こんにちは
NYのKayoです。
こちらニューヨークでは、11月に入り、秋が深まってきました。街路樹の葉が黄色や赤に変わり、コーヒーショップにはパンプキンの香り。でも、そんな季節の心地よさとは裏腹に、ここ数週間、どこか街の空気がざわついています。
ご存じの方もおられるかも知れませんが、いまアメリカでは、連邦政府の予算がまとまらず、いわゆる「government shut down (政府閉鎖)」が続いているんです。
とはいえ、アメリカのニュースを、いつもご覧になっているわけではない日本の方には、なかなかピンと来ない話かもしれませんが、「政府が閉鎖するって……どういうこと?」と、この街に暮らしていても、最初はそう思いました。
JFK空港職員が不足
実際は、政府機関の一部が機能を停止し、そこで働く人たちの給料の支払いが止まってしまうのです。
ニューヨークには連邦の仕事に関わる方が多く、空港で働く職員や税関の方など、休むわけにいかない人たちは、無給のまま出勤を続けています。
数日前、ニュースで、無料の食料配給所に並ぶ人々の中に、空港の制服を着た職員がいる姿が映っていました。給料が止まってもう三週間以上。
「少しの間ならなんとかなるかな」と思っていた人も、さすがに厳しさが顔に滲んできます。きっと、家賃の支払いや食費、子どもの学費、電気代……突然止まった生活費のやりくりは、想像するよりずっと大変なはず。
とはいえ、仕事を休んでしまうと処分の対象になることもあるため、出勤しないという選択肢がないのだそう。「働いてるのにお給料がないって、あり得ない!」と、思わず口にしてしまいそうです。
つい先日、日本から戻ってきた友人の飛行機が、3時間遅れたそうです。その飛行機がもともとNew Yorkを出発するときに3時間遅れていて、そして日本からの便に乗る乗客も、成田で3時間待ち、と言うことになってしまったらしいのです。
そしてその遅延理由は、アメリカのJFK空港で空港職員が不足しているため、ということだったそうです。空港職員の中には、これは裏技で、シック・デー(病欠)などをなるべく利用して、この政府閉鎖期間に出勤しないで済むようにしている人もいるそうです。
お互い様の精神がニューヨークを支える
もちろん、街には温かい空気もあります。近所の教会が食料支援を広げていたり、私のアパートでも、住民同士の雑談の話題が「近くに支援団体ある?」に変わり、「困っている人がいたら伝えてね」という声が自然と聞こえてきます。
アメリカには「フードパントリー」や「スープキッチン」と言うシステムがあって、お腹が空いた人が無償で食事をいただけるシステムがあるのです。
フードパントリーは、家で料理ができる人向けに、缶詰や野菜、パンなどの食材を持ち帰れる場所です。失業中の方や収入が減った家庭、今回のように給料が止まってしまった公務員など、いま困っている普通の生活者、も利用できます。
一方、スープキッチンはその場で温かい食事を食べられる場所で、ホームレスの方の利用が多いですが、住まいのある人でも食事に困れば行けます。どちらも無料で、特に証明書を求められないことも多く、「助けが必要なときは、誰でもどうぞ」という雰囲気です。
そして、これらの活動は、市の補助金、教会や地域NPOの支援、個人や企業からの寄付、そしてスーパーやレストランの余剰食品提供など、地域の善意と仕組みで支えられているそうです。「お互いさま」の精神が、今日のニューヨークの人々を支えているのです。
ニューヨークのこういう、強さと優しさが混ざった空気に、私はいつも救われます。
背景には、Republican / リパブリカン(共和党)と Democrat / デモクラット(民主党)の間で、医療制度や社会保障をめぐって意見が割れていることがあります。
NYの街は政治の話題で持ちきり
ニューヨーク市長選では、なんと民主党のマンダニ氏(34歳・イスラム教徒)が当選しました。かつて市長を務めたクオモ氏との接戦を制した形です。ニューヨーカーは、現大統領とつながりのあるクオモ氏ではなく、マンダニ氏を選んだのです。
マンダニ氏の公約は、「公営スーパーの設置」「保育料と市営バスの無料化」「家賃上昇の凍結」。物価高に喘ぐ一般市民にとって、どんなに嬉しいことでしょう。現大統領が「もし彼が市長になれば、ニューヨーク市への補助金を削減する」と脅したにもかかわらず、支持を集めました。
そんな経緯もあり、今の街は政治の話題で持ちきりです。政府封鎖についても、民主党・共和党どちらの意見が正しいのか、誰に責任があるのか――議論は尽きません。
でも、毎日を暮らす中で感じるのは、当たり前のことかもしれませんが、「政治の話をしているのは政治家。でも、その結果に振り回されているのは、私たち普通の市民。」ということです。
秋の冷たい風にマフラーを巻きながら、ニュースを横目にスーパーのレジに並ぶ。そんなありふれた日常に、ふっと不安が影を落とすときがあります。けれど同時に、隣に並んだ見知らぬ人の「Have a good day!」に、ほんの少し救われたりもします。
大きな国の、大きな政治の中で揺れながらも、ひとりひとりの暮らしはちゃんと続いている。そんなニューヨークのいまを、遠く日本にいる皆さんにも少しだけお届けしたくて、今日はこの文章を書きました。
それではまた来週♫
Kayo
P.S.
ワールドシリーズ、L.A.ドジャースが優勝しましたね。大谷、山本、佐々木が大活躍。日本の選手がアメリカのメジャーリーグ、それもワールドシリーズの試合でこんなに活躍するなんて、本当にうれしいです。
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。







