「彼はたつた一度着た丈けの外套を私に貸して呉れた。」
“He lent me an overcoat which he had worn only once.”
私は100年前の英語の教科書を持っているのですが,
これはその中にあった日本語訳の一文。
皆様,「外套」ってわかりますか?
1842年に出版されたニコライ・ゴーゴリの短編小説のタイトルにもあった外套,
そう,今で言う「コート」のことです。
ほとんどカタカナ語の出てこないその教科書を見て,思ったのです。
「現代は,なんとカタカナ語の多いことか!」と。
おそらく,現代の会話は外来語,借用語,いわゆるカタカナ語がなければ会話がなりたたないのではないか?というくらいです。
そんなことを考えていると,ある「カタカナ語」を1日で何度も耳にしました。
その言葉は完全に日本語と化しているのですが,
「その使い方正しいのだろうか?」と疑問を持った言葉。
その言葉とは…
―使い方を間違っていると言われるカタカナ英語―
テレビでは,ある小さなカフェを経営している方が自慢の料理を片手に
「こちらがこの春の新作メニューでございます。」
と,美味しそうな料理が盛られたお皿をテーブルに置きました。
レポーターは,
「わあ,とってもカラフルでボリューミィ。見た目のインパクトもすごいですね。」と喜んでいました。
スマホをいじりながらテレビを見ていた私は,
「 “メニュー”というカタカナ語もすっかり日本語になっているなぁ。
でも “menu”って,レストランなどにあるリスト化された一覧のことじゃないの?
日本では今回のように料理自体のことも指すけど,もしかして日本人だけが使ういわゆる和製英語だったりするのだろうか?」と疑問に思ったのです。
そうなると調べないわけにはいかないワタクシ。
さっそく本やネットを調べてみると,英語に詳しい人たちや英語ネイティブの人たちが口々に,
「 “menu”とは,『料理などのリスト』のことであって,料理自体のことを言わない。」
「『このお店,メニューが豊富だね。』と日本では言うけれど,それ完全な和製英語です。」
と説明されているページが多く見つかりました。
「ふ〜ん,そうなのか…,…,…な。」と,
少々面倒くさいワタクシ,なんとなく納得できなかったんです。
みなさんよく,「和製英語,和製英語」っていうけど,
先日書いた「リンス」だって,実際は和製英語ではなかったじゃないですか。
ちょーっと疑り深くなっている私は,調べてみました。
―たしかに『リスト』のことだけど・・・―
海外の様々な英英辞書で, “menu”の定義を調べてみると
A list of the dishes to be served or available for a meal.
(食事に出される、または利用できる料理のリスト)
のように,「リスト」である,ということが最初に出てきます。
でもその次に出てくるのは,表現は違えどほぼ全ての辞書で,
“the dishes available for or served at a meal”
(食事の種類,または食事の際に提供される料理)
“the food available or to be served in a restaurant or at a meal:”
(レストランや食事で提供される、または提供される予定の料理)
“also : the meal itself”
(もしくは料理そのもの)
とあるではありませんか!
なので,「こちらが自慢のメニューです。」と言ったって間違いではない,ということになるのです。
―ただし,要注意!?―
辞書に載っているからと言って,英語圏の人に
“There are a lot of menu(s) at this restaurant.”
(このレストランにはたくさんのメニューがある。)
と言った場合,顔をしかめられるかもしれません。
最初にも言及したように,ネット上などでは多くのネイティブの人たちが
「 “menu”とはリスト(一覧)のことであり,料理自体を意味するものではない。」
と言っています。
だから,「このレストランには,たくさん(印刷された)メニュー表がある。」
と言っていると思われてしまう可能性があります。
このように,
「実際に “menu”を料理の意味として使うのは一般的ではない」
という人が多くいるということが考えられるため,気をつける必要があるのです。
じゃあ,どう言えばよいのか。
“menu”を “dish[複数形:dishes]”(料理)や, “item[複数形:items](品)という言葉に変えるだけ。
「でも辞書に “menu” = “料理”とも載っているんだから,間違いではないでしょ?」
はい,間違いではありません。
でも,多くの英語ネイティブの人たちが「リストの意味しかない」と言っている以上,実際の会話ではほとんど使われていないということ。
それはもう,「慣用」であるとも思うのです。
実際の生活の中で,夕食の献立を聞こうとして
“What’s the menu for dinner”
(夕食は何?)
「それ,使い方間違ってるよ。」と注意されるかもしれません。
ですので,「知識」として身につけておいて実際に話す時は
“What’s for dinner?”
