リーダーの養成機関である米陸軍のアカデミーでは、大学院レベルの教育が行われています。
例えば、10分のプレゼンを、プラスマイナス1分以内で終了しなければ不合格。さらに、話の展開,論理性,ユーモア―,態度以外にも、様々な評価項目で評価をされます。
そんな厳しい教育機関であり,実践的な米陸軍アカデミーですが、決定的に日本の教育機関とは違うことが1つあります。
それは,教官は,授業を教えないということ。
え!教官が授業しないって,日本では考えられないけど!と思うかもしれませんが、米陸軍のアカデミーは、教官が授業を教えることはないのです。
ーアカデミーの学生は,リーダーであり教官であるー
アカデミーには,ファカルティ(Faculty)と呼ばれる教官がいます。ファカルティは,アメリカでは大学の教授を意味します。なぜ,インストラクター(instructor:教官)と呼ばないのでしょう?
それは,ファカルティは学生を教えない(instructしない)からです!
アカデミーでは,学生が講義し,学生が学生を評価するのです。「学生が学生を」教育したり,評価したりする?日本では考えられないことですが,アカデミーではそれが通常の教育システム。
全ての学生がカリキュラムの科目を割り当てられ、割り当てられた科目の教官となり、他の学生を教育する。他の学生は、その授業を評価するのだ。
アカデミーの学生は,すでに他人を評価する能力を持ったリーダー又は教官として扱われるということ。そういうレベルの軍人が入校し,その実力をクラスメートの軍人が評価すれば,卒業できるのです。
この考え方は,日本の大学でも最近導入されつつあるActive learning(アクティヴ・ラーニング)です。その教育を米陸軍は,他軍に先駆けて1990年代に導入しました。
リーダーを養成するには,「リーダーそのものの行為を実践させる教育が必要である」というコンセプトです。学生は,「リーダーとして」ブリーフィングを実施し,それを聞いたクラスメートは,「教官として」,クラスメートのブリーフを評価する。
すべての授業は,学生が教官になります。カリキュラムにある科目は,3月1日「戦術No.7」A曹長,3月1日「戦術No.8」B曹長のように,1授業ずつ割り当てられます。
クラスは12人ですから,12授業ごとに教官として授業を担当するローテーションです。
学生は,割り当てられた授業を予習し,授業実施の3日前までにファカルティに準備状況を報告します。ファカルティは,学生の講義の準備状況を確認し,授業を実施する許可を出します。
ファカルティは授業を監督しますが、教官として登壇することはありません。
授業が学生によって円滑に実施されるかを,監督して,学生を総合評価することが任務なのです。
ー日本で根付いていないリーダーを作る教育ー
日本の教育の形を振り返ってみると,アカデミーとの違いが良くわかります。
日本の小・中学校、高等学校の授業を思い出してみましょう。
先生は,教壇に立ち,講義をします。生徒はひたすら先生の言うことを聞き,ノートをとります。あるいは黒板に書かれたことをノートに書き写します。
こういった形式の授業を,ペダゴジ―(pedagogy)と呼びます。ギリシャ語の合成語で,「子供の教育法」という意味です。教育学の用語です。
簡単に言えば,「詰め込み教育」です。日本では,それを高校まで続けています。さらに,最近まで,大学でも同じような教え方をしていました。
もう一つ思い出してもらいたいのが,私の記事「日本の小学校で軍事教練って?」で紹介した,文部科学省が決めた小学校・中学校・高校で実施される「集団行動の教育」の項目。
それには、集団行動の行動様式(姿勢・礼・方向転換・集合・整とん・行進)を身に付けさせ, 「リーダーの指示によって行動させる」ということと、記述されています。
リーダーを作るのではなく,リーダーに従う人間を作ることが目的となっています。これでは,日本で、リーダーはなかなか生まれませんよね。皆,従う人間になってしまいます。
ー米陸軍アカデミーが導入した教育の4つのポイントー
アカデミーの話に戻りましょう。
1990年代に,アカデミーは教育制度を改革し,実力を持った軍人(学生)を集め,実際にやらせてみて,評価基準をクリアーすれば,相応の階級と地位を与えるという教育法を確立させました。
日本の大学が,最近になって導入したアクティヴ・ラーニング(active learning)のもとになった教育法であるアンドラゴジー(Andragogy:大人の教育法)を、米陸軍のアカデミーでは,30年以上前に導入していたのですから,驚きです。
アンドラゴジーの理論に基づいて導入された教育コンセプトが次の4つの教育ポイントです。
1、学ぶことが目的ではなく,問題解決能力を養成する
2、学生が自ら学習計画を立て,自らを評価する
3、自分の経験則が学習の基盤となる
4、学習の動機が任務に直結している
これらのことをリーダーとして実践して,部下に模範として示すこと。それこそがアカデミーが求めている教育のコンセプトです。それを、活模範を示す(show a good example )と言います。
アカデミーで修得したことを部隊に戻り実践する。それを部下に模範として見せ,「私も彼のようなリーダーになりたい」と,次に続く後輩を輩出するための普及効果を期待しているのです。
ー英語を道具として使うー
アカデミーの教育コンセプトを読み解いてみると,英語学習に応用できるノウハウが浮かんできます。特に注目してもらいたいのが,
「学ぶことが目的ではなく,問題解決能力を養成する」です。
英語学習の点で考えてみると、英語を勉強することが目的ではなく,英語を問題解決の道具(能力)として考えてみるということ。
英語を使って仕事をする。英語版の映画を鑑賞する。英語で趣味の範囲を広げるなど、英語を道具として使うことが重要。
英語を使って仕事をすると、知らない単語や覚えなければいけないフレーズなどが出てきます。英語を道具として使って初めて、道具として必要な部分や、欠けている部分が分かる。そうすると、自分に必要な英語のアップデイトができる。
もちろん、今までの英語学習の経験は無駄ではありません、基礎をつくる重要なものとして経験知を高めます。その上に,さらに積み上げていけば良いのです。
これで、英語ペラペラの道をまっしぐらです。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
Facebook
https://www.facebook.com/takeru.suwa.7/
※友達申請いただく際「World Lifeで見ました」と一言コメント頂けますでしょうか。よろしくお願いします。