突然ですが皆さん,ちょっと想像してみてください。
「あなたは今,プライベートの時間に気の置けない友人と一緒にいます。
そこへ仕事で大切な取引先から電話がかかってきました。
その電話に応答してください。」
きっと多くの方は,
「いつも大変お世話になっております。」
のように応答することを想像されたと思います。
では,その「声」はどんな感じでしたか?
友人と話す時の声と同じでしたか?
いつもの声より少し高めの明るい感じの声ではありませんでしたか?
多くの方は後者と答えたのではないでしょうか。
不思議なことに,たいていの日本人は社会人になると電話の応答やあらたまった場所での会話などは「よそいき」の声となってしまうそう。
特に女性は声を高くする傾向があるそうです。
これは一体どうしてなのでしょうか。
日本人はなぜ「よそ行きの声」を出す?
音声学の専門家によると,このように「よそ行き」の声になってしまうのは,「自分は危害を加えない無害な人」ですよ,ということを無意識に相手に連想させるためなのだそう。
高く明るい声にすることで,相手に安心感を与えようとしているそうなんです。
そう言われてみれば確かに,赤ちゃんに話す時や散歩で出会うワンコたちに話しかける時は,必要以上に声が高くなっている気がします。
これは無意識に「私は怖くないですよ,安心ですよ」ってアピールしていたということなんですね。
だから人間に対しても,改まった場面では意識的に高い声を出す,ということらしいです。
なるほど!
確かに「なるほど!」なのです。
ですが,これが世界共通だと思ったら大間違いなのです!
よそ行きの声は日本人だけ?
前述で,「不思議なことに,たいていの日本人は社会人になると,電話の応答やあらたまった場所での会話などは「よそ行き」の声となってしまうそう。」とあえて,たいていの「日本人は」と書きました。
そうなんです,実はこれ日本人特有の感覚なのです。
アメリカをはじめとする欧米では,大人が敢えて高い声で話すことにあまり良い印象はありません。
むしろ,高い声は「大人になりきれていない未成熟な人」,もしくは「教養のない人」「頼りない人」と捉えてしまうのだとか。
逆に低い声は,『「落ち着いた有能な人」という印象を相手に与えることができる』と考えられており,わざと通常よりも低い声で応答する人もいるくらいなのです。
大人として少しでも良い感じを出そうとしている「よそ行き」の声が,アメリカでは「大人になりきれていない未成熟な人」と捉えられるなんて…。
ちょっと驚きですよね。
でもそれにも理由があったのです。
英語と日本語の音の違い
テレビなどで有名なハリウッド俳優のインタビューを聞いていると,英語って日本語よりも音が「低い」という気がしませんか?
「低い」というよりも「深い」と言った方が近いかもしれません。
日本語の音は,喉の上付近から軽く出すような感じですが,英語は喉の奥をしっかりと広げたような感じで音を出しています。
説明をするのがちょっとむずかしいのですが,例えばあくびをしてみてください。
喉の奥のほうが少し広がりますよね。
その状態で話しているようなイメージです。
そのように喉奥から声を出すと,少し重厚感のあるような音になります。
英語ネイティブの人たちは,そのように発話する方法が日本人とは違います。
そのため,女性であれ男性であれ,英語ネイティブの人たちの話す英語は重厚感があり,なんだかとても「どっしり」としていて自信たっぷりという感じがするのかもしれません。
この低くてどっしりとした声,それが「自信」を表し,そして「成熟した大人」だという考えなのです。
反対に日本語は喉の上の部分から軽く音を出すので,音自体も軽く,英語と比べると少し高い音になってしまいます。
この違いが根本にあるため,英語ネイティブの人が日本人の「敢えて」高くした声を聞くと,違和感を持つのだと考えられます。
日本人からすれば,相手に安心感を与えるための気遣いの声のつもりが,相手には違和感だけではなく,「軽く頼りない人」あるいは「教養のない人」というイメージを持たれてしまう・・・。
英語を勉強している人の多くは,外国の人とコミュニケーションをとったり,仕事に役立てたりするつもりで勉強しているのに,そんな風に捉えられたらたまったものではありません。
語学学習は単語や文法だけではない
英語だけに限らず外国語を学ぶ時,多くの場合,その文法や単語学習,リスニングやスピーキングの練習などに意識が向きがちです。
しかしこれらの学習と同じくらい忘れてはならないのは「文化・習慣・考え方の違い」。
これらを知らないままだと,こちらとしては「良かれ」と思っていた態度が,逆に「信頼を失う」なんてことにもなりかねないのです。
「日本人の感覚 ≠ 世界の感覚」。
これを知ることも立派な「外国語学習」なのです。
さて,英語の音は日本語よりも深く低い。
これはアメリカなど海外に住んだり,長年,英語を学習してきた人は自然と身に付けていることかもしれません。
私も例外ではなく,よく人から「どうして英語の時は声が低くなるの?」と聞かれたこともあります。
考えてみると,確かに海外とのオンラインミーティングでは私自身も通常の声よりも低く話しています。
私の心の中には,「頼りがいのある人に見られたい」という密かな願望がそうさせているのかもしれません(笑)
日本では,低い声で電話に出ると,「この人機嫌が悪いのかな。」と思われてしまいそうですが,アメリカでは逆なんて本当に興味深いですね。
異文化を知るって本当に面白い!
みなさんも英語を話すときは,喉の奥を広げて「敢えて」低いトーンで話してみてください。
きっと,「お,しっかりした日本人だな。」と思われることでしょう。
そして,お互いの国の文化・習慣を尊重しあい,言葉だけではない人間関係の輪をどんどん広げていきましょう!
英語教材開発・制作者
米国留学から帰国後、幼児・児童英語教師を経て、中学・高校英語、受験英語、時事英語等多岐にわたる指導を行い英語教師経験を積む。また、ホテル勤務での実践英語経験を積んだり、カナダにて現地の子どもたちの英語教育にも携わりながら、CertTEYL(世界での児童英語講師認定コース)の認定を受ける。さらに、青山学院大学でTutoringの研究員としても活動。英語講師養成のeラーニングコースの日本での立ち上げメンバーとなる。「現場での経験を教材に活かしたい!」と、現在は英語教材開発会社にて日々教材開発に勤しむ。高校入試用のリスニングトレーニング教材(塾・学校向け)は累計10万部以上のベストセラーとなる。英語教材開発の傍ら、全国の英語教師への研修なども行う。また、土堂小学校(広島県尾道市)での英語指導や、初の民間校長として一躍時の人となった藤原校長(当時:杉並区立和田中学校)が手掛けた英語コースの指導に2年間携わるなど、英語教育に関する多様な分野で活躍。大の犬好きから、ホリスティックケア・カウンセラーなどペット関連の様々な資格を取得し、ペットライターとしても活動中。