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ウィル・スミスに見る日米の差

World Lifeな生活
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“slap”(スラップ)
という英単語を聞いたことがありますか?

「“clap”(手を叩く・拍手する)ならあるよ。」
という人もいるかも知れません。

“slap”とは,「平手打ちをする」という意味。

“clap”はなんだか陽気な感じですが,
“slap”となると,なんだか不穏な空気を感じます。

これを聞いて,

「はは〜ん,ウィル・スミスの件だな。」と思った方,さすがです。

日本でも大きく取り上げられたこのニュース。
皆様はどのように感じられましたか。

実は,多くの日本人とアメリカ人とでは捉え方が
大きく異なる部分があったのです。

―アカデミー賞で起こった…怒った!―

先日,ロサンゼルスで行われた映画の祭典,第94回アカデミー賞。

「長編ドキュメンタリー」のプレゼンターとして壇上に上がった有名コメディアンのクリス・ロックに,強烈なビンタをしてしまった大俳優のウィル・スミス。

彼はなぜそのような行動をしたのでしょうか。

その理由はウィルの妻,ジェイダ・ピンケット・スミスの頭髪について,クリスがジョークでからかったから。

脱毛症を公表しており,スキンヘッドに近い髪型の彼女のことをクリスは,
映画「G.I.ジェーン」に絡めて

「G.I.ジェーン2を楽しみにしているよ。」

と冗談で言いました。

それを聞いたジェイダは,明らかに不満の顔。
ですが,その時のウィルは一緒に笑っていました。

ここで,「妻が笑いものにされているのに,一緒に笑うなんて・・・。」と思った方も多いと思いますが,アメリカのショービジネスでは,このように有名人を揶揄して笑いを取ることはよくあることなのです。

そして,それを「笑って受け止める」ということで,自身の器の大きさを示したり,
成熟した大人として,またセレブリティとしての余裕さを見せたりするというのが常。

だからこそ,ウィルも笑っていたのですが,
おそらく,ジェイダが不快に思っていることに気づいたのでしょう。
突然,ウィルはステージに上がりクリスを “slap”したのです。

最初にこのシーンを見た私は,

「これ,演出だよね?」

と思いました。

しかし,その後,主演男優賞を受賞したウィルのスピーチを聞いて

「演出ではなかったんだ」と気づいたのです。

この件は,日本のメディアでも大きく報道されました。

多くの方々は,

「ウィルが怒るのは当然。」
「妻を護ってえらい!」
「自分だって家族がバカにされたら殴ると思う。」

のように,ウィル・スミスに同情する意見。

反対に,

「人の容姿や病気をネタに笑うなんてひどい!」

と,クリス・ロックに対しての厳しい意見が目立ちました。

それも当然理解できます。

でも,アカデミー賞側は

「賞の剥奪も含め,ウィル・スミスの処分を検討する」

というコメントを発表し,またLAPD(ロサンゼルス市警察)もウィル・スミスの身柄拘束する準備までできていたというのです。

「ああ,ここに日米の違いがあるな」と感じた私は,すぐにアメリカ人の友人たちに連絡をとり,「この件に対してどう思う?」と聞いてみたのです。

―アメリカ人の反応は?―

もちろん,アメリカ人の中でも日本と同じような反応も多くあります。

今回,私が意見を聞いた友人たちの意見が全てではありません。
しかし,SNSやアメリカ国内のニュースなどを見てみても,彼らと同じような意見が多くあるのも事実なのです。

また,日本人でもアメリカ的な考えを持っている人もいます。

ですので,

ごく一般的な捉え方としての「日米の感覚の違い」の参考として,お読みいただけますと幸いです。

―アメリカ人の友人の反応は?1―

日本で英語教師として働いているシアトル出身の友人Jの意見。

「実際に高校生のクラスで話を聞いてみたんだ。

すると,みんな一様に,

「ウィル・スミスは奥さんを護ってえらい!」と言っていたよ。

でも,そう言いつつ,

「暴力はあまり良くない」という意見もあったよ。

ぼく自身も,「最初は妻を護っている」と感じたんだけど,叩かれた後のクリス・ロックの対応を見て,ウィル・スミスに対して違和感を感じたんだ。

それは,クリス・ロックは感情的にならず,ショーを壊さないためにも大人の対応をした,ということ。

そう考えると,ウィル・スミスには,

「言葉で抗議する」
「ショーの後でクリス・ロックと話し合う」

等,もっと他に方法があったのではないか,と思うんだよね。

日米の文化的な背景を考えると,

日本では「男は女を護る義務がある」

というような考え方があると聞いたことがあるよ。
でも,アメリカではそのような考え方はあまりないかな。

僕も妻を護りたいという気持ちはもちろんあるけれど,
妻を侮辱されたからと言ってビンタをするってことはないな。

日本では,このような場合,
「肉体的な暴力はそれほど大きな問題ではない」

と考えられているのかな。

そんな感じがするんだよね。

―アメリカ人の友人の反応は?2―

アメリカ・サンディエゴ在住の友人Aの意見。

『個人的な意見としては,ウィル・スミスはクリス・ロックを叩くべきではなかったと思う。
だって,このような授賞式って,いつも人に対するジョークで幕を開けるのが常だから。

