Arturo’sでの演奏の後は深夜になるので、帰りは地下鉄は使わず、カーサービスを利用しているのですが、そんなNYのカーサービスで、どんな方がドライバーをされているのか、車中でお話してみた第三弾。
カーサービスを使うようになって、初めての英語ペラペラの白人のドライバー、アブデルガニさん。
ニコニコと、感じが良い方で、「今日は、どんな1日でした?」と話しかけたら、「スムーズで、平和で、なんともいえず良い1日です」と返ってきました。
実は、寒くて人通りが少なかった日曜日なので、通常イエローキャブの運転手さんに同じ質問をすると、「人が全く出てないからね、ガラガラで、商売上がったりだよ」と言う文句タラタラが出てきそうなものなのですが、このドライバーさんは逆。
「道路、空いてて良いよぉ」って。今日のカーサービスの会社は「revel / レベル」以前リサーチしたときに、レベルのドライバーさんは、歩合制ではなく時給制で、おまけに社会保障もちゃんとしているそうで、仕事中全くガツガツしなくて良いのだそうです。
確かに、渋滞の中、後ろの車にあおられたりするよりは、スイスイとスムーズに運転して8時間過ごせれば、精神衛生上とっても良いことでしょう。
アルジェリア出身のフランス系白人
アブデルガニさんは、アルジェリア出身のフランス系白人。アルジェリアは、フランスのコロニー(植民地)で、フランス語圏。ほとんどフランスの文化ですが、この人はフランス文化に飽きたらず、アングロサクソンの文化を学びたくて、イギリスで勉強をされていたそうな。
その後、フランスにも渡り、パリにしばらくいて、それから人生の転機で、台湾へ行くか、日本へ行くかのチャンスがあったのだけれど、運命の女神が微笑んだのは台湾だったそうで。
でも残念ながら、台湾では移住したくなるほどは惹かれるところはなく、ただの旅行で終わってしまったそうで、その後はアジアに行くチャンスはないまま、NYに渡り、今の奥さんと巡り会って、現在は5歳と6歳の男の子がいるんだって。
興味深いのが、奥さんは弁護士さんだそうで。でも育児で休業中だから、その奥さんの収入分ぐらい、自分が稼がなくちゃいけない、って。うーん、大変そう。でもあとちょっとだねって。
最近の子供たちは、10歳を超えた頃から、それまで親の言うことには何でもかんでもノーノー!(やだやだ、僕はそんなのやだ、)って言ってたくせに、13歳を超えると、今度は「親はいらない、僕はもう、1人で行動できるので、あまり干渉しないでほしい」みたいな態度を取り始めるらしい。まあ、それはそれで困ったものだ。(笑)
アルジェリアの軍事政府
アルジェリアは軍事政府で、その軍人たちが全く政治ができる頭を持っていないから、国がめちゃめちゃなんだ、と悲しそうに話してくれた。「時代はどんどん変わっていくのに、全くそれを見聞きしようとしない。昔のやり方のまま、押し通そうとしている。その軍事政権も年寄りばかりで、なんと1番若くて85歳だぜ」て、それには驚いた!「日本政府はグローバルに頑張ってるね、うらやましいよ」と彼は言う。
人間はついつい上ばかりを見て、他を羨みがちだけれど、もっともっと大変な国も、世界中にはたくさんあるのだなぁと、実感。人間、毎日が勉強だ。
アルジェリアとニューヨークどっちがいい?
アルジェリアとニューヨーク、どちらが気にいっているのか聞いてみたんだけれど、以前はアメリカが、そして特にニューヨークが、キラキラ輝いている感じがして、大好きだったんだけれど、少し年代も落ち着いてきたら、アルジェリアがいいなって思うようになってきたそうです。
先ごろ久しぶりに一度帰ってみたら、友達とか親戚とかもう誰もいなくて、自分は忘れ去られたような状態になっちゃって、ショックだったって。ニューヨークへ移ってきたのが30年位前のようだから、そんなものかもしれないね、って話しました。
若い時はハッスルするのが当たり前だったけれど、最近はなんかちょっと疲れちゃったって。
わかる気がする。東京もきっとそうだよね。大都会は、どうしても気が張る。周りみんなが頑張っているように見えて、だから、自分も負けずに頑張らなきゃって、ついつい無理をしてしまうのかなあ。
フランスのコロニーであるアルジェリアで生まれたヨーロッパ白人。もうちょっと生い立ちを深く聞いてみたかった。
きっと親はコロニーを支配していた側に違いない。きっと裕福に育ったんだろうな、でも、コロニーが廃止される頃には、暴動にって危ない目にもあったりしたのだろうか。車を降りてから、そんないろんな想像が湧いてきた。
今は故郷アルジェリアをとても懐かしく思う、と言ってたドライバーのアブデルガニさん。奥さんは同じアルジェリア出身だそうで。故郷はそこにあるのかも!☆
私たちと同じ移民の両親、このニューヨークで、ぜひ頑張ってほしい。
ではまた次週。^_^
Kayo
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。