先週に引き続き、ニューヨークでトップクラスを誇る、とても大きなマウントサイナイ病院で心臓の検査をした際の話。
マンモス病院ですから、患者さんも、まさにニューヨークらしく、あらゆる人種の人々がいます。そして、病院で働く人々も然り。病院内で、いろいろな国にルーツを持つホスピタルワーカー(医療従事者)3人さんとの会話。
お二人目はラボ・テクニシャン(検査技師)
さてお二人目の続きです。
長い黒髪をきれいに編み込んでいて、目のパッチリしたぽちゃっと可愛いアジア系、30代前半かな。優しい女性のラボ・テクニシャン(検査技師)さん。
フィリピン生まれの彼女。5歳の時、お母さんがツーリスト・ビジネスを始めるので、グアム島に引っ越したのだそう。
コロナがあって、ツーリスト・ビジネスも大変なんじゃないかと思って聞いてみましたが、それほど大変でもなく、何とか乗り切ったそうです。
お話をした際、ちょうど家族旅行のビーチバケーションを考えていたようで、私が日焼けしていたので、「どこか行ったの?」と質問が。
ジャージー・ショア (ニュージャージー州の海岸)に、ボードウォークやテーマパークがあって、子供も大人も遊べる、とってもフレンドリーなビーチがあるのよ、って私の好きなところをリコメンドしました。
高くなくて、清潔でいい感じのモーテルもあるから、そこもご紹介。
彼女はちゃんとメモして、今晩家に帰ったら調べてみる!子供たち、きっと喜ぶと思う!、ってすごいうれしそうにはしゃいでいました。
最近になってだけれど、親御さんたち、頑張って働いて、子供たちをいろんなところに連れて行ってあげたいなって、みんなきっと思うんだ、と、子供のいない私にも少しわかりかけてきました。
(以前の私には、その辺がよくわからなかったので。)
ふと考えてみたら、彼女は、実家に里帰りさえすれば、そこはグアム島で、素晴らしく綺麗な海のあるリゾートであり、親戚の従兄弟たちとかもいて、きっと楽しいわけで、何もニュージャージーの海に行かなくても良いのかも?(笑)とちょっと思ってしまいました。
グアムに里帰り?って思ったら気になったので、グアム行きについて、リサーチしてみました。ニューヨークからグアムへは飛行機で約22時間、そして航空料金は、今月ですが1人往復で約2000ドル。日本円だと30万円越えしてしまうようで。
ひとことで実家に帰る、といっても、大変なことですね・・・。
3人目は核医学ドクター
そして3人目
いよいよ最後の検査、核医学検査。
放射性医薬品をIV (Intravenous Injection / 静脈注射)で投与し、ガンマカメラで画像化することにより心臓の様子を調べる検査です。
つまりこの検査は、心筋のどの部分に十分な血液が供給されているか、心臓のポンプ室が健康で正常に機能しているか否か、を判断するのだそうです。
核医学の白髪のドクターが、ウクライナの方でした。
早口のロシア語訛りの英語で、特にロシア圏内には核医学のドクターは数が多いイメージあり、そのお一人なんだろうなぁと思ってました。
私が日本人だと言うと、ふ〜ん、て言う感じだったのですが、私がガンマ・カメラに入るときに、いきなりポツっと一言
D:「もし自分が日本人だったら、日本という祖国を、僕は一生離れないな」
と独り言のように言ったのです。
カメラの機器自体は動いていたのですが、
私:「ちょっと待って!ちょっと待って!今なんて言ったの?」
D:「いや、もし僕が日本と言う素晴らしい国に生まれたのだったら、絶対に日本を離れなかったと思う。」
と言うので、私はどきっとして、
私:「違う違う、私は祖国を出たくて出てきたのではない。私はジャズピアニストになると決めて、少しでも良いアーティストになるために来た。
ジャズはアメリカの国が産んだもので、New Yorkと言う場所は、そのトップの人たちが集まる場所で、私は自分の人生をそれに賭けたかったんだ」
と。
D:「あー、そうなんだ。それで、どんな結果になりそう?」
私「うん、私はベストを尽くしたよ!全く、この人生に後悔は無い。」
D:「そっか、それはよかった」
そして、15分間、私はガンマカメラ(CTスキャンみたいなやつ)に入ったのでした。
なんか、カメラの中に入っていても、ずっと胸がドキドキしていました。
そうか、このドクターは、好むと好まざるとにかかわらず、自分の祖国が今ぐしゃぐしゃにされているから、仕方なくこの外国で生活をしているんだ。来たくなくても、来ざるを得なかったんだ。
私は日本人で、本当に運が良かった。平和の中でいろんな人生をチョイスできるって、なんて恵まれているんだろう。
1日の検査の中で、いろいろな方とお話をして、世界は広いなぁって、つくづく考えてしまった1日でした。
検査の結果は、後日わかります。無事であることを祈って、でも検査してもらえて、これもありがたい。
ずっと以前だったら、民主党の前オバマ大統領によるアメリカ国民のための保険「オバマケア」がなかったので、私がアメリカでこんな高額の検査を受けられるとは、思いもしませんでした。
時代は良いほうに変わっています。私はそう信じます。
それではまた来週♫
Kayo
平木かよ / Kayo Hiraki
ニューヨーク在住 2017年より、世界屈指の米国グラミー賞の投票権を持つ。同じく米国スタインウェイ・ピアノ公認アーティスト。現在、グリニッジ・ビレッジのジャズの老舗「Arturo’s」のハウス・ピアニストとして、週に5日、自己のトリオで演奏活動を続けて26年目。ニューヨーカーに、スイングの楽しさを届けている。ベースの巨匠、ロン・カーターとのトリオで、ブルーノート・NYへも出演。JALの国際線機内誌でも、海外で活躍する日本人として大きく取り上げられた。また、舞台「ヴィラ・グランデ青山」では山田優がジャズシンガーに扮するシーンでの、ミスティーのピアノ伴奏。カナダ・トロント・リールハート国際映画祭でブロンズメダルを受賞した映画「Birth Day」への挿入曲提供と共に、ピアニスト役で出演。フランス・パリ日本文化会館での館長招聘コンサートや、台湾にて、最大規模を誇る、台中ジャズフェスティバルへの出場など、世界を股にかけるスイング感あふれる彼女のピアノとボーカルには、定評がある。定期的に、くにたち音楽大学ジャズ専修で講義を持つ。