私は映画が好きです。けれども、普段の生活では、なかなかしっかり映画を1本見るという時間が取れなくて、そのうち時間ができたら、などと思っていたのですが、パンデミックの期間は、家にいることが多かったので、ずいぶん映画を見るチャンスがありました。
今回は、そんな映画についてのお話。
「You People / ユー・ピープル」の1シーン
先ごろ、Netflixで人気のコメディ映画、エディー・マーフィーや、ジョナ・ヒル出演の「You People / ユー・ピープル」で印象的なシーンがありました。
主人公はユダヤ人で、恋人は黒人女性。結婚を考える若い2人のそれぞれの家族は、敬虔なユダヤ教徒(主人公側)とイスラム教徒(黒人女性側)。ユダヤ人は、ホロコーストを抱え、黒人は奴隷売買という過去を抱え、コメディー映画ではありますが、なかなか奥深いものがありました。
その中の1つのシーン。お互いの両親たちを紹介し合うお茶をしている時の会話。
黒人でイスラム教の彼女が、ユダヤ人の彼の両親に向かって、
「ご両親はクルーザーをお持ちだったそうで、次回はレンタルでボートを借りて、皆でご一緒しません?」
と言うと、娘がユダヤ教徒の白人と結婚するなんて絶対に許せない、と思っている、彼女の父親役のエディ・マーフィが、真顔で
「船はダメだ、俺たち黒人はボートと相性が悪い、水もね」
と。このシーン、普通の日本人にとっては、さっぱり意味がわからないかも知れません。
黒人の父親(エディ・マーフィー)の、「ボートは」というのは、ヨーロッパの白人たちによって奴隷売買された過去のことを言っているのです。エディ・マーフィーは黒人の俳優ですから、そこでアメリカ人はWow、と思うわけ。
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イギリスやポルトガル、スペイン、オランダ、フランスなどにとっては、すっかり過去のことで、もう忘れてしまっているかも知れないけれど、アメリカに住んでいる黒人たちは、決してこの理不尽な出来事を、忘れてはいません。
当時、アフリカで黒人奴隷とされた人々は、10人、20人と鉄の鎖で繋がれ、食べ物もろくに与えられず、船の一番底の部分にぎゅうぎゅうに押し込められ、新しい大陸に運ばれました。途中でこの船が嵐に会うと、船の重みを減らすために、鎖で繋がれたまま10人、20人とこの黒人たちを海へ投げ捨てたそうです。
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そしてシーンの続き、今度は、ユダヤ人の母親が、黒人の父親(エディ・マーフィー)に対して真顔で、
「あー、私たちは列車とは相性が合わないのと同じね」
と応酬するシーンがあり、苦笑ものでした。
これはユダヤ人がホロコーストの時、列車にぎゅうぎゅう詰めにされてユダヤ人収容所に運ばれていったことを言っています。
そんなことを分かりながら見ると、同じシーンでもまた見え方、感じ方も変わってくるかもしれませんね。
映画の登場人物によって・・・
Woody Allen(ウッディー・アレン)と言う有名なユダヤ人の映画監督がいます。
アメリカの映画界は、ユダヤからの移民によって作られたとも言われています。有名なワーナー・ブラザーズ等の映画会社も、ヨーロッパからのユダヤ人の移民たちによって創設されました。
このウッディー・アレンは、ニューヨークを舞台に、ユダヤ人社会のことを、いろいろと、半分コメディー仕立てにして、ロマンスと絡めて、興味深い映画を数々作っておられる方です。
彼の映画について一時話題になったのが、そこに出てくる登場人物について。
ニューヨークの黒人は、女性だったら売春婦、男性だったら必ずドラッグ・ディーラーかギャングメンバーなどの悪者役として登場します。ステレオタイプ、と言うのでしょうか、悪いことをするのは黒人、と言う誤った概念を人々に植え付けるものです。そしてこれらの悪人は、最後に残忍な方法で殺されたりします・・・。
ホラー映画で・・・
また、ホラー映画で、数人の若者が山小屋などに集まり、楽しい夏休みパーティーのひとときをおくるはずが、そこに殺人鬼がいて、端から1人ずつ殺されていく、なんて言う映画が、よくありますよね。
そのパロディーなどでは、まず最初に殺されるのが、黒人男性、そして2番目にラティーノ、そして3番目にアジア人が殺されます。ほんと笑っちゃう位、結構この確率が、当たります。白人の主人公は大概ヒーローで、最後まで大活躍し、映画を終えます。(笑)
人種問題について、私が話すような事は何もありませんが、なるべくなら、同じ人間として、同じバリューで扱われたいと思います。そのためには、自分自身が、すべての物事を公平に見れるような目を、そして感覚を養いたいものだ、といつも考えています。
確かに、文化の違いは否めないのですが、何とかお互いに分かり会うことができないものだろうか。いつもそんなふうに、考えてしまいます。みんなが仲良くできればいいのになぁ。
ではまた来週。
Kayo
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。