こんにちは
NYのKayoです。
「I love you」という言葉、直訳すれば「愛してる」。
けれど、このシンプルなフレーズを口にする時の重みは、太平洋を隔てた日本とアメリカで、驚くほど違います。
漱石が教えた「言葉の余白」
夏目漱石の有名な逸話があります。漱石が英語教師をしていた頃、学生が「I love you」を「我、君を愛す」と訳したのを見て、
「日本人はそんなことは言わない。『月が綺麗ですね』とでも訳しておきなさい。」
と諭したというお話。真偽のほどはさておき、この話がこれほど日本人に愛されるのは、私たちが「言葉にしない美学」をどこかで信じているからだと思われます。
日本人の愛は、いわば「行間」に宿る
私は、一緒に美味しいものを食べる、歩幅を合わせて歩く、あるいは何も言わずに隣にいる。そんな日常の断片に想いを溶け込ませるのが、日本流の、奥ゆかしき愛だと思います。
「愛してる」という直接的な言葉は、その繊細な調和を壊してしまう、少し強すぎるスパイスのような感じがします。
「察する」ことが、最大の愛情表現
日本において「言わなくてもわかる」という感覚は、単なる怠慢ではなく、相手への信頼に基づいた、高度なコミュニケーションですよね。
では具体的に、私たちはどんな場面で「察して」愛を伝えているのでしょう。
例えば、「食事の気遣い」。
パートナーが疲れて帰ってきた時、無理に「お腹空いてる?」と聞き出すのではなく、そっと好物の味噌汁を出す、あるいは消化に良いものを作る。
この「あなたの状態を見て、先回りして行動する」こと自体が、日本人にとっては深い愛情ではないか、と思うんです。
また、「物理的な距離感」にもそれは表れます。
落ち込んでいる時に、アメリカ流なら「私に話して(Talk to me. )」と隣に座るところを、日本人はあえて「一人にしてあげる時間を作る」ことで、相手を尊重しようとします。
背中越しに、いつでもそばにいるよ、と言う気配だけを感じさせ、過剰に踏み込まない。この「間(ま)」を読み合う文化こそが、日本流の愛の正体だと思うんです。
さて、アメリカ人の「愛」は?
まず、「月」に関して、これはもう西洋人の「月」の捉え方は、日本人とまるで逆。西洋人にとっては「月」は変化するもの、から恐怖にさえ変わって行き、満月のときには狼男に変身してしまったり(!)する。
と言うように、こちらアメリカにおける「I love you」は、日本とは全く違って、もっと日常的でポジティブな「メンテナンス (確認作業)」みたいなもの。
朝の挨拶代わりに、電話を切る間際に、あるいは友人や家族への敬意として。彼らはこの言葉を惜しみなく使います。
日本人から見れば「そんなに何度も言って、安っぽくならない?」と不思議に思えますが、彼らにとっては、言葉にしないことこそが、リスクなんですね。
彼らにとって愛は、定期的に言葉で磨き上げないと輝きを失ってしまう宝石のようなもの、なのかな。
言わなくても伝わるだろうという「察し」に甘えず、毎日の言葉で関係をメンテナンスし続ける。それが彼らの、誠実さの形みたいです。
言葉の「希少価値」と「日常性」
これは単に、想いを伝える際の、解像度の違い、とでも言えるかしら。我ら日本人は、言葉を極限まで削ぎ落とし、その空白とか行間、に深い意味を込める。
でも、アメリカでは、同じ言葉をしいて何度も重ねることで、確かさを積み上げていく。
一方は、一生に一度(たぶん?)の勝負どころでしか出さない、切り札。もう一方は、毎日を心地よく過ごすための、トリートメント・オイル。
同じ言葉でも、持っている役割が、根本的に違うのですね。
おわりに
もし、アメリカ人のパートナーが「I love you」を連発してきても、それが軽いというわけではありません。それは彼らなりの「今日も、あなたを大切に思っています」というサイン。
逆に、日本人がなかなか口にしてくれなくても、それは冷めているわけではありません。もしかしたら、その人はあなたと一緒に見上げる「月」の中に、あるいは日常の何気ない気遣いの中に、きっと彼なりの、彼女なりの、精一杯の想いを込めているのかもしれません。
文化の違いというレンズを通してみると、これまで聞き流していた言葉や、届かなかった沈黙が、少しだけ愛おしく感じられるかも?
それではまた次回♫
Kayo
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。

