前回までのお話は、アイルランドツアーの話から少しそれて、スタインウェイ・ピアノのお話でした。
一つ一つ手作りで作られるピアノから聞こえる音色は、その自然に溶け込み、本当に素晴らしいです。そんなスタインウェイ・ピアノが、どの会場のホールにも置かれ調律も完璧にされているほど音楽が根付いた、アイルランド。
今回はそんなアイルランドツアーのお話、最終回です。
忘れられないグループハグ
前回の記事でもお伝えしましたが、今回のアイルランドツアーは、学習障害(限局性学習症)のある子供から大人までが、お世話をされる方やセラピストらと共に住み、学び、働くところを回りました。
まず一曲目にイングランドの名曲、”グリーン・スリーブス”をジャズ版でお届けして、その後は、ジャズのスタンダード曲ばかりではなく、その会場にいる全員がご存知の、アイルランド地元のフォークソング(”Down by the Sally Gardens”)をジャズにアレンジしたり、また日本古来の音階の曲で ”荒城の月” を弾いたり、とジャンルを織り交ぜて演奏し、初めての方にも、とても楽しんで頂き、あっという間に時間は過ぎて行きました。
演奏の後には、思い出に、と私のCDも多くの方に購入して頂き持っていったCDの在庫が直ぐ捌けてしまいました。なんといっても帰りの荷物が軽くなるので、そこにお土産も入ったりして、一石二鳥、ありがたし。(笑)
そして最後はみなさんと、たくさんたくさんのハグを!日本ではあんまり馴染みのないハグ。海外ではたくさんハグをします。コロナウイルスが流行ってからは、ハグは全く出来なくなりましたが、その時にした全員でのおっきなグループハグは、これはもう感動の嵐!忘れがたい思い出です。
全ての垣根を越えるジャズ
これも余談ですが、以前日本のツアーの時にご依頼を受けて、特別支援学校へ訪問演奏へ行ったことがあります。
私は日本を離れて長いので、最近の日本の状況がよくわからず、行ってみるまで、よくこの学校の名前の意味がわからなかったのですが、ここの生徒さんたちが、見事な、素晴らしい(まるでニューヨーカーな!)オーディエンスだったのです。
場所は沖縄本島の先、宮古島でした。以前コンサートで訪れたときに紹介頂いた、あるブラスバンドの優勝歴等で有名な高校の音楽の先生がその後その特別支援学校に転任され、そこでのミニコンサートのお話を頂いたのがきっかけでした。
面白そうなので、ぜひ行きますよ、っと言ってお受けしたのですが、当日は、全く「ジャズ」と言う言葉さえ聞いたこともない、中学生と高校生たち30人ぐらいでしたか、ご父兄も新聞社もラジオ局も来ていました。
そこでまず、私がデューク・エリントン楽団ですごく有名な曲、”サテンドール”のイントロを弾き始めたのですが、そしたらね、数人の生徒から、もうすでに黒人の人たちが持ってるようなグルーブのオフビートで(1&3でなく、2&4で。これ、なんのことやらわからなかったら、ごめんなさい。文章ではどうも説明がしにくいことで、また何かのチャンスにご説明します。)、ハンドクラップ(手拍子)が入ってきたんですよ!
これって、ニューヨークのオーディエンス並のノリ!このツー&フォーのノリって、体が自然に動きだしそうになるグループなんです。
そしたら、みんなすっかりそれについてきて、もう自分の席から乗り出して、踊り出しそうな子とかいたり。なので、私の演奏もノリにノリまくったのは、いうまでもありません。
次の日の新聞に、この生徒さん達の、聴き慣れない外国の音楽であるジャズに純粋にノって楽しんでいるニッコニコ顔の写真が掲載されましたのは、この上ない喜びでした。
心の叫びから始まった音楽
日本でそんな体験があったのですが、ここアイルランドのキャンプヒルは、その大人版でした。
学習障害があるのかも知れないけれど、心の底からごく自然に音楽を楽しむ様子は、人間の素にとても近くて純粋な方達だと感じました。純粋な人間の心は、ジャズのビートが大好きなようです。
よくジャズライブに来て頂いている方から、一体どこで拍手をしていいのか、変なとこで拍手したら恥ずかしいし・・・とか、ライブのCDなどを聞くと、”イエイッ”と掛け声とか掛けてるけど、どこでかけたらいいのかわかんないし・・・。
飲み物なくなっちゃったけど、ライブ中にオーダーしてもいいのかどうかわからないし・・・などと耳にしますが、そんなことは全く気にする必要はありません!
