「プラトー現象(学習高原)」という言葉を知っていますか?
前回お話ししたスランプと似ていますが、あまり知られていません。スランプとは、今まで出来ていたことが急に出来なくなること。
例えば、これまで150kmの剛速球を投げていたピッチャーが、急に140kmしか出せなくなるような状態。野球が好きな方は、すぐにスランプという言葉を思い出すのでは。
一方プラトー現象とは、これまで順調に上がっていた能力の伸びが、一時的に停滞してしまう状態。90km、100kmと球速が伸びていたのに、110kmでピタっと止まってしまった。
そんな状態のことを、教育学では,プラトー現象(学習高原)と言います。
英語学習で考えると,TOEICテストで点数が伸び悩んでいる。順調に点数が伸びてきたのに,この数回ほどは同じ点数で推移している。そんな状態のことを指します。
それは学習時間が減ったせいでも、記憶力が落ちていることでもありません。なんとなく行き詰まり感がある,成長した感じがしない。それが,プラトー現象です。
ものごとが思い通りにいかないと「スランプ!」が頭に浮かぶかもしれませんが,スランプは,成績が急に落ち込むこと,今までできていたことができなくなること。
行き詰まり感や進歩している感じがしないのは,プラトー現象です。
実は,プラトー現象は,英語学習者にとって大歓迎!することなのです。
プラトー現象は,学んできた情報や知識(英単語,フレーズ,文法事項)を、脳が整理している状況。スマホでデータを記憶させる際に,セーブ画面に代わるときと同じ。
それでは,プラトー現象とは、どういう状態を指すのかをお話します。
<プラトーってどういう意味?>
プラトー現象を図で説明しましょう。プラトー(Plateau)は,フランス語で「高原や台地」を意味します。プラトー現象は,学習中の実力の伸び方の特徴を示したもの。
英語を学習するとき,右上がりで実力が伸びていくのが理想です。実際には,ある程度の高み(高原)で,学習の伸びに停滞期が起きるというのがプラトー現象です。
スランプのように,急に落ち込むのではなく,高原(プラトー)で安定しています。学習者には,停滞感やなんとなく実力が伸びてないのではないかという感じがします。
その停滞感が続く期間は,個人や状況によりさまざまですが,それが終わると上昇期に入り,急激に実力が伸び始めるのです。上昇期~停滞期~上昇期を繰り返します。
英語学習は,このプラトー現象で実力が伸びていきます。調子が悪いからスランプだと勘違いすると,今までの努力が無駄になってしまうこともあります。
<点数が伸び悩んだ英語学校時代>
私も、プラトー現象を体験したことがあります。それは防衛省語学学校で英語を勉強していた時のことです。
防衛省では,英語の専門官を6か月で養成するコースがあります。早朝7時半から朝練が始まります。学生二人で,暗記したテキストの英会話を大声で練習します。
8時から5時までは英語の授業。6時以降は自習時間で真夜中まで勉強します。とにかく必死です。また,毎週英語の実力テストがあります。100点中70点以上が合格。
毎週のテストで、60点、70点、80点と点数が順調に伸びたのですが、ある時80点で伸びが止まってしまったのです。努力しても,点数が思うように伸びない。
教官からは,クラスの平均点や学生の点数の伸び率などのデータが提示されます。当時,プラトー現象を説明してくれる人も,情報源もありませんでした。
ですから,自分に何が起きているのかが分からない。スランプ?英語の勉強でスランプがあるのだろうかという疑問と,訳の分からない停滞感。悩みましたね。
英語学習には,プラトー現象がつきものであるということさえ知っていたら,悩むこともなかったと思います。それが私のプラトー現象の初体験でした。
<プラトー現象を乗り越えさえすれば、、、>
私の最初のプラトー現象は,3週間ぐらい続きました。その後、実力テストでクラス一番になり,90点を越えました。勉強法は変えていません。ただ,コツコツと努力した。
プラトー現象を乗り越えると、急激に脳の処理能力が向上するとともに、英語能力も向上します。例えば、今までリスニングできなかった英語が、急に分かるようになる。
何回聞いてもわからなかった英語のフレーズが,ある時,ゆっくりと明瞭に聞こえるのです。英語学習者の「あるある」体験です。自分にとっては,奇跡的な経験です。
TOEICの筆記問題も,問題を読み進めるうちに,パッ!と答えが脳裏に浮かんでくる感じ。脳の情報処理能力が一気に上がった感じです。
スランプの場合は、成績が落ち込む原因を探したり,今までの学習方法とは違った別の方法で勉強したりするのが望ましいと,前回の記事ではお伝えしました。
プラトー現象の場合は、努力して蓄えった情報を脳が処理している段階です。学習法を変えず,今までの学習方法を継続すれば良いのです。
ここでスランプだと思って別のことに取り組んでしまうと、それまで順調に積み上げてきたことが、白紙に戻ってしまいます。
もしあなたがプラトー現象だなと感じた場合は、自分の脳は今情報を処理し,頭の中を整理しているということを認識する。そして今まで通り勉強を継続する。
「継続は力」という諺のとおり、プラトー現象の場合は、学習を継続することが重要。
そうすれば,英語力が急上昇するという素晴らしい体験ができます。
<プラトーを認識することで停滞期を抜け出す>
私は,プラトーの初体験のとき,プラトー現象を知りませんでした。だから,悩んでいた。今考えると無駄なことです。
語学学校の英語教官になったときは,その経験から,学生にプラトー現象を説明し,停滞期に入ったのは,あなたの成長の証だと激励していました。
英語学習をしている人は、プラトーの停滞期とは成長過程にあるということを認識してください。通らなければならない道です。ここを抜け出せばさらに成長する。
能力の限界だとか、勉強方法が悪いとか,努力が足りないことではありません。そのまま続けていけば、必ず英語が上達すると考え,コツコツと努力を継続してください。
そう考えると、プラトー現象の停滞期も楽しんで英語の勉強を続けていけると思います。英語ペラペラの道には,沢山のプラトーがありです。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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