手掛けた英語コースの指導に2年間携わるなど、英語教育に関する多様な分野で活躍。大の犬好きから、ホリスティックケア・カウンセラーなどペット関連の様々な資格を取得し、ペットライターとしても活動中。