パンデミックのため3月からシャットダウンされていた、ラスベガスに続く東海岸のカジノリゾート、ニュージャージー州の「アトランティックシティー」が、7月より再開されました。
近くに知り合いがいて、ぜひ遊びにいらっしゃい、先日見てきたけどすごくきちんとコロナ対策をやっているから、という情報を得たので、度胸を据えて行ってみました。
カジノといえば、屋内で人々が密集し、三密の典型のように思われますが、ここでは住民のほとんど約27,000人がカジノでの仕事に従事しているので、全員がいちどに失業してしまったというとんでもないことになっており、やむなく早めの再開になったとみられます。
このカジノでは、現在、収容人員の25%までの営業が認められ、従業員、ゲストともマスク着用、入場に際して体温計での確認、それぞれの人が約2メートルの距離を置き、消毒薬を持った従業員がゲストが立った後のゲーム機を即拭いて回るほどの、徹底ぶりです。各コーナーにハンドサニタイザーを設置、半分以上の椅子は片付けられたりテープが貼られたり、使用不可能にしてあります。
バカラや、ルーレットなどのゲームも、アクリルの透明板できちんと仕切られており、個人が全く接触しないように整備してありました。
夏に向けてオープンしたようなのですが、夏休みはまだよかったかもしれませんが今はとにかくガラガラでした。
ちなみに、ルーレットなど、私は無粋者でそういうお洒落なゲームをやったことがないのでスロットマシーンでちょっと遊びましたが、あっという間に20ドル札がなくなったのですぐに止めました。1回ボタンを押すと80セントがなくなっていくマシンで、ほんの2 -3分でお金が消えますね。(笑)
レストランも開いているお店は少なかったですが、そんな中、この7ヶ月半ぶりに初めて、私は屋内レストランでの飲食を試みました。少し緊張しましたが、やはり25%の収容人員なので、採算的にレストランには気の毒ですが、私たちにとってはとても広いスペースで、隣のテーブルを気兼ねすることもなく、ゆったりとした時間を過ごすことができました。
もちろん、店に入る前にはハンドサニタイザーでの両手消毒を強制され、体温を測られますが、加えて、この2週間のうちでコロナにかかった人のそばにいたり自分が調子が悪かったことがあるかなどの問診票に答え、やっと席に着くことができました。レストランだと、塩こしょうなど調味料のボトルの消毒も気になりますが、このレストランではソルト&ペッパーはピクニック用の紙袋のものでした。逆に、ここまできちっとしてくれたら、とても安心です。
そしてメニューは、なんとバーコードのみ提示されます。自分の携帯でスキャンして表示されるメニューを見るのです。確かに、皆で同じものを触らなくて済むので、気持ちが良いです。でもメガネが必要かも(笑)。でもさすがアメリカ、オーダーを取るウェイトレスがチップで生計を立てている国ですから、さすがネットでオーダー、とはいきません。ちゃんと、マスクをしたウェイトレスさんに口頭でオーダーをします。これが結構、久しぶりに他人と話し、そして軽いジョークなど言って笑った、という懐かしい感じでした。
そしてオーダーが運ばれてくれば、マスクをとって、お食事です。こう言ってはなんですが、これだけ少ない顧客数では仕入れの数もごく少ないわけですし、いつものトップシェフを雇えるのかどうかも、未知数です。どうしても以前のようにフレッシュなものを求めるのは、難しいのかもしれません。マンハッタンでも、久しぶりに外食をしたと言う知り合いが、以前のようなおいしいものはしばらくは食べられないだろう、と言っていたのを思い出しました。
初日はそんな感じでゆっくり食事ができましたが、2日目の夜はレストランが閉まるのが早く、食事を買い求めそびれ、なんとその日のディナーはリゾートホテルの部屋でのサンドイッチひとつ、となりました。でも部屋は、オフシーズンなのでとてもリーズナブルなのに高層階からの眺めは素晴らしく、左手に歴史あるアメリカリゾート地の古い街並みが、右手には大海原が広がっていて、サンドイッチと紙コップのワインでも、充分楽しめました。(初日はワインを買おうと思ったときにはお店が閉まっていたので、2日目は朝からしっかり買い込んでおきました、笑)
3月から約4ヶ月、完全にゴーストタウンと化していたアトランティックシティー。なかなか、そう簡単にはもとに戻れないようです。多くのレストランは、閉店のままでしたし、週末だけ、また夜のみ時間短縮で開けていたりするようでした。ホテル内のテナントも、閉めているところも多かったし、まだまだ客足は出揃いません。
今回改めて、アメリカ、特にイーストコーストから、経済がどんどん失われているのを目の当たりにした気がします。ニューヨーク州も失業者が溢れているので、カジノなどのレジャーに費やす余裕はほぼないと思われます。そしてここニュージャージー州でも目についたのは、多くの中高年のホームレスでした。気候の良い時はボードウォークで、雨の朝にはクローズしているビルの軒下でハングアウトしていました。アメリカでは、労働者層のアメリカ人は日本人のように貯金とかしていないのはごく普通で、(江戸っ子みたいな感じ?) 今回のパンデミックのような失業で、多少政府から助成金が出ても限りがあり、家賃が払えなくなるとその家を追い出されるので、割とすぐホームレスにならざるを得ないのです。
アトランティックシティーは、ニューヨークから車で2時間半。もともと、とても綺麗なビーチがあり、とっても素敵な広くて長いボードウォークが歴史的にも有名なところです。たくさんの店が立ち並び、数々の小説や映画の舞台になっていたり、ハードロックカフェの経営するリゾートホテルもあります。カジノはここでは誰でも無料で入れて、ちょっと遊べる、普通のアメリカ人の憩の場です。
この街の人たちみんなが、笑顔で職場に戻れて、また以前のように街に活気が戻ってくれたらいいな、と思います。
その頃にきっとまた訪れたい。
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。