「ペットボトルは犬猫避けだよ。」
そんな話を耳にしたことのある人も多いでしょう。
そうです,住宅の塀の上や道路脇の電柱の下に並べてある,あの水の入ったペットボトル。
「犬や猫は,ペットボトルの中の水の反射が嫌いだから近寄らないんだよ。」
そう力説する人もいます。
でも本当のことを言ってしまうと…
効果は「まったく」ありません。
本当に水の反射が嫌いであれば,湖の畔も浜辺も,川辺も水たまりの側だって歩くことは嫌がるはずですもの。
アメリカをはじめ,海外の研究者が実際に花壇などにペットボトルを置き,猫や犬が本当に避けるのかを研究をしていますが,いずれも「避けない」という結果になっています。
では何故「水の入ったペットボトル」が犬や猫避けとして日本では使われるようになったのでしょうか。
発祥はアメリカだとか,オーストラリアだとか言っている情報もありますが,どの情報も不確か。
しかし,調べていくと「おそらくこれが発端であろう」,という情報にたどり着きます。
それは「ニュージーランドの庭師のジョーク」から広まったというもの。
1980年代半ば,ちょうど日本ではバブル期を迎えようとしていた時代。
ニュージーランドでは,あるカリスマ的存在のガーデナー(庭師)がいたのです。
彼の名はエイン・スカロウ氏。
スカロウ氏は,テレビやラジオに多数出演していた有名人だったのですが,とあるラジオ番組でこう発言したのです。
「ペットボトルに水を入れて,庭の芝生に置いておくと,犬が芝生の上にウンチやオシッコをしないよ。」
それを聞いた人たちは,「あのカリスマガーデナーが言うのだから本当に違いない!」と,こぞって庭にペットボトルを置いたというのです。
でもね,これスカロウ氏のジョークだったのです。
このラジオが放送されたのが4月1日。
つまりエイプリル・フールだったのです。
海外では,有名な企業でもテレビCMなどでエイプリル・フールにジョークを流すことがあります。
たとえば,誰もが知っている世界的コーヒーチェーンのSTARBUCKS。
2019年のエイプリル・フール流したCM。
STARBUCKSならぬ,PUPBUCKSです。
“pup”とは,英語で「ワンちゃん」という意味。
CMでは,
“STARBUCKS IS PROUD TO INTRODUCE A NEW BREED OF STORES(スターバックスは新しいタイプの店舗を導入することを光栄に思います)”
それは “PUPBUCKS(ワンちゃんバックス)”
の字幕からスタートし,スターバックスのエプロンをつけたスタッフが,ワンちゃんたちと共に登場して,こう言うのです。
“We see how much our customers love dogs, so we wanted to offer a Starbucks Experience just for THEM.(私たちは,お客様がどれほど犬を愛しているかを知っています。ですので,ワンちゃんのためだけのスターバックス・エクスペリエンスを提供したいと思いたったのです。)
そして店員さんは,ワンちゃんたちにおやつをあげながら
“Working at PUPBUCKS is a little different than any other STARBUCKS store I’ve worked at, I think. (ワンちゃんバックスでの仕事は、これまで働いてきたスターバックスの他の店舗とは少~し違うと思います)”
と,犬たちのために働く喜びを話します。
そして,
“I’m so excited for PUPBUCKS to open to the public really soon. (ワンちゃんバックスがもうすぐオープンすることを楽しみにしています。)
“Hope to see you there! (お待ちしています!)”
