今年アメリカでは、9月5日(月)が祭日、レイバー・デーでした。「労働者の日」とでも訳すのかな、アメリカでは米夏、9月の1週目の月曜日、レイバー・デーまでが、通例「夏休み」とされています。
さて今年はパンデミックもやっと終了、2年ぶりに、このレイバー・デー恒例のウェスト・インディアン・デー・パレード・カーニバルが、ブルックリン地区を中心に盛大に行われました。
このパレードは1930年代に始まり、ニューヨーク州に住む約60万人ほどの、西インド諸島カリブ系住民と共に、どんどん盛り上がりを見せ、今年は約200万人がこのパレードをエンジョイしました。
日本で言えば、サンバ・カーニバルを地で行く感じでしょうか。誰でも自由に参加できますから、ブラック・アメリカンの人々が年に1度、思いっきり集ってパーティー、と言う感じの、はっちゃけカーニバルです。
見事なコスチュームで踊りながら、人々が行き交います。国々によってさまざまなラテンの音楽(中南米音楽)が奏でられ、とにかく人々は踊り出し、この夏の名残の青空と相まって、わぁっと明るく盛り上がります。
西インド諸島とは、わかりやすく言うと、カリビアンの島々。ディズニー・ランドの「カリブの海賊」で、すっかり日本でもお馴染みかもしれませんね。北アメリカと南アメリカのちょうど真ん中辺の海に点在する、多くの島々です。なんと、7000もの島や小島からなるそう。
なぜアメリカ大陸の真ん中にあるのに、「インド」って言う名前がついてしまったかと言うと、1492年、スペインの、奴隷商人クリストファー・コロンブスが、スペインからの長い船旅の末やっとこの諸島にたどり着き、現住民を見たところ、肌が浅黒かったので、てっきりインドに流れ着いたと思い込み、そのエリアをインドと呼び始めたのだそうです。なんとも間の抜けた話ですが、なので本物のインドからずいぶんと離れたこの大西洋に、西インド諸島が存在するわけです。
これらの西インド諸島は、なかなか生活が厳しく、政治的にもまだ落ち着いていない国が多いので、アメリカに移住する事は、彼らのアメリカン・ドリームでもあります。独立国であればまだしも、まだまだ独立できていない国々も多くあります。歴史的には多くの海賊たちに襲われたり、略奪されることが多く、苦しい歩みです。
しかしながら、これらの多くの島々には、見事な自然があります。森が生い茂り、多くの動物が生息し、海の美しさと言ったら、白い砂と透明に続く浅瀬。まるで映画に出てくるリゾートのよう。
人々はのどかに生活し、自然に成る果物を食べ、豊富な魚貝を取り、逆に我々のように都会に住んで、コンクリートジャングルの中で排気ガスに埋もれているのとは、また格段に違う世界です。ですから生まれてくる文化、音楽も島によって違いがあるものの、のどかですばらしいこと、この上ない。
物悲しいキューバ音楽
さて、西インド諸島にはどんな国があるのか。
まずは、日本でも話題になった偉大なバンド、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ、これはキューバ。以前、キューバ訪問記をブログに書きましたが、街並みも、街を走る車も半世紀前のまんま。まるで映画のセットの中に、ぽーんと放り込まれたよう。
音楽大学も国費で賄われるので全て無料、誰でも才能さえあれば行けるそうで、腕の良いミュージシャンたちが町中のカフェやレストラン、広場に溢れていました。あの、キューバ音楽特有の物悲しいメロディーは、数々の大国に占領され、苦しい時代を経ているキューバの人々の、心の叫びなのでしょうか。
ゆっくりと流れるジャマイカ
そして、レゲエのイメージの、ジャマイカ。
あのゆったりとした自然信仰というのか、ラスタへの信仰は、半日、南国のバナナの木の下で昼寝をして、のんびり1日を終える人々の、生活そのものだと思いました。私が訪ねたのは1990年頃ですから、ずいぶん時が経ちましたが、当時、ダウンタウンには人々が溢れ、昼間、皆さん何もせずバナナの木の下でぼーっとしてました。
広場では、地面で数個の大きな生魚の塊を売っているおばあさんがいて、その魚にはブンブンハエが止まっていて強烈な印象があり、こんな国もあるのだなぁと、妙に感動したのを思い出します。時が、私たち都会人には信じられないんだけれど、本当にゆっくりと流れていくんですよ。
心躍る音色のスチールドラム
日本でも、だんだんと聞かれるようになってきたらしい、スチールパン。スチールドラム、ともいいますが、これは、トリニダード・トバゴの楽器なんです。ドラム缶のような感じで、叩く場所によって音階がついている。なんとも、のどかな響きがします。
そして、これが楽団になると、音楽的にも見事な迫力。心が躍る音色、とても言えば良いのでしょうか。リズムにも特徴があります。聞いているだけで体が自然に動き出しそうになるのです。ちょっと心が折れそうな時にでも、聞いてみると、いいですよ、自然に元気になります。
動画で叩いているのは、スチールパンのまさに原型のような感じかな♫
おおらかな島の人々
さて、ほんの少し、西インド諸島について、音楽を例にとりましたが、あらゆる文化が、それぞれの島々にあります。暑い国で育った人々は性格が明るいと言うけれど、それと共に、島で育つと港があって、あらゆる人々が入ったり出たりするから、人間としての許容力が大きくなるのかなと、思いました。
大陸の内陸部分で、いつも同じ人たちと顔を突き合わせている人々と比べると、人間の出入りが頻繁にあると言う事は、性格も開放的にならざるを得ないのかな。だからこれらの島々の人たちは、おおらかで、Laid Back (ゆったりとしてあわてないこと)な人生を送っています。ある意味、羨ましい気もする♪
ただ、私たちが忘れてはいけない事は、この黒人のみなさんは、もともとヨーロッパの白人が、自分たちが巨万の富を築くために、繁栄を誇った奴隷貿易の流れで、これらの島々に無理矢理連れてこられたアフリカ黒人(奴隷)の人々が祖先だ、と言うことです。
日本も、島国です。でも、日本人は今まで強かった。どの国にも支配されたことがない。私たちは強くこのまま、独立国家でいたい。しかし、世界をぐるっと見渡してください。ジャイアンは、実際に存在します。ぼんやりしていると、いじめられてしまいます。
領土もとられてしまうかもしれません。実際に、端から、無理矢理取ろうと企んでいる周りの国々があります。やめさせなくては。
そろそろ、今までのぬるま湯を残念だけど諦めて、しっかりとした日本を考え直す時期なのかもしれません。まだ、きっと、間に合う。
それではまた来週
Kayo
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。