まだアメリカへ留学中だった頃に,日本へ一時帰国した時のこと。
体調不良のため,とあるクリニックで診てもらっていると先生が,
「今,アメリカにいるんだ?」
と話しかけてきました。
(すぐに個人の噂が広まるって怖い・・・)と思いつつ,
「ええ,そうなんですよ。」
と応えていると,
「ぼくはね,どうしてもわからないことがあるんだ。」
「 “It’s good.” と “That’s good.” があるでしょ?あれ,どう違うの?」
といきなりの質問。
なんとなくのニュアンスで応えたものの,まだそのときはきちんと説明できずに困ってしまいました。
あなたは違いを説明できますか?
―”that” =「あれ」じゃない―
学校の教科書では,
“it” = 「それ」
“that” = 「あれ」
のように書かれています。
でも “that”って,具体的に目に見える遠くのものを指すとき以外は
「それ」って訳した方が適していることの方が多いんですよね。
例えば,
“That sounds nice. “
誰かから何かお話を聞いて
「それはいいね!」
のように答えるときに使う表現です。
これを訳すときに,「あれはいいね。」とはしません。
でも,考えてみたらこの “That sounds nice.”って 「それはいいね!」なので
“It sounds nice.”
でもいいんじゃない?って思いませんか?
この2つはニュアンスがちょっと違うんです。
超大まかにいうと,
「“it”は,目の前にあるもの・こと,会話の中の具体的なもの・ことを指す」
「“that”は,聞いたこと全体を指す」
んです。
わかりにくいですよね。
“that” “it”の用法はいろいろあるのですが,今日はクリニックの先生が言った,
“It’s good (nice).”
“That’s good (nice).”
という2つの表現を例にとって「イメトレ」しながらニュアンスを掴んでみましょう。
そう,前回お話した,「イメトレ」です(笑)
―今週のイメトレ(笑)―
あなたは今,友だちに新しく買った腕時計を見せています。
Pattern A
あなた: “I got this watch yesterday.” (昨日,この腕時計を買ったんだ。)
友だち: “Oh, it’s nice.”
Pattern B
あなた: “I got this watch yesterday.” (昨日,この腕時計を買ったんだ。)
友だち: “Oh, that’s nice.”
Pattern A は, “It’s nice.と言っています。
「“it”は,目の前にあるもの・こと,会話の中の具体的なもの・ことを指す」ので,
“it” = “the watch”,つまり「腕時計」ことを指して「それはいいね!」という感じ。
Pattern Bは, “That’s nice.”と言っています。
「“that”は,聞いたこと全体を指す」ので,
“that” = “I got this watch yesterday.”となり,
「友だちが腕時計を買った」という内容全体に対して
「よかったじゃん!」のような意味合いとなるのです。
ではもう一つ。
あなたの友だちが新しく仕事をはじめました。
Pattern A
あなた: “How’s your job?”(仕事どう?)
友だち: “It’s good.”
Pattern B
あなた: “How’s your job?”(仕事どう?)
友だち: “That’s good.”
Pattern Aは,
“job(仕事)”のことを指して, “It’s good.”(順調だよ。)
のように言っています。
でも,Pattern Bでは,あなたが言ったことに対して
“That’s good.” と言っていることとなります。
つまり,
「それ,良い質問だね。」のような感じにも捉えられえるのです。
ちょっとしつこいですが,もう一つ。
あなたは超大好きな料理のあるレストランに友人といます。
友人は初めてそこへ来ました。
Pattern A
あなた: “How does the food taste?” (その料理の味はどう?)
友だち: “It’s good.”
Pattern B
あなた: “How does the food taste?” (その料理の味はどう?)
友だち: “That’s good.”
もうイメージ掴めてきましたか?
そう,Aでは料理そのものを指して
“It’s good.”(美味しいよ。)
という意味になりますが,Bではあなたが言ったことに対して,
“That’s good.” (それはいいね。=その質問はいいね。)
のような感じにもなるのです。
―間違っても大丈夫―
“that” “it”には,いろいろな使い方がありますが,
今回は,
“It’s good.”
“That’s good.”
に焦点をあててみました。
私たち日本語ネイティブも,日本語を間違ってると気づかずに使っていたり,
また,日本語の細かい説明をしたりすることができないことがあります。
それと同じで,英語ネイティブもこの “that” “it”を間違って使ったり,また説明できなかったりするよう。
なので,間違っても決して恥じる必要はありません。
だって,
「学校へ行く」
「学校に行く」
日本語教師でない限り,これをうまく説明できる日本語ネイティブは少ないのではないでしょうか。
―イメトレでニュアンスを掴む―
でも,大丈夫。
上で行ったイメトレで,何度も何度もシチュエーションを想像しながら声に出して練習していくことで,なんとなくの雰囲気を掴んでいけるはず。
語学学習はスポーツと同じ,とよく言われますが,まさにそのとおり。
読んでいるだけでは身につくのが難しいので,必ず声に出して何度も練習しましょうね。
むか〜しの話。
留学から帰国後,英語教育業界に入ったばかりの頃,
「英語は何度も口に出し,そのニュアンスを掴むことが大事」
と声高に先輩先生たちに言ったことがあります。
その時は,
「そんなことで,英語は教えられない。」
「ニュアンスで定期テストや入試は通らない。」
と猛反撃を受けたことがあります。
日本の英語教育は,文科省が力を入れており教科書も内容も少しずつ変わってきています。
でも,学校や塾などの現場は,昔とさほど変わっていません。
「学生時代にまじめにやっておけばよかったと思うこと」に,
常に上位ランキング入りの「英語学習」。
これを読んだみなさんにはぜひ,ニュアンスを掴んで英語を身に付けていただきたいと思っています。
それでは,また来週♪
英語教材開発・制作者
米国留学から帰国後、幼児・児童英語教師を経て、中学・高校英語、受験英語、時事英語等多岐にわたる指導を行い英語教師経験を積む。また、ホテル勤務での実践英語経験を積んだり、カナダにて現地の子どもたちの英語教育にも携わりながら、CertTEYL(世界での児童英語講師認定コース)の認定を受ける。さらに、青山学院大学でTutoringの研究員としても活動。英語講師養成のeラーニングコースの日本での立ち上げメンバーとなる。「現場での経験を教材に活かしたい!」と、現在は英語教材開発会社にて日々教材開発に勤しむ。高校入試用のリスニングトレーニング教材(塾・学校向け)は累計10万部以上のベストセラーとなる。英語教材開発の傍ら、全国の英語教師への研修なども行う。また、土堂小学校(広島県尾道市)での英語指導や、初の民間校長として一躍時の人となった藤原校長(当時:杉並区立和田中学校)が手掛けた英語コースの指導に2年間携わるなど、英語教育に関する多様な分野で活躍。大の犬好きから、ホリスティックケア・カウンセラーなどペット関連の様々な資格を取得し、ペットライターとしても活動中。