前回は、米軍で学んだ英語学習のコツ(時間管理編)をお話ししました。
今回はその続きで、米軍で学んだ英語のコツ「caring編」です。
Caringとは、一般的に「世話をする、面倒をみる」という意味です。海兵隊でも「care」は世話をするという意味で使います。海兵隊では,独身隊舎で4人のチームをつくり,リーダーが世話をします。
しかし,アメリカ人が海兵隊に入隊し、最初に訓練を受ける新兵教育隊(Boot Camp)では,私たちが考えているような世話はいっさいありません。それどころか、大変な経験をするのです。
自分を初期化する
それまでの社会での生活をすべて忘れるように私物は全部没収され,長かった髪は丸坊主にされ,社会生活をすべて否定されるのです。そして、家族に別れを告げることを命じられます
壁に設置された数十台の公衆電話に隊員は列をつくり並びます。公衆電話など使ったことのない若者たちは,壁に貼ってある「電話のかけ方」に従い,自宅に電話をかけます。
そのマニュアルには、家族への伝言が5項目書かれています。新隊員の両脇には,教官が2人立ち,余計なことを言わないよう監督し,さらに壁や机をたたきながら大声で指示をだします。
1.“This is 〇〇”
(〇〇(姓)です)
2.“I have arrived safely at Paris Island”
(パリスアイランド*に無事に到着しました。)
3.“Please, do not send any food to me in the unit”
(私に食べ物などを送らないでください)
4.“I will contact you in 7 to 9 day!”
(7~9日後に連絡します)
5.“Thank you for your support……”
(感謝しています……)
*パリスアイランド 海兵隊の新兵教育隊のある基地名
「ママ,僕だよ」ということもできません。いきなり他人行儀に,自分の名字だけを伝えるのです。
家族も電話の向こうで必死になって息子や娘に会話をしようとするのですが通話は一方的です。
そして,新兵は、こう告げて電話をきるのです。
“Good by for now”
(しばしのお別れです!)
受話器を置いた瞬間、社会人としての自分が初期化され、海兵隊新兵になるのです。
後ろに控えている次の新兵が電話の受話器を取り,ダイヤルを始めます。
日本では考えられない壮絶な家族との別れの儀式です。家族との別れの感傷に浸っている暇(いとま)はありません。過去の自分に決別し,海兵隊員としての道を歩み始める決意をするのです。
海兵隊式の世話とは
新隊員に対して,海兵隊の教官たちは,どのように世話をするのでしょうか。
海兵隊式の世話とは,「部下の身を守り,彼又は彼女が戦場で必要なことを与え続けること」です。
換言すれば,「安全管理を徹底し,戦場で必要な技術を徹底的に習得させること」なのです。それが海兵隊式の世話役、つまり教官なのです。
過去,自分が信じていたもの,好きだったこと,習慣にしていたことをすべて初期化し,自分を空にする。戦場で生き延びるための体力,知識と技術を習得して,チームワークで生きていく。
それが海兵隊の新隊員の一日の生活となるのです。
教官たちの態度は,私たちが考える優しく世話をするというものではありません。
教官は、戦場で生き抜くためのすべてのことを,自分の力で獲得するように促します。
基本はすべて教官が見本を見せ,それを何度も繰り返し「完全に」体得していきます。
見本を展示する時以外,教官は隊員を大声でなじり続けます。無になった人間に,海兵隊員として必要なものを一つひとつ完全にできるまで訓練する。毎日が真剣勝負。できなければ去る。
一人が習得すれば良いのではなく,グループ全員ができるまで続ける。チームワークの基本を叩き込まれます。教官の世話とは、「部下の身を守り,彼(彼女)が戦場で必要なことを与え続けること」。
“Yes,Sir” または “No, Sir” のみの世界
海兵隊員志願者を乗せたバスが基地に到着すると,教官から第一声が発せられます。
これからお前たちの発することができる言葉は,「“Yes,Sir”または“No, Sir”のみである」。
全員一斉に「イエッサー」と声を合わせる。この瞬間から,この2つのフレーズが中心の言語世界に閉じ込められます。「私はどう思う。」ということが言えなくなる世界なのです。
主語となるのが,「我々」です。すべてがチームワークのために,力を集約していく行動をとることを強要される。良し悪しの問題ではなく,チームワークで海兵隊は戦うのです。
