毎年、今時分になると、米海兵隊から一通の招待状が届きます。
「第OOO回米海兵隊創立記念祝賀晩餐会へのご招待」という長いタイトルです。
1775年11月10日は、米海兵隊の創立記念日。246年前に、米海兵隊が作られました。
その日は、米海兵隊の誕生を祝う日。
米軍は、誕生日になぞらえて,「バースデイ・ボール」(Birthday Ball)と呼びます。
バースデイ・ボール?誕生日にボーリングとかフットボールの試合でもするのでしょうか?
そんな感じで招待状を読み進んでいくと,,,
<バースデイ・ボール(BALL)て、なんのこと?>
私も、30年前に初めて米軍の招待状を見たときには、なにがなんだかわかりませんでした。てっきり、米軍基地内のボーリング場で日米ボーリング大会でもやるのかな?という感じ。
招待状を開封すると、英語で見たことのない文章が印刷されています。
何に招待していただいたのかな?とみると、
the 215th US. Marine Corps Birthday Ball
らしい。
辞書を引きながら訳してみると
「在日米海兵隊司令官及び令夫人は、第215回米海兵隊創立祝賀舞踏晩餐会への出席を賜りたくご招待差し上げるのは,歓びとするところであり,,」
という感じ。
つまり、「ボール」って舞踏会だったのです。ブトーカイ?て,
「イギリスやウイーンの宮殿なんかで貴族が社交ダンス踊るやつですかあ。」
と30代の私は呟きました。
さらに読み進むと, アッタイアー(Attire:服装)って書いてあって、その先に謎の2行が,,,,,,
Military: Evening Dress / Dress Blue Alpha
Civilian: Black Tie / Suit
<公式晩餐会には、喪服着用のこと?>
軍人(Military)と民間人(Civilian)の区別はわかるけど,ドレス・ブルー・アルファでなんですか?
軍人は,青色の制服を着るとか?
民間人は,「スーツにブラックタイ」って書いてあるので、スーツに葬式に着用する黒色の喪服用のネクタイをしめればいいのだろうか。
お祝いの場にふさわしい服装とはいえない。
その当時は(1990年当初のこと)だから,携帯電話はまだ普及しておらず,インターネットも全く知られていない時代のこと。ググるのではなく,調べものは,もっぱら電話であった。
銀座の老舗スーツ店に電話して,ブラックタイって何か聞いてみた。黒いネクタイではなく,タキシードのことであった。結婚式で新郎が切る蝶ネクタイと黒いジャケットの組み合わせ。
蝶ネクタイは,ボウタイ(Bow tie)ということも分かった。夫人は、イヴニング・ドレスと書いてある。つまり、引きずるようなスカートである。表現ががさつだ。足首が隠れる丈の長いドレスという方が良い。
念のため,米軍担当として,服装のことやら当日の行動を確かめるために、米軍司令部渉外課に電話をかけた。女性通訳官が,日本語で丁寧に説明してくれた。
不明だった服装の2行は,
軍関係: 夫人はイブニングドレス,軍人は礼装A(最上級の礼装,勲章着用)
民間人及び軍職員:タキシードまたはスーツ
日本人の招待客の夫人は,和服が歓迎されるということであった。
当日は、招待状を持参し、セキュリティチェックのために、身分を証明できるものを帯同するよう指示された。パスポートや運転免許証などを、基地のゲートで警護員に提示しなければならない。
<晩餐会会場、どこに座るの?>
基地内にある下士官クラブは、一流ホテルの宴会場のような感じ。玄関前に車寄せがあり、広いエントランスホールへと続く。エントランスホールには、クラーク(手荷物・コートを預ける場所)があり、コートと引き換えに番号札が渡された。
ホールでは、正装をした軍人とロングドレスをまとった夫人が会話を楽しんでいる。一角に小さなテーブルが置かれており、そこに晩餐会会場の席次表が置かれている。
英語で書かれた名簿をたどり、自分のテーブル番号を確認する。会場へ入り自分のテーブル番号のところへ移動。テーブルには、三角形の名札が置かれており、自分の名前を確認して席に着く。
日本人妻は、和服で参加している人が多いようだ。華やいだ雰囲気が充満している。
すれ違う海兵隊員に“Happy birthday!”と声をかける。海兵隊の独特の返事で”Wraaah”と反応が返ってきた。
式典は、夜の7時。それまでの小一時間は、会場での「カクテル・タイム」となっている。会場には、バーカウンターがあり、日本人のバーテンダーが手際よく飲み物を提供している。
好きな飲み物を注文し、軽くお酒類を嗜むのがカクテル・タイムである。飲み物は有料で、ドルでも円でも支払いできる。ただしキャッシュ(現金)のみ。おつりは,チップ箱にさりげなく入れる。
<式典での伝統的なケーキカットもあります>
式典が始まる前に、各人のテーブルにつき式の開始を待つ。最初に儀じょう隊と呼ばれる儀式を遂行する隊員が入場し両国の国旗が入場する。軍の音楽隊が演奏し,女性軍人が日米の国歌を斉唱。
式典で一番興味を引いたのが、バースデイ・ケーキのケーキカットである。ナイフは使わない。代わりに、将軍が腰に携えている儀礼等を引き抜き、長方形のケーキを一口大にカットするのである。
カットされたケーキは、将軍によって当日の最年長の軍人に提供される。最年長の軍人は、ケーキを一口食べ、その皿を今度は当日の最年少の軍人に手渡す。そして同じように一口ケーキをほおばり、ケーキカットの儀式は終わる。世代から世代へと伝統を受け継ぐことを,体現するのである。
この超特大のケーキは、いったん厨房に返され、一口大に切り分けられ、最後のデザートとして提供される。
<伝統を引き継ぐことの大切さを知る>
ゲストスピーカーが海兵隊の伝統と過去の偉業についてスピーチし、その後,待ちに待った晩餐。晩餐は、招待の返事を連絡するときに、3種のメニューの中から選ぶことができる。
メインディッシュは、ビーフステーキ、チキンのコルドンブルー、菜食主義者用メニュー(主にパスタ)からの選択になる。
晩餐後、軍のバンドの演奏が始まり、ダンスタイム(舞踏会)となる。当初はアップビートの曲が演奏され,中央のダンスホールに若い隊員が集まってくる。
後半は,スローな音楽に代わり、夫婦やカップルがチークダンスに興じるのであった。
約4時間ほどで舞踏晩餐会は幕を閉じる。
米海兵隊の創立を祝い、さらに夫婦のきずなを最後のダンスで確かめ合う。心憎い演出である。若い隊員たちは、ビートアップの音楽でステップを踏む。すべての年代が楽しむことができる。
その背景には、海兵隊の伝統を知り、それを世代で引き継いでいく重要な役割が横たわっているのです。
盛装して格式のある式典を挙行し、式典の後は,心地よい音楽とリズムで,海兵隊のバースデイを祝う。先達の偉業をしのび,訓練も最善を尽くす海兵隊員と伝統行事の関係は不滅なのです。
海兵隊が平和を希求し、国と家族のために命を賭して作戦に参加する。それは現在も変わりません。過去の多くの犠牲の上に,今の平和はあることを海兵隊員は知っています。
お盆には,身なりを整え先祖に手を合わせ,家内安全と日本の未来永劫を祈る。海兵隊の世界平和と家族の幸福を願う心は,どこか通じるところがあります。
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執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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