彼だって最初は妻のことを言われても,笑っていたんだもの。

ウィル・スミスがそれほどまでに怒っていたのであれば,言葉で伝えることもできたはず。

今回のこの暴力で,彼はこれまでのキャリアを台無しにすると思う。

―アメリカ人の友人の反応は?3―

アメリカ・ロサンゼルス在住友人Mの意見。

『ウィル・スミスの平手打ちと汚い罵声は,アメリカの多くの人々にとって容認し難いものとして受け止められている。

その理由として,

1)職業上,及び公的な場,特にアカデミー賞のような伝統的な超公の場所での社会的な礼儀として,不適切な行動・反応であったこと。

2)肉体的な攻撃は(深刻な身体的危険から誰かを護るために必要な場合を除き),自制心の欠如,レベルの低い行動,未熟,攻撃的,品格のなさとみなされ,一般的には受け入れがたい。

3)ウィル・スミスの対応は怒りからくるもので,「妻を護る」ためだったと思われるが,感情的になっただけで,実際に妻を「護る」ことはなかった。

4)ジェイダ・スミスは大セレブであり,発言力のある人,そしてSNSなどでも私生活を自ら表に出す人。

5)ジェイダ自身が怒るのであれば理解できるが,ウィルは「俺の妻だ。」と自分の所有物のように思っていると感じた。

彼女が「有名人として」世間に公表していることは,コメントされたり,冗談を言われたり,また批判されたりすることになるのは彼女も理解しているはず。

今回のクリス・ロックの発言も,彼女の地位,有名人としての経験,さらに大人であることを考えると,アメリカ社会では許容範囲だと考えられる。

もしも,命の危険にさらされている人を助ける場合の暴力は仕方ないし,称賛に値するとみなされると思うけれど,今回の件は命を脅かすものではない。

冗談に対する反応として,物理的な暴力と汚い言葉での怒りは下品であり,アメリカ社会では受け入れられず,人として未熟で非難されることであると思う。』

―暴力ではなく,拍手を!―

と,3名の友人の意見を聞いてきましたが,どれもなかなか興味深い意見です。

アメリカには“Stand-Up_Comedy”(スタンドアップコメディ)と呼ばれる即興話芸があります。

これは,コメディアン一人が観客の前で「生の話術のみ」で観客を笑わせるというもの。

日本の漫才とも漫談とも,はたまたコントとも違う独特なコメディで,その題材は結構シュール。

ときには政治,宗教,人種差別等をネタにしたり,また有名人などを皮肉ったりととても過激なものも多く,今回のクリス・ロックのトークもその一つと考えられます。

そんなスタンドアップ・コメディに慣れているアメリカだからこそ,会場の人たちも笑っていたのですね。
ウィルも最初は一緒に笑っていました。

しかしその後,急に彼の感情に変化がおこり,アカデミー賞という大きな舞台で暴力を奮ってしまいます。

この「暴力」という部分に,多くのアメリカ人は批判的になってしまったのです。

例えば,もしもウィルがクリスの話を笑ってスルーしたとしましょう。

映画「ドリームプラン」で主演男優賞を受賞した際のスピーチで,「スマートに」そして「穏やか」にこの件に関して「口頭で」抗議したならば,きっと俳優・ウィル・スミスとしても,成熟した人間として称賛されていたかもしれません。

その証拠に,

ロサンゼルス市警からのウィルの拘束に対して問われたクリスは,頑なに “No”を貫き,

“slap”直後のステージ上でも,

“That was a greatest night in the history of television.”(テレビ史上,最高の夜)

と,笑いに変えて場を和ませたことで賞賛の声が上がっています。

私自身は,有名人であろうと人が気にしている部分をジョークにするのは好きではありません。
しかし,アメリカのショービズ界(スタンドアップコメディ)ではよくあること,というのも事実。

これは文化・慣習の違いとしか言いようがないのかもしれません。

ただ,そうは言っても「同じことを一般人には絶対にしない」ということを考えると,
根本的な考え方はアメリカも日本も同じなのかもしれない,とも思うのです。

絶対的セレブなスミス夫妻。
だからこそ,ネタにもされたのかもしれません。
だって,ネタにされたくらいでは,彼らの地位も名誉もビクともしないのですから。

でも時は戻せません。
実際に暴力をふるってしまったことで,ウィル・スミス自身が今後どのようになるかはわかりません。

それだけ「暴力」はダメということです。

肉体的な暴力も言葉の暴力もダメです。
絶対にダメ!

どうせなら“slap”(ビンタする)するのではなく,

“clap”(拍手する)しましょうよ。

そのほうが絶対に楽しいですもの。

Don’t slap!
Just clap!
(ビンタしない!拍手しよう!)

さあ,今日から “clap”の多い生活を心がけてみませんか?

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