こんにちは
NYのKayoです。
日本では、電車の中でもデパートでも病院の待合室でも、誰もが当たり前のように携帯電話を「マナーモード」にしますよね。会話するときも、周りに配慮して静かに話す。あの「静寂というルール」を、日本中のみんなが共有している——改めて考えると、これって本当に興味深い決まりです。
そんなマナーは全く無いアメリカ
というのも、一歩アメリカに出ると、その常識は見事にひっくり返リます。
ニューヨークの電車の中では、車両のあちこちで誰かが携帯電話を片手に、人生相談、恋愛トラブル、仕事の愚痴などなぜか全員に聞こえる声量で(笑)、しゃべっています。
地下鉄が地下を走っているときは電波が入らないので、車内は比較的静かですが、路線によって地上を走る区間もあるので、いざ地上に出て電波が入った瞬間!
待ってました!とばかりに一斉に通話が始まるのです。クイーンズでもハーレムでも、まるで“同時通話大会”のような賑やかさ。アメリカの電車は常にトークショー状態です(笑)
レストランでも同じこと。隣のテーブルではステーキを食べながら、10分どころか30分も電話で喋り続ける人がいます。1人で食事をしているのが退屈なのでしょうか。
誰も注意しませんし、むしろそれが「普通」。アメリカでは「周りに迷惑をかけるかも」と思うより、「自分の用事を今済ませたい」のほうが優先されますので、罪悪感ゼロ。
むしろ「だって必要だから」で完結します。
すっかりアメリカ人になってる私
そんな私も、以前日本で「やらかした」ことがあります。4,5年ぶりに帰国した時だったでしょうか。酒屋さんでワインを選んでいたら、ちょうど仕事の大事な電話がかかってきたんです。
ついアメリカ感覚で、その場で電話に出て、しばらく真剣に話し続けました。すると店を出た瞬間に、一緒にいた友人に言われました。
「ああいう場所で電話するなんて、信じられない!」
私はぽかんとしました。
「え、だって仕事の話よ?」と言うと、彼女は呆れ顔。
「常識でしょ、普通は店の中で携帯電話ではしゃべらない。」
そう言われて、カルチャー・ショックを受けたことを思い出します。
いつでもどこでも他人を思いやる日本人
日本人の「マナーモード文化」は、単に音を消す習慣ではなく、「相手を思いやる文化」なんですね。見知らぬ人にすら、迷惑をかけまいとする、あの静けさの中には、日本人特有の優しさと緊張が共存している気がします。
アメリカに長く住んでいると、そんな日本の「静寂の美学」が少し恋しくなるときがあります。
ニューヨークの喧騒の中で、例えばめちゃくちゃうるさいバスの中で、あの日本の新幹線のシーンとした車内を思い出すと、まるで夢のようにさえ感じます。
そしてこちらでは、誰も「静かにして」とも言いません。自分は自分、他人は他人と言う人間関係が、はっきりしているとでも言いましょうか。
結局、私は今日もバスの中で、隣の人の大音量での痴話喧嘩をBGMに、携帯電話の消音モードを確認します。消音モードにしているなんて誰も気づかないのに、なぜかちょっと誇らしい気分になるから不思議です。(笑)
アメリカでは必要ないのかもしれないけれど、いつも他人を思いやれる日本人らしい、心の余裕を持っていたい。
ちょっとそんなことを思ったりします。
それではまた来週♫
Kayo
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。