元々ジャズ自体、心の叫びが根底にあるものなので、自分の気に入ったところで、ウォーって声を上げ、拍手をし、立ち上がり、踊り出す!
クラシックのようにお上品に聞くようなものでもありません。だってジャズは、人の心の叫びから始まった音楽だから。(と、ニューヨークジャズの観点から私は申し上げますが、日本でのジャズは、私にはちょっとよくわかりません。演奏者もきちっとしておられたり、オーディエンスもクラシックコンサートのようにきちっと聞く、と言う雰囲気が、日本にはあるのかもしれません)
詳しくは、ジャズヒストリー#1を、ご覧下さいませ ♪
ーーアイルランドからフランスへーー
アイルランドツアー3日目はClanabogan(クラナボガン)。北アイルランドティロン州と呼ばれるところにある人口が225人ほどと言われる小さな町のキャンプヒル。
日4日目は、また国境を越えてアイルランド共和国へ戻り、モナハン州にある町、Ballybay(バリーベイ)でのコンサート。うんうん、どちらもなかなか良い手ごたえ!
アイルランド地方のそれぞれに、いろんなものの感じ方、喜びの表現の仕方があり、生きてるって素晴らしいなあ、と思うと同時に、自給自足の生活を覗き見ることも出来、改めて命の尊さを実感できた、感激のアイルランドツアーとなりました。
その後また、パリのシャルル・ド・ゴール空港へ。
アイルランドのツアーを終え、フランスでのライブが続きます。
近くの避暑地、ビーチのあるニューキャッスルや、古い歴史のある城下町のモナハン、最終日にはダブリンのギネス工場も短時間ながら訪れることができ、少し街並みも歩くことができて良かったです。
フランスならではの、ブルーベリーがざくざく(!)入ったスコーン、揚げたてアツアツのフィッシュ&チップス、 港で獲れたてのお魚も、いただきました。
ギネスビール・ストアハウスでは、世界一フレッシュな出来立ての、大好きな黒ビールも試飲しました。そこのレストランで味わったお肉のビール煮は、今では私の得意メニューとなりました。
コンサートツアーは、いろんなところに行けていいなぁって言われるけれど、大概は時間いっぱいギリギリ演奏して最終便に飛び乗るとか、そんな感じのツアーが本当に多いのですよ。旅行、特に観光は、プライベートで行くほうが絶対に幸せです(笑)
ーー2021年は良い年にーー
そんな日々が急に終わったコロナウイルスの影響。
9か月半の間、パンデミックだった2020年。アメリカは、いまだにコロナはただの風邪だと信じている人が多くの州で普通にいるそうで、感染第2波、第3波、そしてそれに変異種まであちこちで見つかって、どんどん広がりつつあると言われています。
アメリカでは感謝祭やクリスマス、ニューイヤーのお祝いなど、家族と過ごすために、混み混みの空港から飛行機で実家に飛ぶのはごく普通のことなので、感染拡大を防ぐべく、なるべく年末は旅をしないように、と各ニュースでは声を大にしていました。が、徒労に終わった模様。そして大統領選挙戦のごった返しもあり、感染爆発率はますます増加中。
こういう記事を書いていると、世界中好きなように飛び回っていた頃が、とても懐かしく思い出されます。きっと皆さんも、あちこちまた行きたくてしょうがないですよねぇ。
今年2021年は、きっとみんなが笑顔で世界中飛び回れるような、良い年になりますように。
Let’s pray together! 祈ろうぜ、みんな!
Kayo
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。