と,スターバックスのロゴと共に締めくくります。
エイプリル・フールだと気づかない愛犬家は,絶対に「マジで!?」と喜んでしまうようなクオリティ。
でもほとんどの人たちは,これがジョークであるということを理解しているので問題にはなりません。
しかし,ガーデニング好きの人たちにとっては,あのカリスマ庭師が言うのですもの…
「ジョーク」ではなく「本当の話」として受け取られてしまったのです。
瞬く間にニュージーランド中に広まり,すぐにお隣のオーストラリアまで渡ってしまいます。
さあ,こうなると人の口に戸を建てることはできません。
「真実」として,アメリカ,イギリス,インド,カナダ,日本へと広がっていきます。
実際に,1986年10月に発行されたサンディエゴの新聞,The Sun Diego Unionでは,「水を入れたペットボトルは犬を近寄らせない」と書かれたほど。
しかし,世界中の人たちがこの「ペットボトル神話」を信じて実行したのですが,多くの人たちにはその効果が感じられず,ほんの数年で「庭のペットボトル神話」は忘れ去られてしまいます。
でも,日本では未だに健在。
外国のメディアにも,「日本では道端に多くのペットボトルが置かれているのをよく見かける」と紹介されるほどです。
それは日本人が素直な国民性だからなのか,それとも一度信じたらとことん信じる,という頑固な国民性だからなのかわかりませんが,住宅の塀の上や花壇のまわり,電柱の側など至る所にペットボトルが置いてあるのを見かけます。
それを見るたびに,街の景観を損ねるなぁ。。。と思うのですが,それ以上に「やめた方がいい」理由があるのです。
それは「収れん火災」の危険性。
収れん火災とは,「太陽の光が鏡やレンズ等によって反射・屈折して1点に集中し,そこに可燃物があることで起こる火災」のこと。
収れん火災は,火災の中でも件数こそ少ないのですが危険性は十分にあります。
東京消防庁によると,収れん火災を引き起こすものとして,鏡やメガネ,ペットボトルに入った水が,レンズの役割をしてしまい火災の原因となってしまうこともあると明記されています。
外に水入りペットボトルを置いている人は,くれぐれもご注意を。
さて,「水入りペットボトル」を世界中に広めてしまったエイン・スカロウ氏。
彼は2013年にこの世を去っていますが,晩年の2009年にニュージーランドで放送されたテレビ番組に出演してこう語っています。
「あれは冗談だったんだけどね。でもなぜあんなことを言ったのかわからないんだ。ただのノリで言ったんだろうね。あれから獣医からの電話が鳴り響いたよ。冗談っていうのは笑いを誘うものでなければならないと思うんだ。決して誰かを傷つけるものであってはいけないんだ。」と。
確かに人を傷つける冗談は良くない。
でも,ペットボトルの話は笑い話にもジョークにもなっていないような気がするのですが・・・。
ノリで言ってしまったにせよ,20年以上も経った頃に言うのではなく,広まり初めてしまった早い時点で「あれはジョークだよ。」と言って欲しかった。
「そうすれば,世界中に広まることもなかったのに…。」と,愛犬の散歩中,電柱などの側に置かれたペットボトルを見るたびに思うCozyなのでした。
たしかにペットボトルは収れん火災の危険もありますし,街の外観を損ねます。
でも,この問題で考えなければならないのは,愛犬の散歩中に「後始末」をしない「飼い主」がいるということ。
その意思表示としてペットボトルが置かれているのかもしれません。
そこもきちんと考えないと,犬や猫好きの人たちが,自分と同じ愛犬家・愛猫家の首を締めることになりかねません。
日本から道端のペットボトルが消える日はいつなのか。
それは,私を含む愛犬・愛猫家のマナーが浸透した時なのかもしれません。
英語教材開発・制作者
米国留学から帰国後、幼児・児童英語教師を経て、中学・高校英語、受験英語、時事英語等多岐にわたる指導を行い英語教師経験を積む。また、ホテル勤務での実践英語経験を積んだり、カナダにて現地の子どもたちの英語教育にも携わりながら、CertTEYL(世界での児童英語講師認定コース)の認定を受ける。さらに、青山学院大学でTutoringの研究員としても活動。英語講師養成のeラーニングコースの日本での立ち上げメンバーとなる。「現場での経験を教材に活かしたい!」と、現在は英語教材開発会社にて日々教材開発に勤しむ。高校入試用のリスニングトレーニング教材(塾・学校向け)は累計10万部以上のベストセラーとなる。英語教材開発の傍ら、全国の英語教師への研修なども行う。また、土堂小学校(広島県尾道市)での英語指導や、初の民間校長として一躍時の人となった藤原校長(当時:杉並区立和田中学校)が手掛けた英語コースの指導に2年間携わるなど、英語教育に関する多様な分野で活躍。大の犬好きから、ホリスティックケア・カウンセラーなどペット関連の様々な資格を取得し、ペットライターとしても活動中。