たまたま知り合いにチケットをいただき、うまく時間が取れたので、オフ・オフ・ブロードウェイのショーに久しぶりに出かけました。
ショーのタイトルに、「VIRTEGO CIRCUS/ バルテゴ・サーカス」とあり、なんか素敵な響きだったので、魅了されたのですが、行ってみて、どうやらこれはIRTE(Improvisational Repertory Theatre Ensemble)、つまり、前衛的な即興劇の集団の方たちのパフォーマンス、だということがわかりました。
会場は、マンハッタンのミッドタウン、9番街の44丁目の所にある、ディレクターズ・シアター。近くには、ジャズのコンサートで有名なジャズ・クラブのバードランドや、牛角ミッドタウン店、もありました。
ブロードウェイのタイムズスクエアからも近く、大きな劇場がたくさん並んでいるタイムズスクエアから、徒歩4分ほどのところです。
会場を訪れてみると、まずは、割とこじんまりしたバーがありました。開場時間までここでくつろいで、そのまま飲み物を持ってシアターに入って良いそうです。それではと、ホワイトワインをグラスで購入。
開場時間となりました。こじんまりしたシアターで、席数は30席ちょっと位でしょうか。手回しオルガンのような、メリーゴーランドでかかっているような音楽が割と大きめに響き渡り、キラキラと夜の遊園地を照らし出すような、豆ライトが天井から垂らして張り巡らされています。
クラウン(道化師)のメイクをした俳優さん達が5名ほど、カーニバルのようなキラキラのネックレスや、仮装パーティーの道具のようなものを、ニコニコしながらお客さんたちに配っています。ゲスト参加型のショーのようです。
道化師役の役者さんと一緒に写真を撮ったり、それぞれがそこそこに楽しみながら、全員が客席につきました。さて、ここからショーが始まるようです。
まず、ミュージシャンがギターを弾きながら出てきて、歌が始まります。人生は楽しまなくちゃね、みたいな感じの歌で、サビのところが結構盛り上がって、お客さんもみんなそこ一緒に歌おう!みたいな、感じです。
どんどん、良いムードになってきます。そこで、リング・マスター(サーカス団の団長さん)役の女性が出てきて、お話が始まりました。
まず、カーニバルにまつわる、2つのお話を即興で作ろうと言うのです。
そのお題を、観客に尋ねます。1つは簡単に出ました。
「仔象」
なるほど、サーカスらしい。
さて、もう一つ観客からでたお題は、
なんと「プロステチュート(売春婦)」
はてさて、どうなることかと見ていれば、舞台上の他の女優さん達が、まず左側には、売春婦がタバコを吸ってお客を待っているような感じで、演技を始めます。
右側では、仔象に餌をやっている飼育係という体で、演技をし始めます。
真ん中にいるメインの女優さんが、象の飼育小屋に行って餌やりを手伝ったり、街角の売春婦になったりして、ストーリーをとにかく即興でどんどん進めていくと言う感じのものなんです。
そんなふうに、7〜10分位の間隔で、いろんな設定があって、即興劇が進んでいきます。
私がとにかく笑えたのは、3人の女優さんが1つの洋服を着て、1人の人間として(頭は3つ)、何でも占ってくれると言うものです。
もちろんお題は観客から。この3人が、観客からの質問に関して、とにかく早口で、前の役者との間を空けずに、間髪を入れず、順番で一言ずつ喋って、面白いセンテンスを作って行くのです。
でも、3番目の役者さんは、とにかく「of」しか言わず、その前後の人が、色々と固有名詞や動詞を考えなきゃいけなくなっちゃって、めちゃくちゃな形容詞と動詞が組み合わさったり。
そのうち、だんだんと回り方も速くなってきて、1、2番目の役者さんが、順番が来るのが結構辛そうになっているのが、客席から見てて大笑いでした。
例えばこんな感じ、
1人目「Police」
2人目「running」
3人目「of」!
1人目「hungry 」
2人目「stomach 」
3人目「of」!
1人目「pretty」
2人目「nurse」
3人目「 of」!
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こんな感じで、どんどん続いていって、どうやってまとめるんだろうってハラハラしちゃいました(笑)
また他には、途中で観客も声優として活躍するパペットショーがあったり、役者全員がガチョウのぬいぐるみをつけて登場、ガチョウが壇の上に登ったり、降りたりの大笑いのショーがあったり、みんなで歌を歌ったり、といろいろ。
そして最後、大きい盛り上がりを見せるべく、「観客の秘密を暴く」と言うコーナーが始まります。
開演する前に、観客にそれぞれ「あなたの秘密をこのメモに書いてください」、と言われたのですが、その中から面白いのが1つ、今日のクライマックスの演目として選ばれていたようです。
今回選ばれた秘密は、
「私はこの3年間、税金を申告しなかった」
と言うものでした。(大笑)
アメリカでは、ちょうどタックス・ファイル(税金申告)の真っ只中の時期で、道で誰かと会っても、タックスファイルした?というのが合言葉になる位、みんながみんな税金の話をしているご時世でした。(笑)
そんな中、なんとこの男性は、法律で3年間は申告の猶予として認められているそうで、いよいよ3年経つので、今年こそ、どうしてもやらなくちゃいけない!でも・・・。
ということだったらしいです。いち観客である彼の秘密が、シアター中に暴露されてしまいました。
まずは、リングマスターが、どんどん彼に詳細を質問していきます。
あなたは誰と住んでいますか?
2匹の猫です。
2匹の猫の名前は?
ジータとタージです。
あなたは人間とは住んでいないのですか?
住んでいます。
それは誰ですか?
猫の世話人です。(実は奥様の事だと思うのですが、私の想像)
なぜあなたはタックスをファイルしなかったのですか?
眠かったのです。
あなたはずっと寝ていたのですか?
そうです。
朝ご飯を食べ、眠ります。
とにかく食事以外はずっと寝ています、、、
そんな感じで、数々の質問の後、役者さん達がそれぞれの登場人物(や猫)に紛して、寸劇を始めるのです。
そして、この秘密保持者が、チンと言うベルを鳴らして演技を褒めたり、ブーと言う音を出して、演技を止めたり、劇はどんどん無茶苦茶な方向へ、大笑いと共に進んで行きました。
そんないろいろな即興劇がつまったパフォーマンスでした☆
なかなか文字ではうまくお伝えできなかったかもしれませんが、ニューヨークの、小劇場での様子を少しでもお伝えできたら!と思いました。
アメリカで、コメディアンのショーでは、よくお客様が普通にいじられます。とにかく笑いを取りたいので、結構失礼ないじり方をするコメディアンもいます。
でも、今回見たこの即興劇は、観客を一方的にいじるのではなくて、観客と一体になって、みんなでパフォーマンスを作り上げていくって言うのが、とても面白い試みだな、と思いました。
即興劇の元となる、いろいろなお題を積極的に出していたのは、どうやらアメリカ人のティーン・エイジャーの男の子でした。お父さんと来てたみたいです。
こういう公の場で、はっきりと自分の思ったことや、感じたことを話せる人間って良いですよね。実は、ちょっと、すごいなって思ったんです。
人前で、自分の意見をちゃんと述べられる人間て、うらやましいですよね。
それではまた来週♫
Kayo
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。