(夕食は何?)
のように聞くようにしましょう。
―ネイティブが全てを知っているとは限らない―
いくらその言語のネイティブだからと言って,必ずしもすべてを把握しているとは限りません。
今回の “menu”も,多くの英語ネイティブは
「リスト・一覧」の意味としてしか使っておらず,
「料理そのものを指す」ことを知らない人も多くいます。
それは「その人の経験と感覚」が多くを占めるから。
おそらく言語学者以外,細かい使い方などを説明できる人は稀なのではないでしょうか。
私たち日本人だってそう。
ちょっと上記とはニュアンスが異なりますが,
居酒屋などで「そろそろ帰ろうか」となった時,こういう言葉を聞いたことはありませんか?
「すみませーん,おあいそお願いしまぁす!」
普通によく聞きますよね。
お店の方は,「はーい。」と応えてくれますが,
これ,本来は「お店の人が言う言葉」であり,客から言う場合は
「お会計お願いします」が正しいとされているのです。
「えー,ずっとおあいそって言ってきたし,通じるんだからいいと思うけど。」
そうですよね。
それが自分の経験と感覚。
でも正しくは「お会計」。
今では受け入れられていますが,辞典などで調べてみるとその違いがよくわかります。
「じゃあ,お勘定でいいんじゃない?」という人もいるでしょう。
本来,
「勘定=お金を数えること」
「会計=お金を計算すること」
なので,超厳密には「お会計」が望ましいとされています。(超厳密には!ですよ)
このように,日本語ネイティブの私達でも間違って使っていたり,実際の使い方を知らなかったりする言葉ってあるんですよね。
なので, “menu”という英語は「リスト・一覧」という意味だけだ!と思う人がいても不思議ではありません。
なので,英話で “menu”と言う場合は「料理のリスト・一覧」として使うようにしましょう。
―使ってもOKよ―
私たちが日本で「料理」として使っている「メニュー」という言葉,
「それは和製英語だよ」という人がいると思います。
でも,辞書には英語でも「料理そのもの」を指す,とあるんですね。
だから使っても無問題。
しかし,英語では一般的に「料理そのものを指さない」ということを知識として頭に入れておきましょう。
さて,このように日本には多くのカタカナ語があります。
普通にそれらを使って,コミュニケーションがとれています。
実際,英語では使わないような和製英語もあります。
でも,それらを「間違いだから,使わないで!」というつもりは全くないんですよね。
「英語圏での使い方はこうなんだ。」
ということを「知識」として知っておくということが大事であって,
それを日本語と英語で使い分けることができていれば良いと私は思うのです。
よく,「日本人の英語はこう聞こえる,ここが間違っている」という本やサイト,動画などがあります。
それらを見て「恥ずかしい〜,間違っていたんだ!」と思うのではなく,
「へえ,そうなんだ。」
「日本語と英語で使い分けなきゃな。」
ということを「知る」ことが大切だと思うのです。
その知識があるだけで,英語でのコミュニケーションも違ってきますからね。
同じ英単語でも,英語圏と日本語圏で使い分けができるなんて,それこそバイリンガルみたいじゃないですか!(笑)
でも,序盤に書いたレポーターのコメント。
間違っているカタカナ語があります。
それは何か…わかりますか?
では,その答えは次回ということで(^^)
英語教材開発・制作者
米国留学から帰国後、幼児・児童英語教師を経て、中学・高校英語、受験英語、時事英語等多岐にわたる指導を行い英語教師経験を積む。また、ホテル勤務での実践英語経験を積んだり、カナダにて現地の子どもたちの英語教育にも携わりながら、CertTEYL(世界での児童英語講師認定コース)の認定を受ける。さらに、青山学院大学でTutoringの研究員としても活動。英語講師養成のeラーニングコースの日本での立ち上げメンバーとなる。「現場での経験を教材に活かしたい!」と、現在は英語教材開発会社にて日々教材開発に勤しむ。高校入試用のリスニングトレーニング教材(塾・学校向け)は累計10万部以上のベストセラーとなる。英語教材開発の傍ら、全国の英語教師への研修なども行う。また、土堂小学校(広島県尾道市)での英語指導や、初の民間校長として一躍時の人となった藤原校長(当時:杉並区立和田中学校)が手掛けた英語コースの指導に2年間携わるなど、英語教育に関する多様な分野で活躍。大の犬好きから、ホリスティックケア・カウンセラーなどペット関連の様々な資格を取得し、ペットライターとしても活動中。