自分の言葉が発せられない。それはどういうことか。自分の頭の中にあるフレーズが,教官の言う海兵隊員の表現に置き換えられ、潜在意識の中に確実に刷り込まれていく。
「即実行!」,「海兵隊員は全員が優秀な射手だ!」,「ひるむな!」,「チームワークこそ勝利への道だ」。「仲間をみすてるな!」と脳離に言葉が焼き付かれていくのです。
今まで自分を守っていたものが初期化され、新しい世界(海兵隊)で生きていくためには、海兵隊新隊員教育コースのプログラムをインストールし,完全にマスターして卒業しなければならない。
与えられたノウハウと技術は、戦場で自分の身を守ることに直結する。さらに、仲間の命を守ることにもつながる。チームワークにより、与えられた任務は、達成されるのです。
それが海兵隊式の教育法であり、「世話」なのです。また、そこに学ぶということの原点を見ることができます。「身を守るための技術を獲得する」ということです。
グローバルな社会を生き抜くために,英語を懸命に勉強されている方も多いと思います。
真面目に英語に取り組めば取り組むほど,スランプや停滞感に陥ってしまうことがあります。
英語のフレーズがなかなか記憶できなくなった。英語の勉強に身が入らなくなった。TOEICの点数が伸びない。誰もが経験するスランプです。スランプを克服する世話は誰もしてくれません。
停滞期やスランプは,今までやってきた学習プログラムが旧(ふる)くなったのかもしれません。
漫画やアニメの英語版を読んだり,U-TUBEの英会話などを視聴したりして,「英語を楽しむ」プログラムはどうでしょうか。
これまでの真面目一辺倒の英語学習を忘れ,「英語を勉強しなくては」というしがらみ(旧いプログラム)を断ち切り,自分を初期化して,「英語を楽しむ学習」という新しいプログラムに更新する。
そこから新たなやる気が生まれ,きっとスランプを克服できると思います。
執筆家・英語教育・生涯教育実践者
大学から防衛庁・自衛隊に入隊。10年間のサバイバル訓練から人間の生について考え、平和的な生き方を模索し離職を決断する。時を同じくして米国国費留学候補者に選考され、留学を決意。米国陸軍大学機関留学後、平和を構築するのは、戦いを挑むことではなく、平和を希求することから始まると考えなおす。多くの人との交流から、「学習することによって人は成長し、新たなことにチャレンジする機会を与えられること」を実感する。
「人生に失敗はなく、すべてのことには意味があり導かれていく」を信念として、執筆活動を継続している。防衛省関連紙の英会話連載は、1994年1月から掲載を開始し、タモリのトリビアの泉に取り上げられ話題となる。月刊誌には英会話及び米軍情報を掲載し、今年で35年になる。学びによる成長を信念として、生涯学習を実践し、在隊中に放送大学大学院入学し、「防衛省・自衛隊の援護支援態勢についてー米・英・独・仏・韓国陸軍との比較―」で修士号を取得、優秀論文として認められ、それが縁で定年退官後、大規模大学本部キャリアセンターに再就職する。
修士論文で提案した教育の多様化と個人の尊重との考えから、選抜された学生に対してのキャリア教育、アカデミック・アドバイジングを通じて、キャリアセンターに新機軸の支援態勢を作り上げ、国家公務員総合職・地方上級職、公立学校教員合格率を引き上げ高く評価される。特に学生の個性を尊重した親身のアドバイスには、学部からの要求が高く、就職セミナーの講師、英語指導力を活かした公務員志望者TOEIC セミナーなどの講師を務めるなど、大学職員の域にとどまらぬ行動力と企画力で学生支援と教員と職員の協働に新たな方向性をしめした。
生涯教育の実践者として、2020年3月まで東京大学大学院教育研究科大学経営・政策コース博士課程後期に通学し、最年長学生として就学した。博士論文「米軍大学における高等教育制度について」(仮題)を鋭意執筆中である。
ワインをこよなく愛し、コレクターでもある。無農薬・有機栽培・天日干し玄米を中心に、アワ、ヒエ、キビ、黒米、ハト麦、そばを配合した玄米食を中心にした健康管理により、痛風及び高脂質血症を克服し、さらに米軍式のフィットネストレーニング(米陸軍のフィットネストレーナの有資格者)で筋力と体形を維持している。趣味はクラッシック音楽及びバレエ鑑賞。
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