日本でも、ニュースでご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、今年2021年3月、ニューヨーク州では、マリファナ合法化の書類に、議会とクオモ州知事がサインしました。
なんと、このニューヨーク州だけで、マリファナ合法化により年間約388億円の増収が見込まれることになるそうです。隣りのニュージャージー州でも、今年1月に解禁となったばかり。バージニア州では、州知事が、2024年予定の合法化を、この7月に前倒しにしたいと話しているようです。
各個人が、嗜好品としてベランダで6本までなら育てて良いとのこと。この春、私はトマトやきゅうりをバルコニーで育てたいな、と思っていますが、それと同じ感じで、マンハッタンのアパートメントのバルコニーのあちらこちらに、マリファナの木がプランターで育てられている姿は、なんかかわいいな、と思いました。
この法律によって、ニューヨーク州では、マリファナはすべて、医薬用、レクリエーション用両方とも解禁されたことになります。医薬用としては、既に癌などの鎮痛剤として、モルヒネなどと同じように医師により処方されているそうです。
ニューヨークでは、2019年にマリファナを使ったクッキーやチョコレートの販売が一時認められました。しかし、そういうお店がちょっと流行りだした頃、美味しくてついつい食べ過ぎて、急性中毒で病院に運ばれたりする人も出て、急にやっぱりダメ!禁止に。そんなことになっていたのですが、2021年になってこの展開です。
今までは違法でしたので、それで刑務所に入ったり、罰を受けたりしていた人は、釈放され、逮捕、勾留の記録なども抹消されるそう。クオモニューヨーク知事も、「歴史的な日になった。今まで不当な扱いを受けてきたカラードピープル(黒や褐色の肌の人々)の地域正常化にも役立つだろう」と言っています。
というのも、1度でも若い時にマリファナで逮捕というような経歴があれば、それがたった500円分の小さな1袋を持っていただけであっても、以降生涯、まずまともな職業にはつけず、闇の職業につき、見つかれば逮捕、刑期は長くなり、出所してまた闇の職業へ逆戻り、という負の連鎖を生んでいたからです。
2020年1月1日から嗜好品として、マリファナが解禁、販売されたアメリカ合衆国イリノイ州。主要都市のシカゴでは、解禁日に氷点下の中にもかかわらず、マリファナを求めて、販売店では最長12時間に及ぶ長蛇の列ができ、売り切れなどが相次ぎました。なんと解禁日から5日間で、約12億円近くの売り上げを上げたそうな。
アメリカ合衆国では、そこまで、人々が必要としているもののようです・・・。
Netflixのドキュメンタリー映画「グラス・イズ・グリーナー(2019年製作)」をご覧になった方はいらっしゃいますでしょうか。この映画でマリファナの歴史を観ることができます。
まず、アメリカでは1920年ごろから、白人による人種差別を正当化するために、「落ち着くためのハーブ」として、アフリカ系アメリカ人やメキシコ人が使用していたマリファナを、白人が罰することができるように決めた。
それが、今の米国のマリファナの法律の由来だそうです。
そしてマリファナの売人として多くの黒人たちが逮捕、勾留などされ続けてきたわけですが、その裏のリーダーで、大儲けをしていた多くは、いつも白人のギャングたちだったのです。
この時、マリファナを吸うと危険であるとか、凶暴になるとか、たくさんのデマが、人種差別主義で有名な麻薬取締局長官、アンスリンガーらによってマスコミに流され、人々はそれを信じてしまったそうです。黒人たちによるジャズなどの音楽の目覚ましい発展も、支配層の白人たちには気に入らなかった。
それらを是正するべく、やっと100年後の現在、今までの不平等が見直されようとしています。
信じられないかもしれませんが、ここアメリカでは、同じコンサートで、観客がマリファナを吸っていても、白人は見逃され、黒人やラテン系アメリカ人だけが捕まる、というような理不尽なことが、ずっと行われてきました。
この違法とされたマリファナと共にアメリカで盛り上がった、数多くの優れたカルチャー(ジャズ、絵画、ヒッピー、フォークソング、ロックンロール、宗教、ヒップホップ、ラップなど)が、アートとして、全世界に多大なる影響を与えています。
アメリカでは、最近、合法化されたマリファナを買いに行く、老人ホームからのツアーバスなども出るようになったそうです。体のあちこちが痛くてよく眠れなかったお年寄りが、副作用のほぼないマリファナで、人生が少し楽しくなってウキウキして、夜もぐっすり眠れるのだとしたら、そんな素敵な事はありませんね。
実際にアメリカでお年寄りにアンケートをとってみると、鎮痛薬としては、薬局でもらう薬よりも、自然の生薬としてマリファナの方が体に良さそうだ、と思っている人が多いそうです。
大学でも、マリファナを専門に勉強する科ができ始めました。まだまだ新しいビジネスですから、投資家はどんどん出るでしょうけれど、学術的な専門家はまだ少ないから、これは良い専門職になるのでは、と思います。
もともと、この大陸に住んでいたネイティブ・アメリカン(インディアン)の人たちが、スピリチュアルな考えを生み出すために、そしてリラックスするために、タバコと同じように使っていた歴史のある神聖なハーブ、マリファナ。
部族の中で喧嘩が起こりそうになった時、一緒にこの煙を吸って話し合えば、お互い笑顔で別れることができるのだそうです。
そこにいつの間にか、このアメリカ大陸を侵略してきて、住み着き、武力を行使し、自分たちの都合の良いようにどんどん法律を作っていくヨーロッパから来た白人たち。そういった歴史を紐解いてみるのも、興味深いことだと思います。
この大麻についての考え方は様々で、アメリカ合衆国の各州でいろいろな法律があり、このニューヨークの解禁により、15州が合法になりました。日本では、アメリカに従ってマリファナは違法となっていますが、ここアメリカで、長年マリファナがどう扱われてきたかをしっかり見直してみるのも、今日必要なことかもしれません。
Kayo
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。